「・・・なぁ、
「キルア?」


 背後からの声に振り向くと、銀髪の髪を揺らした少年が立っていた。 


「なんかイイコトでも、あったの?」
「・・・へ?」





**13輪**





 キルアのそんな指摘に、あたしは思わず素っ頓狂な声をあげていた。そんなにニヤけてたりしてたのかな―――思わず飛行船の窓に映った自分を見る。・・・別にそんなことはないはずなんだが。


「なんで?」
「わかんね。そんな気がした」
「・・・あ、そお・・・?」


 よくわからない返事に首をかしげながらあたしは苦笑を浮かべた。だけどキルアは、ちょっとだけほおを赤く染めて突然ジト目をしてにっと笑う。


「男モンのシャツなんて着ちゃってさー」
・・・・・・・・・・・・イヤイヤなにを考えたかは分からんが多分アンタが今思ったよーなことは一切してないからね?服が戦闘で破けちゃって、レオリオが貸してくれたんだよ。やたらデカくって困ったけどね」
「なーんだ。つまんねーの」


 とたんに興味を失ったような顔をして彼は言った。・・・何考えてるんだ、アホか。まあ、そういうコトに興味を持つ年齢か。にしたってさ、さすがにハンター試験でそんなことしたら、なんというか、・・・ねえ?ん?あたし間違ってないよね? 生意気に口を尖らせるキルアの額を軽く突き飛ばす。そしてその瞬間に入った放送に、二人して口をそろえた。


「「・・・・・・面談?」」





*





「ほっほっほ。念を使わないと決めとると聞いたぞ。人が悪いのー、
「・・・アンタにだけは言われたくないですよこのクソジジイ」
「相変わらず口が悪いのう。だまってりゃ綺麗な顔しとるんじゃから黙ってりゃいいんじゃよ」
「余計な御世話だ!」


 ネテロ会長との面談、とかいって呼び出されて、あたしはこの憎たらしい爺さんの前に座っている。まったく、食えないのはいつものことだけれど、やっぱり腹が立つ。こうして噛みついてしまうから面白がられているのだろうといつだったか誰かに言われたような気がする。


「で。これが最終試験ってことはないと思うけど。なんなんですか一体?」
「まあ参考程度にのう。まず。なぜハンターになりたいのかな?」
「・・・・・・知ってるじゃないですか」
「まあまあ」


 反論しても流されて、あたしは一度深いため息をついた。まったく、この人はごまかせない。


「一つは師匠に気がついたら申し込まれてました。目が覚めたら木に縛り付けられて、目の前にハンター試験証が置いてあって!置き去りですよお き ざ り ! 一応仮にも女の子を!!信じられない、あの人・・・!」


 口調荒く訴えるあたしを、ひょうひょうとした笑い顔で見ながら、ネテロ会長はその先を促す。「二つ目は?」・・・ゆっくり話させろよ。


「・・・知っての通り、火事で身寄りをほぼなくしているので。たった一人の身寄りの従兄弟を探してます。その為に便利じゃないですか。ハンターの資格って。情報屋をやってるのはご存じでしょうけど、それでも限界があるんです。ハンターになっちゃった方が、今よりも遥かに膨大な量の情報が手に入るだろうし。そんなところですかね」
「ふーむ」


 なんらかの書類を見つめながら会長はひげをなでつつそう相槌をうった。だけど、すぐに会長はあたしをちろりと見上げる。


「・・・まだあるじゃろう?」


 ・・・この、オイボレ。


「なんのことですか?」
「いやいや。しらばっくれても無駄じゃよ」


 ふぉっふぉっふぉ、と人の悪そうな笑い声を立てながら、会長はずらりと机の上に受験生の写真(あたしも含まれてた。いつのまに撮ったんだか)を並べて、一人の写真を指さした。


「・・・じゃろう?」
「・・・・・・・・・・・。―――隠しても無駄ですね」


 深いため息をついたあと、あたしは頷いた。


「でも言っておきますけど、多分、コレ、師匠の賭けですね。だって何も言われなかったですし、試験前に。あたしが気付かなかったらそれまでだったし。・・・要は別に何も試験違反行為はしてないですってことですけど」
「わかっとるよ。アレはそんな男じゃあない」


 また同じように笑って、ネテロ会長はコホンとひとつ咳払いをした。


「ほんじゃ次。この中で誰に一番注目してるかな?」
「んー・・・」


 じっと10枚の写真。あたしを抜いて9人を見ながら少しだけ考えて、あたしは二枚の写真を指さした。


「405番と99番」
「なぜかな?」
「いろいろあるけど、一番に思うのはダントツに光ってるとこ、かな。他の受験生とかと比較してもいいオーラ持ってるし。2人とも全然似てないオーラだけど」
「ふむふむ。―――じゃあ、8人の中で一番戦いたくないのは誰かのう?」
「301番」


 即答したあたしを、会長は面白そうに見る。


「なぜかな?」
「一番でしょ?そしたら、301番が絶対に嫌だから。理由はそれだけです」
「あえてそれを聞こうと思うのじゃが」
「嫌なものは嫌なんです」
「ふむふむ。で?」
「い・や・だ・か・ら・で・す」
「ほーお」
しつこいクソジジイ


 その後何度か押し問答が続いて、結局根負けした会長に手を振られて、あたしはようやく面談室から解放された。

 ・・・そりゃ、嫌な理由はいろいろあるけど、イルミにはあたしの弱点とか癖とかそういうもろもろをしっかりばっちり知られているからだ。ええもちろん。なんせ体術を鍛えてくれたのは基本的に彼だ。感謝はしてるけど。念なら彼の知らないものもあったはずだけど、・・・念は使う予定ないし。としたら、やっぱり一番やりたくない。うん。もちろんヒソカとかも嫌だが。


「くっそー、あの性格悪いジジイのことだからなー!!!」


 なんか激しく戦わさせられるような気がする。嫌だ。


「あ。!」
「ん?・・・ゴンにキルアにクラピカにレオリオ?どしたの大集合して」
「最終試験の対策だよ対策!!」


 ・・・た、対策・・・? 通りがかった広間で円になっている4人があたしを見た。レオリオの傍らには大量の本の山。図書室なんかあったのか、この飛行船?鼻息荒く話すレオリオの言葉に、思わず目が点になる。


「ほら見ろだって呆れてんじゃんかよ!!」
「無駄な努力だレオリオ。付け焼刃の知識などなにも役に立たないだろう」
「もう諦めなよレオリオー。大丈夫だよ多分」
「いーや!!オレは最後まであきらめねえ!!」


「あの全く状況が読めないんですが」


 思わず挙手すると、4人は顔を見合せて、そして一斉に肩を叩かれたクラピカが一瞬硬直してため息をついてあたしを見た。頭がいいと苦労するもんだね。


「最終試験は筆記だという噂が流れたのだよ、さっき。まったく根拠のないただの噂だから気にすることはないし、むしろ気にしすぎるのもよくないだろう?そうだと確定したわけではないのだからと言ったのだが・・・。」
「ああなるほど。でレオリオは悪あがきしてるってわけね」
「うるせー!」


 クラピカとゴンの間にお邪魔しながらあたしは言う。


「レオリオて医者志望なんだったら頭はいいんじゃないの?クラピカはともかく、筆記でまずいのはキルアとゴンじゃん。明らかに」
「や、やっぱりそうかなぁ?」
「そうだよなー、だからもう諦めろよ、オレたちが潔く勉強してねーんだから」
「ううう・・・」


 不安そうに見上げてくるゴンの頭をぐしゃっとやって(超剛毛。全然形が崩れない。すげえ)、あたしは笑う。てか筆記って。筆記って。ねえよ、それは。


「正直に言おう。ここまで来て筆記試験は無い」
「何故言い切れる?」
「じゃ逆に聞く。クラピカ、キルア、ゴン。あると思う?」
「「「ない」」」
「うるせー!!!」




 そしてその3日後。




「さて諸君、ゆっくり休めたかな?ここは委員会が経営するホテルじゃが、決勝が終了するまで君たちの貸し切りとなっておる。―――最終試験は、1対1のトーナメント形式で行う」


 隣に立つレオリオから何かがガラガラと崩れ落ちる音が聞こえたような気がした。・・・ど、どんまい。言ったじゃんだから!!


 そしてあたしは、そのトーナメント表を見て見事に言葉を失った。


 99番と、301番の、間。




 え、ちょっ・・・え?




















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090709