メールの相手は、ゴンだった。

 
――――仕事中だったらごめんね!クラピカとはまだ連絡が取れないんだ。キルアとレオリオと一緒にいるから、時間が出来たらも連絡してね!  ゴン 


 明るいゴンの声が聞こえるようで、我知らずふと唇に笑みが浮かぶ。了解、とだけ返したメールは素っ気ないけれど、あの子たちに救われているあたしが確かにいた。誰かに救われているなんて感情になるだなんて、昔なら考えもしなかったのに。

 蜘蛛の中の毒。蜘蛛の毒。なんだそれ。クロロの言い方だととっても分かりにくいけれど、要するに裏切り者を探せってことでいいのかな?だから情報屋と探偵は違うっつーの!依頼を受けた以上はどうにかするけれど。




 ***33輪***





 蒼い髪の少女の姿が、何年も前に失ったはずのあの子をどうしても連想させた。きっと、生きているのならそれこそあれくらいの年齢だろう。<零>・・・団長が入れ込んでいると聞いていた情報屋が今回の仕事に来ることはそれとなく聞いていたけれど―――まさか、あんな姿をしているなんて。

 どこでなにを知ってなんの意味があってあんな姿をとったのか。答えないならいっそ操作してやろうかと思ったけれど、団長の女じゃ手は出せないし。・・・そしてなによりも。たった数秒の攻防の間にほんの刹那見せた、泣きそうな。


「なにイライラしてんだ、シャル」
「・・・・・・なんでもないよ」


 フランクリンの言葉にそう返して、オレは笑みを浮かべた。


『品物が無い?』
「ああ、金庫の中には何一つ入っていなかった。唯一事情を知ってたオークショニアによると、一度金庫に入れた品を数時間前にまたどこかに移したらしい。
 まるで予めこんな事態が起きることを知ってたみたいにな」
『ほう』


 ウヴォーと団長が交わすやり取りを聞きながら、オレは気球の燃料を調節する。もう少し大きいのにすればよかったかなー。ちょっと狭い。


「背信者がいるぜ」


 緊迫したウヴォーの声にノブナガが「ケッ!」と悪態をついた。


「どうせあの胡散臭ェ情報屋の仕業だろ―――」
「それ、<零>のこと?」
「そうだ。ああ、お前はヤツと面識があるんだったな」


 シズクの言葉に、フランクリンがそう返した。あの情報屋がマフィア側に情報を流したに決まってる、と断言するノブナガの声を遮ったのは電話越しのクロロの声だった。代弁するのが面倒になったらしいウヴォーが、スピーカーボタンを押したようだ。落ち着いた声。全く、プライベートと仕事で雰囲気がガラリと変わるよねクロロって、いや団長って。仕事中にクロロって呼ぶと怒るんだよね。


『それは無いよ、ノブナガ』
「あぁ?」
『あいつがマフィアに雇われ、情報を流している可能性は確かにある。それが仕事なんだから、当然だろう。だが、<情報屋 零>・・・その道では通ってる名だ。見た目と性格はアレだが信頼は高い。そんな筋からタレコミがあれば、もっと厳重に警備するはずだ。また、同じ理由でオレたちのなかに背信者はいないと考える』


 まあ、団員を疑う前によくわからない不穏分子を疑うのは当然なんだけど。意見を切られたノブナガが不満そうに眉を寄せる。でも確かに、見た目が気に入らないのは置いておくにしても<情報屋 零>といえば実力派のデータ・バイヤーだ。蜘蛛の中じゃあそういう立ち位置にいるオレも多少は知ってるし、コンタクトをとろうとしたこともある。

 あのときはなんでやめたんだっけ?法外な契約料や面倒なアクセス・コードの取得も、別に大した問題ではなかったんだけど。クロロが直接繋がりを持ってることを知ったから、だったかな。わざわざオレから関係を持つ必要はないと判断したような気もする。


『――――陰獣だな』
「なんだ、知ってんのか団長」
『ああ。十老頭の実行部隊だろう?情報は得てある』
「なら話は早ェな」


 話を続けるウヴォーと団長。きっとその情報源も<零>なのだろう。確かにやたらと信頼しているようだけど。女として狙っているのもなんとなく分かっていたから、仕方ないのかもしれない。

 フラッシュバックする光景は赤い口紅の酒臭い女と、全てに無関心な男。あれから何年経つんだろう。忘れたと思っていたのに。生まれは知らないけれど、物心ついた時からオレはあの家で養子として育てられていて。顔だけは昔から良いガキだったから、きっと金持ちの道楽だったんだろう、と今になっては思う。子息というよりはペットのように飼われていたから。それでも、あの子がやってくるまではマシな生活をしていたけれど。


――――しゃる、なーく?


 当時5歳くらいだったろうか。蒼い髪をした従妹、まあ血は繋がってないから正確には義従妹になるのか。彼女がやってきてから生活は一変した。昼夜問わずあの子に虐待をふるう女、ますます家に寄り付かなくなる男。あの女にとって、亡くした姉っていうのは依存していた存在だったのだろうけど。日に日にぼろぼろになっていく年下の女の子を見て、さすがになにも思わなかったわけではない。気が向けば逃がしてやったし、手当もしてやった。あのころはオレも純粋だったんだなぁなんて感慨にふける。

 


 初めてオレが人を殺したのも、あのころだし。




 なんて名前だったっけ?あの子。
 ああ、そうだ――――、か。


『追手相手に適当に暴れてやれよ。そうすれば陰獣の方から姿を現すさ』


 団長の言葉に頭を切り替える。さて、これからもうひと暴れ、かな?





*





「・・・・・・おや◆」


 これは、の念の気配かな?ご丁寧に隠を使ってるみたいだけど◇全く面白いね、あの子は。クロロと繋がりを持っているなんて大したものだ。僕はくつくつと喉から笑みを零した。パクノダが不審そうな視線をこっちに送るけれど気にせずに手を振った。呆れられてるのかなあ?別にいいんだけど◆

 天空闘技場の外で一度だけとヤりあった時は楽しかったなあ・・・◇なかなか本気を出してくれなかったけれど、肩を切り裂いたら一気にオーラが跳ね上がって、初めて見る燃えた瞳の色が良かった。能力はいまいちよくわからなかったから、またお相手願いたいんだけど、ベッドの中でもいいから◇


 だけど、と僕は含み笑いを抑えてちらりとクロロに視線を向けた。


 ・・・・・・・・・シャルナークとの関係も気になるんだよね◆


 ただの構成員には興味はなかったんだけど。彼女は確か、あの金髪の彼とも関係があるんだよね?クックック、面白くなってきたかもしれないな。


「ねぇ、クロロ◇」
「なんだ?」
「人と会う約束があるんだ◆行ってくるよ?」
「ああ、構わない。明日の午後6時までに戻ればな」


 クロロの言葉ににやりと笑みを浮かべる。ああ、さすがだ・・・◇こんな一瞬のやり取りすらも隙が無い。


「悪巧みか?ヒソカ」
「もちろん◇」














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130311