――――あくまでもあたしは「情報屋 零」としてのみ、旅団に関わる。 ――――クラピカとの関わりも、契約によって成り立っている。 これ以上は、踏み出してはいけない。 ・・・・・・もう、踏み出せない。 ***31輪*** 「あら。久しぶりじゃあないか、零」 「マチ!」 「なんだい、今回はアンタも参加するの?」 「ん、まあそんなとこかな」 マチとシズク、そしてパクノダとは以前クロロ繋がりで会ったことがあって。「旅団」としてではなくただの友人として関わりがある。ていうか旅団の女性陣てみんな美女ぞろいだよなすごいわ。 「顔を出すなんて珍しいね」 「今回は特別にね。かなりの対価を貰ってしまったから。その代わり旅団全員分のデータは頂いていくから、そのつもりでね」 「零のそういうところは変わってないわね」 旅団とはすでに半分ほどのメンバーは会ったことがあって。女性団員の3人、そしてウヴォーギン、ノブナガ。この二人に関しては、クロロにけしかけられたことがある。―――思い出したくない一夜だけれど。 「じゃあ今回は全員に会うんだね、変態もいるから気を付けてね」 「・・・・・・エート、変態?」 「うん、絶対はタイプだから」 「あいつは節操ないだけさ。関わるとロクなことがないよ」 「・・・・・・・・・おおお」 ソウイエバヒソカモリョダンダッタヨワスレテタ。 思わず遠い目になりながらあたしは廃墟の端っこに腰かけた。そろそろあいつらも来るよ、というマチの言葉に、強いオーラの集団が入口付近に出現したのを感じる。どくん、と心臓が嫌な音を立てた。柄にもなく緊張しているのか。 知っている。このオーラ。この感覚。―――懐かしいとすら感じられないほどに記憶している。 「はーっ、しかしまぁ、よくこんなとこあったなァ」 「なんかホームに似てるね」 「うるさいねノブナガ。さきからブツブツ、ちょと黙るよ」 サムライ風の恰好を着崩しながら出てきたのはノブナガだ。入ってきてあたしを見て目を丸くする。長い髪のモップの塊みたいなちっさいのがコルトピで、黒髪の物騒なオーラを纏っているのがフェイタン。データでだけ知っている二人だ。フェイタンはあたしをみて胡散臭そうに鼻を鳴らした。 「誰ね、コイツ。ワタシ知らないよ」 「≪情報屋 零≫。団長の女だ」 「女じゃねーよ。勝手なこと言わんでくれるノブナガ?」 非常に不名誉な呼称に思わず噛みつく。敵対心丸出しのフェイタンはあたしに向かって殺伐としたオーラを向け続ける。それを気にしながらも無視して、入ってくるメンバーに意識を向ける。 「いやー腹減ったぜちくしょう。まず飯屋襲おうぜ」 「食ってこい、それくらい」 「何を奪うか、まだ聞いてねえんだぞ」 大声とともに現れた・・・なにアレなんの帽子?あんなんデータにあったっけ?センス無っ!えーと、たぶんフィンクス・・・かな?の隣のでっかいのがフランクリンで、包帯グルグル巻きがボノレノフ。―――なかなかあたしの「本命」が現れない。 オーラだけは感じているから、すぐ近くにいることは確かなのに。 「あいつは?」「ああ・・・」なんて、あたしを見て交わされる言葉と敵意のこもった視線。それはいい。もとからアウェイなのはわかっているから。仲良しこよしな関係なわけじゃない。心臓が痛い、呼吸が浅くなる。 「ちょっとウヴォー!」 どくん、と心臓が一際大きな音を立てる。 「あンだよ!」 「オレのケータイだろ!使ったらもっと優しく扱え!」 「うるせーなあ、ちゃんとこうやって丁寧に・・・」 「あああああもう返せ筋肉馬鹿!!」 金色に近い明るい茶髪の青年が、入ってきて。 その碧い瞳が、あたしを。 「・・・・・・・・・・え」 捉えた。 目が合ったのは時間にしてほんの数秒程度。彼の視線はすぐにあたしを通り過ぎて仲間とひとつふたつと言葉を交わしていく。どくんどくんと耳鳴りのしそうなほどに心臓の音だけが高鳴って、だけど悟られないようにと乾いた唇をなめる。コツン、と高い場所から足音が響いて、見上げれば黒コートにオールバックの青年が立っていた。威圧的な視線でぐるりと、廃墟の中を見回していく。 「全員揃ったか?長かったな」 「いいえ、まだよ団長。4番が来てないわ」 「ゴメンゴメン◆遅くなっちゃった◇」 のんきな声とともに独特の衣装で現れたサイコ野郎は、視界に入ったあたしを見事にスルーしてさっさと部屋の高いところに飛んだ。隅の方から舌打ちが聞こえて、少なからず歓迎はされてない様子がうかがえる。・・・よそ者はあたしだけではないようだ。 「あの野郎・・・」 「よせ、ノブナガ。―――本題に入ろう」 一瞬にして強い威圧感がこの場を支配する。ビリビリとオーラを感じて、あたしはひっそりと息をのんだ。―――「旅団の団長」としてのクロロに対峙するのは、これが初めてだ。圧倒的な支配力。普段の優男然とした様子からは想像もできないほどの。 これが、クロロ・ルシルフル。 反射的に浮かんだ金髪の彼の姿を振り払うように一度首を振って、視線をクロロに戻す。いけない、職務中だ。油断なんか一切できない場所にいるんだから。 「全部だ。地下競売のお宝、丸ごとかっさらう」 「本気かよ団長・・・地下競売は世界中のヤクザが協定を組んで仕切ってる。手ェ出したら世の中の筋モン全部敵に回すことになるんだぜ・・・!?団長!!!」 「怖いのか?」 「嬉しいんだよ・・・!!命じてくれ、団長!今すぐ!!」 「オレが許す。殺せ」 邪魔するものは、残らずな。 ほんの一瞬だけ、振り向いた「彼」と視線が交差する。 そうしてあたしたちは、ようやく10年ぶりの再会を果たしたのだった。 * 「任務御苦労。早速次の仕事だ」 ボスとは名ばかりの少女の護衛を済ませ、指示通りにホテルの一室に集合した。くだらない遊びに付き合いながらも、一向に連絡の取れない青い髪の少女のことが頭によぎってしまう。―――契約上、先約相手の情報について聞いてしまうと、そこにも対価が発生してしまうために下手なことは聞けなかった。 私の差し出した対価には限界があり、彼女と取引ができるのもその値までだ。これ以上に提供できるものがなく、無駄遣いはできない。貴重な≪零≫との繋がりだ。絶たれるわけにはいかない。 「地下競売で次に述べる品物を競り落とす。コルコ王女の全身ミイラ。俳優ソン・リマーチ使用済みティッシュDNA鑑定書付き、クルタ族の眼球、通称緋の目。以上だ」 瞬間的に冷えていく脳裏と対照的に一気に目の前が熱くなり視界が緋くなる。黒のコンタクトをしておいたために気付かれることはないだろう、それでも溢れ出しそうな憎悪と嫌悪感を無理やり押さえつけながらリーダーを見る。 「今夜午後9時、セメタリービルでコルコ王女のミイラが競売にかけられる。イワレンコフ、トチーノ、ヴェーゼ、競りはお前たちに任せる」 競りに参加するメンバーと別に、ビルの監視として人員が割り振られていく。受け持ったのは「正面口監視」の任務。もしも――――もしも「奴ら」が襲ってくるのであればこんな警備など何の意味も果たさないのだが。 ・・・考えすぎか。 、いや≪零≫に連絡するか迷い――― ――――結局、指はコールを鳴らさなかった。 ←BACK**NEXT→ 20121014 |