「ゴン、キルア」 「!」 船の端っこで座り込んでいる見慣れた少年二人を発見して、あたしは声をかけた。ゴンは嬉しそうに声をあげてくれたけど、キルアは疑わしそうにあたしを見た。疑うのも仕方ないかもしれないけど、・・・あたしの引いた番号は・・・。・・・。 ***11輪*** 「・・・何番引いた?」 「・・・キルアとは?」 「内緒」 「さぁね」 一瞬の沈黙。次の瞬間、3人で顔を見合せて噴き出す。 「安心しろよ、オレの獲物はゴンでもでもない」 「オレも、99番でも66番でもないよ」 「あたしも、二人じゃないよ」 二人じゃないって言うか。誰でもないから、あたしの場合特に誰かを警戒するというようなことはしなくていいのだけど。なんだかちょっとさみしい。 「せーので見せっこするか?」 キルアの言葉にうなずく。 「せーの!」 ゴンの44番、キルアの199番、あたしの66番。―――って、ゴンの44番、って、まさかアイツじゃあ。最悪のカードにキルアも息をのむ。 「・・・マジ?」 こくりとうなずくゴンの額に冷や汗が見える。そりゃあ仕方ないだろう。あの変態ピエロが獲物だなんて、なんて運の悪い子だ。あたしが交換してあげたいくらいだ。そりゃあたしだってあいつが獲物は嫌だけど、ゴンよりはまだましなはず。 「は・・・むしろクジ運良すぎるだろ」 「やっぱりー?まさか自分の引くとは思わなかったんだよねー」 ごろん、と寝転がりながらキルアの呆れ声に答える。なんせ26分の1だ。自分の番号を引くなんてまずあり得ない。だからこその試験内容なのに、これじゃ意味ない。 「でも、トリックタワーの運が悪かったからその分だと思えばいいかな」 「え?どんな道だったの?」 「一蓮托生の道、とかつって手錠で繋がれて進むんだけど問題はそのメンバーでね。まさかのヒソカとイ・・・ギタラクルとでさ」 「うわ」 あからさまに嫌そうな表情のゴンに苦笑する。イルミが変装して偽名も使ってるってことは絶対に意味があるから、ここであたしが彼の本名を言うわけにはいかない。ちょっと危なかったけど。 「水に流されるわ落とされるわ、大変だったんだよ。そっちもよく生き残ったね」 「まぁな。約一名が足引っ張ったおかげでな」 「もー、キルア!」 キルアの言葉をゴンが咎める。だって、と唇を尖らせるキルアは、しかし何も言わずにあたしを振り仰ぐ。 「それにしてもさ。オレたちより遅い合格者がいるなんて思わなかったぜ」 「ああ、うん・・・そだね」 「そんなにヒドイ道だったのか?が最後なんて考えなかった」 ヒドイ道と言うかなんというか。途中までは確かに鬼のように非情な道だったけど、一人になってからはただ複雑すぎる道なだけでそこまでヒドくなかったような気もしなくもない。・・・でも、出口が空中ってのはやっぱりヒドイのか。普通の人間なら助からないもんなあ。 「じゃ、そゆことにしといて」 「ヒソカとギタラクルさんと一緒だったんだもんねー」 「そうそう。すでに顔ぶれからしておかしいでしょ」 「・・・確かに・・・・・・お前、よく生きてたよな・・・・・・」 「失礼な」 こんな受験如きで死ぬほど弱くはありません。 「そろそろ着くみたいだね」 「んー」 「ほんとだ」 近づいてきた島に視線を向ける。なんの変哲もない島だ。キルアが不意に立ち上がって、立ち去りざまにあたしとゴンを振り向いた。 「生き残れよ、ゴン、」 その言葉に笑顔を返して、あたしも船の舳先へとひとりになるために歩いて行った。 「・・・そうか、は最後だったのだな」 「うん。だって正直、間に合わないと思ってたもん」 苦笑するクラピカの隣で、あたしはため息をついた。一番手のヒソカが森の中へと消えていく。・・・あのヤロウ、なんで一番なんだ。なんであいつが最初の三次試験通過者なんだよ!?あたしあんなに苦労したのに! と思えば二番手はイルミでした。しっかりギタラクルの容貌だったけどね。てゆーかなんでアンタらそんな簡単にクリアしてんだよ! 「・・・・・・ちくしょー」 「は?」 「ああいやいやなんでもないヨ」 怪訝な視線を向けるクラピカににっこり笑顔を向ける。その額に冷たい汗が光るのは気のせいでしょうか?あれ?あたし彼の中でどんなキャラに認識されてるの? 「次の人ー」 「ホラ、クラピカじゃん」 「・・・ああ」 森の中へ消えるその瞬間、彼はちらりと一瞬だけこっちを振り向いた。視線が合う。何かを言いたげな目に、あたしは目を瞬かせる。けど結局そのまま彼は森へとはいっていく。 「?」 なんだろう。 「最後ですよ66番さん!!」 「あ、ハイ!」 係員のお姉さんに言われ、慌ててあたしは森へと入る。その瞬間、幾重もの視線と敵意と殺意が降り注ぐ。ぴりぴりとした緊張感に知らず口元が笑みのように吊り上がる。 「・・・思った以上に、面白いね」 とか言って、あたしの場合「追いかける」という行動をとらなくていいからやることはないんだよね。期限は一週間、3日くらいは自分のターゲットを追う者が多いはず。けどそれを過ぎると、切羽詰まってくるから誰でも構わず狙うようになる、と。 こんなとこかな。 イルミとかヒソカとかイレギュラーな人たちはともかく、大体はこんな行動をとるんじゃないだろうか。とっととターゲットを捕らえたいのが本音だろうし。 けどさ。 「・・・あたし、ヒマじゃん」 え、なにこの孤独感。楽だけどさ。 がっさがっさと適当に進む。四方八方から向いてくる余計な殺気に一応気を配りながら、とりあえず一週間の寝床になりそうなところを探す。えー、一週間とか長いよー。つまんないよー。ヒマだよー。 ちょうどよく発見した大木に登り、高くから観察してみる。なるほど、いい感じに分散してるわけだ。ちょっと離れたところにゴンの姿を発見する。でもってその後ろにさらにもう一人の受験生を確認する。 「おおぅ、狙われてるなー、ゴンってば。ま、いっか。頑張れー」 一人で声援を送って、そのままあたしは大木の幹に体重をかけた。よし。寝るか。 * ―――――いちばんこわいこと、は。 ―――――なにもしらないところで、すべてをうしなっていること。 目の裏に焼きついた赤い世界、音のない世界。 「感覚」が麻痺してなにもわからない。 「 」 あたしを見下ろす黒い影が、なにかを言う。 聞こえない。 細くいかにも非力に見える影、なのにあたしを軽々と抱きかかえて。 そこで気づくのだ。 あたしの姿が小さいことに。 ―――――これは夢だ どこかで自分の声が言う。どこかにただ落ち着き払って冷静な自分がそれを見てる。 けれど、「小さいあたし」はおびえて怖がって泣き続けるだけ。 「 」 影はあたしを、真っ赤な悪魔から庇うように抱きしめる。 苦しくて、痛くて、怖くて、何も分からなくて、泣き叫ぶあたしを、 影は強く強く抱きしめる。 まるで母親の、ように。 * 「―――――ッッ!!」 4日目、真夜中。鋭い殺気に跳ね起きる。矛先は言うまでもない、あたしだ。木の上で警戒しながら、反射的に円をしそうになって抑える。念はしないって決めたんだから。そのまま目を閉じて、円ではなくただ自力で気配を探る。これくらいできなきゃ、≪零≫の名がすたる。 そして気配は、背後から。 勢いのある蹴りが飛んでくる。右腕で流してすかさずそのまま肘鉄を叩き込む。相手もそれを予測していたのか軽い動きでそれを避けて沈んだ。思い切りのいい足払いを避けて隣の枝へと飛び移って体制を整える。 そしてそこで、攻撃の主を確認した。 「・・・ハゲ忍者」 「ハゲ言うな!!スキンヘッドと言え!!」 「一緒じゃんよ。なに、女の子の寝込み襲うなんて最低ー」 「なんとでも言いやがれ。さて、ナンバープレートを貰おうか!!」 偉そうに腕を差し出すハゲ忍者を見やって、あたしは腕を組んで対峙する。 「てゆかあたしが標的じゃないでしょ、どういうことよ」 「・・・なんで知ってんだ」 「もしかして標的見つけられないんだ?うわー」 「うるっせぇー!!見つけたわ!!ナンバープレート見失っただけだばかやろー!」 「・・・・・・いや、そのほうがバカだろ」 見失ったってどういうことだよ。いろいろツッコミたいのを我慢して、あたしは枝から飛び降りた。すかさずそれを追ってくる気配。当然ハゲ忍者だろう。が、あたしは生憎だが試験終了日まで余計な戦いはする気はなかった。けど。 「待てよ」 しつこい。 「・・・仕方ないなー」 流石に足は速い。撒こうと思ったけど、結構この暗闇の中でもついてくるというのは相当だ。絶をしてどっかに飛び込もうかと思ったけど、絶って念?念に含まれるの?・・・自分で作ったルールに取り込まれてちゃ、世話ないよ。 仕方なく向き合うと、真剣な瞳があたしを見る。そして、唐突に彼は地面を蹴ってあたしの懐に飛び込んでくる。 「よっ」 横っとびに避けて組んだ両手をたたき落とす、がそれを見事に捕えられて体が反転する。地面に体が叩きつけられる、けれどその反動であたしは右足を彼の鳩尾へとぶち込む。 「ぐはっ・・・!」 呻いて、ハゲ忍者の手が思わずあたしの腕を放す。そのスキを見逃す訳がない、自由になった両手を地面について跳ね起きる。けど、そこであたしの誤算が起きた。 「くそ!」 「・・・はっ?」 がむしゃらに伸ばされた腕が引っ張ったのはよりにもよってあたしの服、で。そりゃ渾身の力で引っ張られりゃ破けるわ!!左肩から下に向かって思い切り。びびびびぃっ!と布が裂ける音がした。 「っ、な」 破けたとはいえ一応二枚着てたから、そんなにキワドい格好になったわけじゃないけれど、流石に血の気が失せた。破けた服の残骸を思わず拾う。そして、あたしは、 「・・・・・・・お前・・・!?」 「ッ!!」 ハゲ忍者のその視線に、気づいてしまった。 呆然とあたしを見るその目。その目に耐えられなくて、あたしはそのまま踵を返して夜の森の奥に飛び込んだ。追ってくる気配はない。・・・反省してるんだろうか。 「・・・あーあ」 師匠たちにすらろくに見せてもいないのに。自分のその痕に触れる。だけど、悪い事ってのは続くもので、 「・・・・・・!?」 「うおい!?じゃねえか!!」 「クラピカ、レオリオ・・・・・・・」 なんでアンタら、そういうタイミングで現れるかなあ。 ←BACK**NEXT→ 090503 |