ざわめく繁華街にあたしは一人で噴水の縁に座って、声をかけてくる男たちを笑顔でかわしながら、ゆっくりと伸びをした。


「・・・・・・さて」


 ひらひらと戻ってくる青い蝶たちに手を伸ばし、ゆっくりと立ち上がる。


「仕事、しますかね」




 ***30輪***




 青い髪を頭の上で結び、ごくラフな格好であたしは呼び出された場所へと向かう。タイトなジーンズに裾が長めのTシャツ、足元はパンプス。えぇそうですよやる気ないですよ何か!ここんところ辛いことばっかり会って精神的に参ってんだよ!!イライラとそのへんに転がってた缶を蹴ったら壁に当たって跳ね返ってきた。痛い。


「この仕事終わったら、引退しようかな。情報屋」


 はぁ、とため息つきながらそう呟いて、いやいや駄目だ駄目だと首を振った。少なくとも師匠を見つけるまでは情報屋をやめるわけにはいかない。こういう仕事をしてなきゃあの人の情報などちっとも得られないのだから。

 だけど。「彼」をほぼ確定的に見つけられた以上、無理をしてこの仕事を続ける理由などないのだ。ゾルディックの専属情報屋は魅力的だし安定もしているけれど、そもそもイルミの恋人だったから、という理由で続けていたところもあった。別れたいま続ける理由なんてなくて。




 転職しようかなあ。なんだか疲れちゃった。




おいおっちゃん!もうあと3000ジェニーは安くしろよ!!タケーってだから!!
「勘弁するネ!!もうこれ以上はまけられないネ!!」
「そこをもうひとつ!!助けると思って!!まだいけるっておっちゃん!!」


 ・・・・・・・・・・なんか懐かしい声がするんだけれども・・・・・・?


「あれ?じゃん!!」
!?わぁ、久しぶりだね!!!」


 ぱぁっと明るい声が飛んできて、あたしは思わず呆然と彼らを見た。ゴンとキルアが飛びついて来てあたしをぐいぐいと引っ張る。お前ら何してんのマジで。こんな往来で。


「あの値切りスーツはあれかレオリオか」
「ああ。すげーよな、とうとう十の位で値切り始めたぜアイツ」
「なんかギャラリーも出来てきちゃったね」


 恥ずかしいなレオリオ・・・!

 結局なんだかんだ言いながら元値のほぼ半額にまで値切ったレオリオに、あたしは感心するんだか呆れていいんだかよくわからずに結果引きつった笑顔を向けておいた。まぁ確かに一般市場の数%は高めの元値だったけどさ・・・。ある種の才能だ。才能。


「バッカ値切んのは常識だろ!言っとくが本気のオレはあんなもんじゃねーぜ!ちなみにオレは同じ機種を8万29ジェニーでゲットした!相手がもう帰ってくれって言ってからが本当の商談だぜキミ達!」
「ある意味オークションから一番遠いキャラだよね」
「全くだ」


 頷き合うゴンとキルア。あたしは苦笑でとりあえずその場を流す。なんだかなあ、ぐたぐた悩むのも馬鹿らしく思えてくる。こいつらといると。ふとその発言に気になってゴンとキルアを見た。あれ、そういえば身長ちょっと伸びたかな?


「あんたらもしかしてオークション出るの?何か欲しいのでもあった?」
「あ!あれ?、ホームコードの伝言聞いてない?」
「ホームコードの伝言?・・・いやごめん聞いてない」


 しまった、仕事の方のホームコードばっか使っててプライベートの方を全然気にしてなかった。ゴンの黒い瞳が興奮した色を帯びてあたしを見上げて笑う。


ジンの!手がかりが見つかったんだ!
「・・・なんだって?」
「それがちょっと気になるものだったから、本当はの力も借りたかったんだけど繋がらなくて」


 ・・・マジか!


「8月にクジラ島に帰ったんだけどね、ミトさん―――オレのおばさんが、ジンから預かったものがあるって渡してくれたものがあるんだ。それが、ええと・・・なんとかっていう・・・ええっと・・・」
「あーもう!、ジョイステは知ってるだろ?」
「うん」


 ジョイステ。ジョイ=ステーション、テレビゲームの一つで、もう結構古い。ただしやったことはない。ゲームに興味は無いから。ゴンの言葉を引き取って説明しようとしたキルアに頷く。


「そのロムカードと、不思議な文字が書いてあった指輪が箱に入って置いてあったんだ。カセットテープの伝言と一緒に」
「ロムカード・・・?」
「ああ。『グリードアイランド』だって」
「グリードアイランド・・・!!」
「やっぱり、は知ってるよな」


 もちろん。


「昔、その言葉は師匠から聞いたことがあったような・・・?幻のハンター専用ゲームのことでしょ?」


 グリードアイランド。データストックにもあったはず。歩きながら考えにふけろうと腕を組もうとしたそのとき、あたしの思考をレオリオの声が遮った。


「―――ところでお前ら、念はもう習得したんだろ?」
「ああ、バッチリだぜ」
「レオリオは受験が終わってから覚えるんだよね?」
「・・・あたしはもともと、使えてたからね」


 レオリオは意味深げにサングラスをきらめかせてこう答えた。


「いや、もう覚えたぜ」





*




 仕事だからとあたしは3人と別れて、そのまま言われていた「廃墟」へと向かう。Tシャツの裾がひらりとはためいて、小さな汚れた袋が風に乗って飛ばされていった。繁華街からそう遠くない場所に、人の気配をちらりとも感じられない場所があるだなんて。そんなの、驚くことでもなんでもないかもしれないのだけれど。


「・・・、けほ」


 埃っぽさに咽る。がらりと足元のコンクリートの欠片が落ちた。開けた場所で、一人立っていた男に近づいていく。パンプスの乾いた足跡が響く。


「・・・クロロ」
「来たな、。―――いや、『零』」


 オールバックに大仰なファーのコート。背中には大きな逆十字。横に立つのは抜群のスタイルをセクシーなスーツに包んだ女性。パクノダだ。


「久しぶりね、『零』」
「そうだね、パクノダ。さてクロロ、依頼は?」
「今回は、大仕事だからな。依頼は――――」


 脳裏に一瞬にして閃いた金髪の彼の姿を振り切るようにあたしは頭をふって、あたしは頷いた。蝙蝠のように安定しない自分の立場がみえて、そっと唇を噛む。


「・・・わかった。契約は成立してる。私に断る理由は無い」
「・・・ふん」


 満足げに笑うクロロに、あたしはぞわりと背を悪寒が走るのを感じて手のひらを握り締めた。















 ――――蜘蛛の中の、毒を探し出せ。



















 ←BACK**NEXT→





120420