「あいよ、そんでもってクラピカとレオリオはあたしに何を聞きたいのかなー?」
「・・・・・・それなら、私から」


 ソファに座りなおしてあたしを正面から見るクラピカの青い目に、あたしの姿が映る。・・・もう、なんで、こんなにまっすぐな目をしているんだろう。




 ***17輪***




。ギタラクルと何の関係なんだ?」
「げ。そっから聞く?・・・あー、それ言う約束しちゃったね、そういえば・・・」
「ああ」


 ため息をつく。ていうかそれから聞くんだ。別に隠したいわけではないけど言いたいことでもない。だけどクラピカはあたしを見詰めたまま視線を動かさない。逃げられない、か。なるほどね。


「そうだね。・・・んー、雇主と雇われ情報屋、ってとこかな」
「情報屋?」
「そ。―――知ってるかな。『零』」
「? ぜろ・・・?」
「―――ゼッ・・・!!?」


 ハテナマークを浮かべるゴンと見事に対照的に、叫びそうになったクラピカの口を押さえる。指に口をあてると、彼は、そのまま肩で大きく息をついた。ぽかんとしたゴンの横で、レオリオも眉を寄せて首をかしげている。まぁ無理もないかな。


「―――『零』、って・・・あの、『零』か?」
「そ、あの零。って言ったって『零』といやあたしくらいしかこの業界でいないと思うよー?そう何人もゴロゴロいちゃたまったもんじゃないしね」
「?」


 不思議そうな顔をして首をかしげるゴンを見て、レオリオが思案気に唇に指を当ててから口を開いた。


「『情報屋 零』・・・か?オレは名前くらいしか聞いた事ねえが」
「私は、かつて探したことがある・・・。神出鬼没で傲慢で気まぐれな情報屋で、依頼すればどこまでも深い情報が手に入るって聞いた。しかし肝心の『零』の情報が全く手に入らなくて依頼どころか見つけることすら出来なかったんだ」
「あれ、そうだったんだ?ハイじゃ今どうぞ。クラピカなら格安だよー」
「じゃあ頼む・・・じゃない!」


 おお!クラピカがノリツッコミ!!貴重だ!!妙に感動してクラピカを見ると彼は慣れないことをしたせいかちょっと顔が赤かった。ゴンは首をかしげて眉を寄せる。


「よくわかんないけど、とにかくはその『零』って情報屋なんだね?」
「うん、そう。別に隠してるわけじゃないんだけどね」


 確かに見つけにくいっちゃ見つけにくいよなあ。念能力者じゃないと見つけられないようになってるし。そもそもあたしを探す必要に駆られるのがそういった立場の人だから、それなりの隠れ蓑は持ってるわけで。だけど、あたしは情報屋として確かに名は売れてきたけれど、裏世界が主だし、クラピカにまで名前が知られてるなんて思わなかったな。闇の世界に手を出してまで知りたい情報でもあったのかな。・・・十中八九、旅団関係か。


「ちょっと待て、本当にそうなのか?」
「別に信じなくてもいいよ。真実だから。とにかく、さっきの質問には答えたよ。ギタラクルとの関係は雇主と雇われ情報屋。あたしはゾルディックのお抱え情報屋ってとこかな。ハイ次は?」
「・・・なら、」


 クラピカの瞳にちらりと赤がきらめく。真剣なその目にあたしが映る。


「・・・・・・クモの。幻影旅団のことも、クルタ族のことも・・・知っているのだろう?」
「・・・一応ね」
「なら、・・・頼む。教えてくれ」


 あたしはクラピカのその目を見返した。きらきらと緋の色が、その瞳に映る。彼の本気の想いがわかる。だけど。あたしは小さくため息をついた。


「クルタ族と聞いたらそりゃもちろん、あたしみたいな仕事してれば即座に幻影旅団が出てくる。そんなの当たり前」
「・・・だろうな」
「そうだね。確かにあたしには膨大な量の情報がある。旅団、あんな有名どころ、いやでも目につくくらい知ってるし、依頼だって山ほど入ってくる――――なに?そんなに知りたい?クモのこと」
「――――ああ」


 だけど。


「だけどクラピカ。悪いけどあたしはクラピカには教えられないよ」
「なっ・・・!?何故だ!?」


 すぅ、とあたしは一度目を閉じて、そして開く。風もないのに肩にかかった髪が軽くなびいた。意識的に笑みを顔から消す。雰囲気もオーラも全てを『零』にする。3人が息をのむのがわかった。


「これでも商売なんでね。それなりの対価が必要。そして私から情報を買うには最低限の条件がある。あんたはそれをクリアしていない。だから私はあんたとは取引するわけにはいかない」
「・・・・・・条件・・・・・・」
「それに、旅団のデータランクは内容によって変わるけど、それでも最低でB。今のあんたには手に負えないよ。―――今、あんたが目の前にしてるのは『零』だ。とは違う。甘く見るな。本来ならそうやすやすと姿を見ることすらできないのだから」


 もう一度目を閉じて『零』を消す。それから目を開けて笑って見せた。3人は絶句したままあたしを見る。『零』―――それはただの情報屋としての記号ではない。あたしの仕事モード、みたいなものだ。さすがに普段のあたしのままで仕事をすることは出来ない。意識的に作ってる人格、といえばいいのか。

 そもそも『零』があたしのような若い女だとしっている人数もごく限られている。依頼者には顔を合わせないまま契約を実行することも多いし。(あたしの場合、顧客側が顔を知られては困るというパターンが多い。まあ情報屋なんて警戒して当たり前だけどね。依頼があれば仕事を受けた依頼者の契約内容までも売りますから)


「・・・・・・」
「そんなに驚いた顔しなくてもいいじゃん。あたしだって仕事とプライベートの顔を使い分けるくらいしてますって」
「え、いや・・・そ、そりゃそうか・・・」


 レオリオが茫然としながらあたしを見た。軽く苦笑してから、あたしは再び顔を上げる。まだ驚きの消えないゴンとクラピカ。そんなに意外だっただろうか。


「正真正銘本人です。あとなんだっけ?ギタラクルと何話してたか知りたいとか言ってなかったっけ?アレね、ただ単純にキルアがゾルディックの跡継ぎなんだよーって教えてもらっただけ。そんなもんだよ」
「あれ?そっか、知らなかったんだっけ」
「? うん。ああ、ゴンたちは試験中のどっかで知ったのか。あたし聞いてなかったし、ゾルディックお抱えとはいってもキルアには会ったことなかったの」
「へえー」

 
 頷くゴンに笑みを返す。さてそろそろ結構話したんじゃないだろか。まだ聞きたいことでもあるかなー。そう思ってレオリオにクラピカを見る。すると口を開いたのはレオリオだった。


「なぁ、なんでも聞いていいんだよな?」
「ん?まぁそのつもりだけど」
「スリーサイズ教えてくれ」
死ね☆


 あたしの蹴りが炸裂した。





*




 情報屋といったって、知らないことなんて山ほどあるんです。基本的に依頼が無いと調べないんだから。そんなね、世界中の膨大な量のデータを完全に把握してたらあたし化け物だよ!なんてことをクラピカとレオリオ、そしてゴンに話してから、あたしは席を立った。「スシ」を知らなかったこととか、ヒソカを知らなかったこととかを色々突っ込まれて正直困った。あのねぇ神様じゃないんだからさ・・・。


「んー・・・と」


 気が散るという理由でずっと電源を切っていたケータイを操作する。依頼はホームコードを確認しなきゃだけど、ケータイには普通に連絡くらい入ってそうだ。カイト兄あたりから。そんなことを思いながら着信に気づく。留守電が入ってる。反射的に再生し耳にケータイを当てる。そして聞こえてきた怒鳴り声に、あたしは思い切りケータイを耳から離す羽目になった。


どこほっつき歩いてんだ馬鹿!!緊急依頼、大至急、Sランクデータ!早く顔見せろこの馬鹿!!
『ということでさっさと帰還してこい。こっちの営業にも支障をきたしかねん』


 なんだこれどういうことだ。あたしは怒鳴り声の主の顔を思い浮かべながら頬を引きつらせた。冷や汗が流れる。え、ちょっとなにこれ信じられない。マジでスピードUターンしなきゃいけないパターンかこれ。


「うわぁああぁぁー・・・」


 しかもSランクって何さ。何なの。慌てて日付を確認する。幸いなことに昨日だった。これならまだ怒られないかもしれない!


「最悪だ!」


 そしてあたしは慌ただしく3人に別れを告げて「ごめん予想外の仕事が入ったっぽいから行くわ!あとから多分追いかけるから!」、最速の航空機を手配して自宅を素通りし留守電の怒鳴り声の主のもとへと向かうことになった。家くらい帰らしてほしいよ。切実に。

















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091111