「あれ!?―――!!」
「ゴン?なに言ってんだよ、がここにいるわけ・・・ってはァ――――!?


「は、ハロー2人とも。お久しぶり」
つーか久々ってほど経ってねェよ!!




***24輪***




「なんでンなとこにいるんだよ!」
「なんで、ってまあ、仕事?正確にはもう終わってるんだけどね」
「じゃーなんで帰らねえんだよ」
まるであたしに会いたくなかったみたいな言い方だなあねぇキルア


 闘技場の休憩スペースとでもいうところで、自販機でジュースを買ってたそのときに飛んできた聞きなれた声。生意気に唇を尖らせたキルアの頭をぐしゃぐしゃやって「ごめんごめんごめんって!」あたしは唇に笑みを浮かべた。汗で火照った2人の姿にどこかホッとする。


「2人ともヒソカにはなんにもされなかったんだね?よかった」
「え?」
「ゴンとキルアが200階に来たとき。ヒソカがものすごく楽しそうに殺意バラ撒いてたからどうなる事かと思ったけど、なんともなかったならよかった」
「知ってたの!?」
「たまたま会っただけ。けど、その骨折は・・・」


 ゴンの首からぶら下がった布に吊られた腕を見る。これは、とゴンが口を開いたのをキルアが引き取った。聞くに、前回の試合でぼこぼこにされた末の結果らしい。・・・ヒソカの洗礼は受けないですんだみたいなのに、どういうことだ。


「こいつが念使えねーのに試合したいって駄々こねてさー!これが結果!つーかなんでは見てなかったのさ、試合」
「ああ、仕事中だったのかも」
「ふーん。ま、いいけど」
「ゴンくん?キルアくん?」
「あ!ウイングさん!」


 仕事中、の言葉に、若干腑に落ちないような表情を浮かべたキルア。まぁ確かに仕事ではなくてただ単純にあたしの私事なのだけど。多分、見かけた「あの姿」を追いかけて探してたころだ。飛ばした念蝶はなにも有力な手掛かりを残してはくれなかった。どういうことだろうか、単純な人探しなら至極簡単なはずなのに。手がかりが少なすぎるというのもあるのだけれど。

 そう思っていたそのとき、落ち着いた男性の声が飛んできた。ゴンにウイングさん、と呼ばれたその男性は、空手少年みたいなチビッ子を連れている。なんというのか、草食系男子?メガネにズボンに入れ損ねたシャツ、パッと見はすごくどこにでもいそうな人だ。・・・けれど。


「あ、!この人はウイングさんて言って、オレたちに念を教えてくれてるんだ。でこっちはズシ!一緒に修行してるんだ!」
「ウイングです。どうぞ、よろしく」
「ズシと申しますッス!オス!」
です。どうも」


 ペコリとお辞儀をして合わせた視線。ゆるぎない隙のなさ。ゴンとキルアに念を教えているというのも頷ける。


「お若いのに・・・強いですね。さん」
「いえ、どーも。ウイングさんも、強いですね」
「そんなことはないですよ、私はまだまだ」
「強いんスか!?すごいッス!さすがお二人のお友達っス!」
「・・・えーと、ズシくん?ありがとー」


 ウイングさんの腰あたりできらきらと目を輝かせる少年に、あたしは思わず苦笑しながら礼を言う。なんだこの子、ゴンに似た空気を感じるぞ。可愛いな。うん。


「ねえ、は試合しないの?」
「うん。登録してないからね」
「えー!オレ、とも戦ってみたかったなあ」
「はは、もうちょい念を磨いてからおいで」
「ええー・・・」


 本気で残念そうにゴンが言うから、あたしは腕を組んだ。戦ってみたい、ねえ。確かにキルアもゴンも、まだどうやら纏が出来るようになっただけらしい。そんな状態じゃ流石にどんだけやったって相手にはならないのだけど。


「そうだね、気が向いたら相手したげるよ。ハイこれケータイの番号といま泊ってるホテルの住所と部屋番号。あたしが帰るまでに連絡できるといいね」


 言いながらゴンに渡す。もうしばらくだけ「彼」を探そう。というか何故あたしの≪異界の航海者(サファイア・シーフ)≫が通用しないのか。その原因だけは明らかにしたいし。


「本当!?オレあと2ヶ月間修行禁止されてるんだけど、それまでここにいてくれる?」
「ああうん2カ月ねいいよいいよ―――って2カ月!?アホか長いわ嫌だ帰る!
「ええぇぇそんなああ!!あ、もう3週間経ってるからあと一か月とちょいだよ!」
「でも長いわ!一ヵ月!?アンタね、あたしそんなに暇じゃないの!」


 いや仕事が入らない限り暇ではある、けど。あと1カ月もの間仕事が入らないとは限らないしね。


「あーも、分かった!じゃあ次の仕事が入るまでここにいてあげるよ」
「わかった!仕事が入らないようにしてね、!」
なんでよあたしが生活できなくなるでしょうが!!


 ツッコミどころ満載過ぎるゴンに返してあたしは踵を返した。・・・そして、部屋に戻っていくらなんでもびっくりすることになる。





*




「よ。
「・・・キルア。早すぎるだろ来るの」
「なんで?別にオレはゴンみたいに修行禁止とか受けてねーもん」
「・・・・・・・なに言ってんの、ゴンにつきあう気満々のくせして」


 部屋に戻ると悪戯っぽい顔したキルアがドアの前で立っていた。さすがにドアは破れなかったらしい。


「よかったねキー破らなくて。ここハンターとかがよく使う裏世界お抱えのホテルだから、何が起きてたかわかんないよ」
「分かってるよ、そんぐらい。仕事のときもこういうことあったし、なんか嫌な感じしたし」
「まーそれはさすがだね。入れば」
「さんきゅ!」


 カタカタとキーを解除してドアを開ける。足音軽く部屋に飛び込んできたキルアは、迷わずベッドに一目散にダイブした。ってアホかお前は!


「ちょっとコラ!なにしてんの!!」
「いい布団だよなぁ、さすが『零』の泊るホテルってか」


 『零』の言葉にあたしは一瞬思考を止めた。その単語がいまここで出てくる、とはね。なるほどキルアがここに来た理由がなんとなくわかったような気がしてため息をついた。ドアにキーをかけなおしてあたしは自分のパソコンを置いたデスクの椅子に腰かけた。くるりと椅子を回してキルアと目を合わせる。


「なにしにきたの。キルア?」
「・・・へへ」


 クッションを抱えてキルアはあたしを見た。猫みたいだな、相変わらず。


「なんではここにいるのかな、って思ってさ?仕事、終わってるんだろ?」
「・・・気まぐれ、じゃダメ?」
はそんなことしねーだろ。そもそも仕事の依頼人って誰。―――ヒソカだったりしてな」


 うんその通りだったりするけど。とは答えずに、あたしはちょっと考え込んだ。・・・別に言ったって構わないんだけどね。言って困ることじゃないし。説明が面倒なだけで。そういえばそもそも、キルアは知ってたんだったっけ。あたしの、家族のこと。


「うーん・・・依頼人については言えないけど。ここにいる理由、ね。キルアには話してなかった?あたしさ、小さいころに火事で一家全滅で親戚の家に貰われてるの」
「・・・え、オレ初耳・・・」
「そっか。その親戚も事故でサヨナラ。その後師匠に拾われて―――ってのはいいね。そのとき、あたしにとって唯一の血縁ていうのかな、助かった従兄弟がいてね。その人を探してるの」
「・・・へぇ。―――じゃもしかしてその人を見かけたってこと?」
「・・・・・・・うん、そう。探したんだけど・・・ね、いまのところ手がかりはゼロ」


 苦笑とともにくるりと椅子を回してパソコンの画面を見つめた。何故見つからないんだろうか。そりゃあネットと違って3次元で≪異界の航海者(サファイア・シーフ)≫を使えば範囲には制限があるけれど、何日もかかって何も手がかりが無いのはおかしい。そもそももうこの周辺にはいないのかもしれない。それならなんの情報が入らないのもうなずける。だって目標がすでにこの場所にいないのだから。

 だけど、とあたしはパソコンを起動させながら思った。何年も探してきて、ようやく端っこを掴んだようなこの感じ。無視するわけにはいかない。ただのあきらめが悪いやつなだけかもしれないのだけど。


「―――そんだけ?」
「は?」


 拍子抜けしたようなキルアの声に振り返る。クッションを抱えたままの格好で目を丸くしたキルアを見て、あたしもぽかんと目を丸くする。え、それ以外に理由なんてないよ、今回は。


「・・・そんだけ、だけど?」
「オレんちとか、イル兄からなにか言われたんじゃねーの?」
「へ?いや、なにも」
「――――ッなんだよ、あーもー!警戒して損した!バッカみてー」


 ・・・あ、そうか、つまり。


ってオレんちの専属情報屋っつってなかったっけ?そんでオレ、てっきり・・・なんか言われてきたのかと思った」
「いや情報屋って『情報屋』だよ?なんでも屋さんじゃないんだからさ。そういうの、専門外だから関係ないし」
「〜〜〜ッッんだよも―――!!」


 うああああと言いながらベッドの上を転がるキルア。そこあたし今晩寝るとこなんだけど。こいつベッドメイキングやり直してくれんのかな。くれないよな。やめろよ。


「ちょっとキルア。何時までここにいる気。帰んなさい、お姉さん襲うよ」
「・・・へ。それ逆じゃねーの、オレが襲うほうだろ普通」
「そこ問題じゃないんだけど。帰れっつってるの」
「えー」


 キルアは不満そうにクッションをばふばふやる―――と思いきや、ひゅん、と体を浮かせてあたしの目の前に降り立った。挑戦的な笑顔が近い。だけど、とあたしは視線をパソコンへと移してから席を立った。


「5年は早いよ、あたしを誘うには。出直しといで」
「え、どこ行くんだよ?」
「風呂。だから早く帰りなって。覗いたらマジでぶち殺すからね」
「・・・・・・」


 で。風呂からあがって、あたしは、ベッドの上で悠々と爆睡するキルアを見つけて頭を抱えることになった。こんなに気持ちよさそうな寝方されたら起こせないでしょうが・・・。全くもう。とりあえず端っこに追いやって、あたしは布団を一枚奪ってそのまま寝た。なんかツッコミどころ満載だったような気がしてならないけど、もういいや、疲れた!寝る!おやすみなさい!
















 ←BACK**NEXT→





110326