「んー・・・?」


 目が覚めてぼんやりした頭の中、オレはぼーっとしながら体を起こした。どこだここ。数秒で昨日の記憶がよみがえってきて、オレはああ、と一人頷いた。の部屋に押し掛けて、んでそんまま寝ちゃったんだっけ。


「あ、やべ。ゴンと約束して・・・」


 そしてオレは、ものすごい至近距離で寝ている姿を見て完璧に硬直した。




 ***25輪***




「・・・・・・は!?え!?」


 いくらがオレのことを、そりゃそういう対象として見れてないことは知ってたけど、だけど、いくらなんでも一緒のベッドで寝ていいのかよ!!下着姿とかで寝てなかったのが唯一の救いのように思えてくる。スウェット姿に乱れた青い髪、警戒心ゼロの珍しい姿。閉じられた瞼のまつげが長くて、肌も白くて、ってちょっと待て!つーかマジで襲うぞ!

 硬直からぎしぎしとものすごくぎこちなく動き出して、オレは起こさないようにそーっと、はだけてたの毛布を直してやろうとして、そんで、




 全身が総毛立つような凄まじい殺気を叩きつけられた。




「――――ッッ!!うッ、!?」
「ああ・・・ゴメンキルア。おはよ」


 反射的にベッドから飛び降りて臨戦態勢になって、その緊迫したオレの空気はの呑気な声がぶった切った。どくんどくんと心臓がまだ大きく脈打つままだ。それなのにはといえば、呑気に髪をぐしゃぐしゃやって、「んあー、寝すぎたー」なんて言いながら毛布を直しだした。なんだ、それ。・・・なんなんだ、今の。


「ん?・・・いや、だからゴメンってキルア。警戒解いてよ」
「・・・・・・・・・ああ」


 苦笑しながらのの言葉に、オレはようやく息をついた。




*




 それでもまだ引きつったままのキルアの顔を見て、あたしは困ったなあと頭を掻いた。修行中、寝てたときにイロイロされてたおかげで、寝てる間は相当に過敏になってるらしくて。今やったように、反射的に殺気を叩きつけてしまうことが多々あった。気をつけてはいたんだけど、さすがにこんな至近距離に誰かが寝てるなんてことは久々だったし。師匠とかカイト兄には叩きつけたってなんともなかったしなあ。


「うーん、ひとまず朝ご飯でも食べてく?」
「・・・ああ」


 ぎこちなく頷いたキルアは、ゆっくりとテーブルまで歩いてって座った。冷蔵庫を開けて、なにか作ってやるかと思案しながら漁る。長期間滞在ホテルだからキッチンだって完備だ。別にルームサービス取ったっていいんだけど。


「ねーキルアー、ベーコンとオムレツくらいでいいー?」
「・・・って料理出来んの?」
「失礼な、2次試験で通過したのあたしだけだったじゃんよ」
「・・・・・・あー、そーいやそーだっけ」


 一応自炊して生きてるわけだからね。そりゃ豪勢なものは作れないけど、普通レベルの料理なら出来る。カチャカチャと手際よく作業してると、ピピピピと軽い電子音が鳴った。「あ、ゴン!悪ィ!」というキルアの応答が聞こえる。相手はゴンか。


「ホラ出来たよ、運んでー」
!なあ、ゴンも食いたいってさ!呼んでいい?」
「・・・・・・・別にいいけどさあ」


 「だってよ!ゴン!早く来いよ!!」とキルアが明るい声で言って、多分ゴンはその言葉に「うん!」とか返して、全速力でこの部屋に向かってる、んだろうなあ・・・って朝食追加じゃんかもっと早く言え。もう一度冷蔵庫から材料を出す。間に合うかなー・・・。

 そんなことをやってるうちにゴンがやってきて、まるで自分の家のようにキルアが迎い入れる。一応あたしが借りてる部屋なんだけど。


「もー、キルア!どこ行ったのかと思ったよ!!オレ、部屋まで見に行ったのにいないし」
「悪かったってば、ゴン!いいから食おうぜ!!」
「お前の部屋か、ここは!」
が作ったの!?すごい、おいしそー!」


 ゴンが目をキラキラさせてそう言った。・・・いや、ベーコン焼いてオムレツ焼いて、ちょっと野菜を添えたくらいなんだけども。


「わー!美味しいっ!」
「へー、結構美味いじゃん」
「はいはい、つーかキルアあたしの分まで取るな!!」


 この2人と食うとさながら戦場のようだ。物凄い速さで彼らの胃に消えていくベーコンとオムレツ。ちゃんとお皿分けたのに容赦なくあたしの皿まで手を伸ばしてくる。こ い つ ら ・・・!!

 と、そのとき。ピピピピピピ、って電子音。今度はあたしのケータイだ。着信は・・・未登録の電話番号。え。チョット嫌な予感しかしない。え。ちょっと。


「・・・もしもし」
「お早う◆」


 やはり貴様かあああああ!!


「何の用・・・?」
「近くにいるのはゴンとキルアかい◇朝から仲良しだね◆」
「・・・だから、何の用?」
「ああ◇そうだった◆の試合登録しといたから迎えに来たよ◇」
「・・・・・・は!?」
「うわああああヒソカああああ!?」


 ゴンの悲鳴に、ばっ!とそっちを振り向けば、窓の向こうのベランダに実に爽やかな異常な笑顔で「はァい◇」とヒソカが立っていた。


ッッぎゃあああなんなのなんなんだようわああああああ出てけ――――――――ッッ!!
「わあああ落ち着いて!!」
「ヒソカ!?何しに来たんだ!!」


 さすがに若干半狂乱に陥って、手当たり次第にその辺のものを投げようとして椅子を掴んだその手をゴンが慌てて抑えた。キルアが警戒心丸出しでヒソカに対峙する。もうあたし今日中にここ引き払おう。別のホテル行こう。ストーカーって怖いわ、ほんと。


「嫌だなあ◆そんなに警戒しなくていいのに◇」
「何しに来たんだよっ!ヒソカっ!!」
を試合に登録してきたんだよ◇200階に入れといたからさ◆でも本登録は本人連れてこいだって◇さ、行こう◆」
「勝手すぎるだろなにしてんの!?あたし仕事あるんだってば!」
「別に試合出てたって出来るくせに◇」


 そ、その通りなんだけど!そしたらヒソカはゴンとキルアの方を向いて、「が登録したら2人も試合できるかもよ◇」・・・おおおお前えええ!!その瞬間にゴンとキルアが完全にヒソカの味方に回った。薄情者!!


「だってそんな、入れといたって・・・!どういう・・・!」
「ボクが『この子200階に入れて◇』って言ったらものすごい勢いで頷いてくれたよ◆」


 係員の人にすごい勢いで同情した。怖かっただろうなあ。


「ちょっとゴン!キルアっ!あんたたち朝ご飯ご馳走したのに・・・!もう2度と料理作ってやんないから!」
「えッそれはヤだ!!」
「ちょっとゴン◇とヤりたくないの◆」
言い方がキショいやめんかァ!!
「ハイハイ◇行くよ◆」
「イヤだってば――――」


 拒絶のつもりで突き出した腕をそのまま捕えられ、ぐいと引っ張られる。耳元に寄せられた唇からあたしに告げられた、のは。


「君が欲しがっている情報をあげるよ◇キミの従兄弟について◆どうだい◇」


 息をのんだ。思わず目を見開いて、勢いよく彼から離れる。ゴンとキルアは驚いた様に目を見張った。


「・・・アンタがあたしの知らないデータを持ってるとは思えない」
「キミの情報収集には大きな弱点があるんじゃないかい?」
「っ!? な・・・に、それ」
「気づいてはいるんだろ◇は頭がいい◆知りたかったら素直についておいで◇」
「・・・・・・ッ!!」


 待って、よく考えろ。あたし以上の情報を、持っているわけない。この≪零≫が手を尽くしても手に入れられなかったデータを持ってるわけ、ない。というかヒソカが持ってたとして、あたしにそれを伝えるメリットはなんだ。こいつはただあたしと戦いたいだけだろう、嘘だってことも充分に考えられる。――――ああ、ヒソカに関しては完全にそういうトコ読めない。相性最悪かもしれない。


「・・・オレは単純に、と戦いたいなあ」
「オレも試験のときは手ェ抜いてたの知ってたし。ちゃんと一回戦いたいとは思ってんだけど」
「・・・・・・・お、お前ら・・・・・・」


 がっしりと腕を2人に捕えられ、あたしは顔を引きつらせた。





















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