「・・・・・・・・・・・」


 泣きたい。





  ***19輪***





 列車を降りて飛行船へ乗り込んで。それはいいです。まあね、当然の経路だよね。ほらあたし移動系念能力とか便利なもの持ってないし?その辺使うくらいは、人間だし、当然だよね。ゾルディック行きだったら専用の飛行船とかあるんだけど、今回は別依頼だし、疲れてたしめんどくさかったから一般用のチケット買ったんだよね。

 それがよくなかったんだろうか。


「怪しい動きをしたやつぁ容赦なく殺すからな!!黙って座ってろァァ!!!」


 なんで飛行船テロに巻き込まれてるんだあたしは。


「・・・・・・」


 最悪だ。ねえちょっと急いでるんだけど、あたし。なにこれ運が悪いの。大きくため息をついてあたしは額を押さえた。なんだか最近ため息ばっかりだ。幸せが逃げていく・・・。


「おいそこのアマ!!なにやってんだ、さっさとケータイ出しやがれ!パソコンもだ!!」
「あーもぉ、うるさいなぁ」
「なんだと貴様ァ!」
「はいはいゴメンねちょっと黙ってて」
「なんだ、とぅぉあっ!!?」


 殴ろうとしてきたその手を捕えてくるんとねじり、重力と反動を利用して体ごとひっくり返して首に肘を叩き込んだ。無様にテロリスト1人目・・・めんどくさい、テロAさんはあたしの足元に転がった。・・・普通の一般のテロリストってことか。そりゃそうか、一般客室だもんねえ。ちなみにこの間、あたしは座席に座ったままです。シートベルトも外してません。右手一本だけしか使ってません。・・・どんだけ弱いんだよいくらなんでも。

 ざわりと客席がどよめいた。そのままあたしはシートベルトを外して立ち上がる。近くにいたスーツの男性が慌てた声で聞く。


「あ、あんた何者なんだ!?」
「・・・ハンター協会の者ですので。ご心配なく」


 おお、と安心する声が広がる。ハンターってだけでこんなに信用されるものなのか、便利だなー。そしてあたしはぐるりと客席を見回した。異変に気付いたらしいテロB、テロCがやってくるけど瞬殺で返り討ちにして(殺してないけど)隣の客室へ移る。だけどそこには。


「・・・・・・か?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・なにやってんのアンタ」
「それはオレのセリフだ。お前もこれに乗っていたのか」
「いやなんでアンタがコレに乗って・・・ま、いいか聞いてもしょーがないね」
「そうだな」


 そこに堂々と立っていたのは、そう、あたしがこれから会いに行くはずだった依頼人、クロロ・ルシルフル。なんで幻影旅団団長がこんな普通の飛行船に乗っているんだだとか、その周囲に転がっている(多分)テロリストは死んでないですよね?とか、聞きたいことは山のようにあったけれどあえてそれを無視して、あたしは彼に近寄る。


「久しぶりだな」
「そうだね。って腰を引き寄せるな!顔を近づけるな!!」


 ひらりと閃いた右腕があたしの腰を掴んだ。一気に近づく顔。やめろや。拒絶のつもりで両手でクロロの顔をねじ曲げた。ごきりと嫌ぁな音がする。彼は残念そうにあたしを開放する。


「仕方ないね。とりあえずこの状況をどうにかしないと」
「どうにかしないと?珍しいな、自分のことにしか興味のないお前が」
「そう?少しくらい人のために動いてあげようかと思ったっていいじゃん」
「お前が言うならいいが。どうせ操縦席を押さえてるのが首謀者だろう、そいつを押さえればいいんじゃないか」
「そのつもりだけど」


 そう言いながら、あたしは後ろから撃ち込まれた銃弾をひとつ掴んで裏手で投げ返した。「ぎゃふあ!?」と無様な声。「なんだコイツら!」「撃てェェ!!」悲鳴が上がって、誰かが「頭を抱えて椅子の後ろに隠れろ!!」と叫ぶ。クロロは無造作に腕を払ってテロの何人かを昏倒させた。さすがだ。


「人のために動くだと?」


 一気にその場を鎮圧させてから、クロロは酷薄な笑みを浮かべた。


「お前がか?違うだろう。何が目的だ」
「なにそれ。どんだけあたしはヒドイ女だと思われてるわけ?」
「答えろ」
「・・・・・・」
「死なれると困る人間がここに乗っている。違うか」


 ため息をつく。惜しいとこついてるけど、違う。そっと彼を見上げる。


「フロットフライト201便レッドレイン号」
「なに?」
「あたしがこの飛行船に乗った理由。1221年6月21日、フロット社製作の飛行船でレインと銘打たれた船が作られた。とある貴族の気まぐれで作られて、ブルーレイン・ブラックレイン号と合わせて3台しか作られなかった船。今に至るまでに残り2台は喪失され、現在残っているのはこの船のみ。この船に乗っている人間なんかより何よりも、船そのものに価値がある」
「・・・ほう」
「いまだに通常運行が行われてるのが不思議だと言われている。船内部・外部には古代より伝わる模様が施され、それが何よりもの価値なの」
「なるほどな」


 人間よりモノとはな。そう笑うクロロの目は楽しそうだった。この手のテロリストはどうせ自爆が目的だろう。顔を隠そうともしないのがいい証拠だ。それでなくても船自体を傷つけることには躊躇しないだろうし、それには惜しい代物なのだ。


「いいだろう。付き合うぞ」
「ありがと。あたしの乗ってた最後尾はすでにブッ倒してあるから、前に進むだけでいいはず」
「了解」


 そのまま彼は無造作に前のドアを開いた。途端に目の前から降ってくる銃弾の嵐。どうやらあたしやクロロの情報がすでに倒された誰かさんから入ってるらしかった。けれど銃弾なんかが効くはずもなく。次々と見事に彼はテロリストを倒していく。


「ちょっと殺さないでよー」
「分かってる」
「な、なんなのあなたたち・・・」
「ブラックリストハンターです、ご心配なく。お怪我はありませんかー」
「おお・・・!」


 にこやかにそう言ってあたしは普通乗客のみなさんに笑顔を振りまいた。ほっとするように肩を落とす人ばかりだ。そんな中、緊張感ゼロのクロロさんはあたしを振り向きながら言う。


「お前、いつからブラックリストハンターになったんだ」
「今だ」
「オレを捕まえなくていいのか?」
「あんたらの情報を売るほうが金になる」
「・・・そうか」





*





 ぐるぐる巻きにしてテロリストをひとつの部屋にまとめて放り込む。アタマはメガネのおっさんだった。ちょっと、まあ、リーダーだけあって少し手ごわかったけど、それだけかな。船長さんも開放して、あたしとクロロは予定通りの時刻に空港に到着することに成功した。それからケーサツに会うのは面倒くさいのでとっととズラかる。あとは船長さんとかその他もろもろが何とかしてくれるだろ。


「約束は8時にスターダストホテル最上階だったな。しかし、こうして逢ってしまったわけだが、どうする」
「どうするったって・・・予約キャンセルする?今は5時、予約までは3時間ってとこだけど」
「いや、そうだな・・・どうだ、ドレスでも買ってやろうか?」


 ドレス、ねえ。そりゃホテル最上階のレストランだからなにか買う気ではあったけれども。目の前に差し出された手を見る。


「そうだね。じゃ、頼もうかな」


 ふっと唇を笑みの形にしたクロロの手をとる。さて、楽しませてくれるんだろうか。・・・いや、ちょっと待て。睡眠時間のほうが欲しいんだけど、そういえば。・・・・・・ま、いっか・・・・・・。




















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