残り。あと。12時間。


  や  ば  い  。




***10輪***





「ここどこだよちくしょううわーん!!」


 暗闇のなかをさまよい続けてかれこれ約40時間。何度通路で寝たことか。たまに出てくる囚人とバトるときにようやく生きている心地がして安心するくらいだ。なのに、その囚人ですらめったに出てこない。罠が出てくればちょっとは気を張れる。なのに罠は一切出てこない。なんなのここ!!


「あー、もうネズミになった気分」


 あたしは疲れ果てた顔でずるりと壁にもたれた。迷路のような塔の中、念だって関係なしにとにかく迷ってる。道が分からない。上に行っても下に行っても出口が見えない。もう、わけわかんない。


「ヒソカとイルミはもうとっくに脱出してんのかなあ」


 溜息とともに呟く。そしてあたしは、もう一度立ち上がった。





***





≪残り1分です≫


 ぼろぼろの姿でトリックタワーから脱出を果たした時は、すでにもう試験終了一分前だった。よく間に合ったものだと思う。ゴンがきょろきょろとあたりを見回し、おかしいなと口を開く。


・・・どこにいるのかな・・・」


 その言葉ではっとなった私たちも慌ててゴンにならう。しかしあたりにはその少女らしい姿は見当たらない。蒼い髪の目立つ少女はすぐに目に入るはずであり、彼女だって私たちに気づけば近寄ってくるだろう。なのに、ここにいない。そして試験終了までは、もうあとわずか。それは、つまり。


「まさかのやつ・・・」


 レオリオがつぶやく。その不吉な言葉に全員が顔を曇らせたそのとき、頭上に感じた気配。反射的に上を見上げて、私は一気に自分の血が音をたてて引いて行くのを感じた。ゴンが叫ぶ。


!?」





***





 残り時間一分を切った。あたしは半ばあきらめながら、壁にずらりと並んだ扉の列を次々と片っぱしから開いていく。一個ずつ入って奥を調べる余裕なんてない、もうこれはこの扉の中に出口があると信じるしかない。なかったならあたしはもうここまでだったってことだ。まだ負けたくない。息を切らしながら開ける。開ける。開ける。開ける。開ける。開ける。開け、


「ひッ、い!?」


 勢いよく開けたその反動で体が宙に飛び出す。一気に開けた視界に呆然とするようなヒマすらなく、あたしは自分の体が地面と言うものに触れないことに気がつく。え、なにコレ。空中?

 たった今開けたドアは、どうやらマジで出口だったらしい。遥か下にぱらぱらといる受験生らしい人影(ここからじゃ米粒レベルの小ささにしか見えない)。ただし、普通の出口ではなく、上空のドア。つまり、脱出はできたものの、あたしはまたここから下へと落ちる、と、いうわけで。

 普通の人間ならこんな高さから落ちたなら死ぬだろう。けど、生憎あたしは「普通」じゃない。


「――――くっ、」


 重力に逆らえず落下する体。体勢を変えようと空中で体をひねる。しかしあたしは、そこで最悪のものを見てしまった。 


 あたしの落下予想地点に、堂々と腕を広げて待ち構える、ピエロのメイクをし直したらしい、ヒソカの姿


――――――――――――――――――――ッッ!!!!


 そこであたしは絶叫した。





***





 遥か上空から落下してくるを見て、私は急いで彼女の落下地点まで走ろうとしたが、彼女の落下速度のほうが圧倒的に速い。そしてその地点にいる人物をが見たのを気配で知る。それから、私たちはそろって世にも不思議なものを見る羽目になった。


――――――――ッぎゃあああああああぁぁぁぁぁァァァァァァッッッ!!!


 が絶叫した次の瞬間、彼女は空中でくるりと一回転、素早く体勢を整えそして、右足でヒソカの顔面を踏み台にしためきっと音が響く。さらには右足で蹴った勢いで空中に飛び出し再び一回転、最後に華麗に着地した。軽やかな姿に思わず周囲から拍手が。そして一言。


・・・・・・ふっ、またつまらぬものを踏んでしまった・・・・・・・


 きらきらと彼女の周りが眩しく輝いてる気がする。私を含めゴン・キルア・レオリオはもちろん、ヒソカと以外の受験生がその光景を目にして見事に固まっていた。そしてその沈黙を、ヒソカは真っ先に破った。


「・・・・・・酷いなぁ◆ボクの顔を足蹴にしておいてなんのお礼もお詫びもないのかい?」
「あぁらヒソカ!ごめんなさい気付かなかったわありがとう」


 くっくっく、とぼたぼたと鼻から血を流しながら笑うヒソカ。満面の極上の笑みで美しく笑う。・・・こんなに恐ろしいものを私はいまだかつて見たことがない。誰も彼らにツッコむことはなかった。


≪タイムアップ! 第3次試験、通過人数26名!(うち1人死亡)≫





***





 さて、と!トリックタワーを無事脱出し、あたしは思いっきり伸びをした。疲れた!でも広い所に出れたことがとてつもなく嬉しかった。なんせ、延々とあんな暗い場所にいたんだ。体の節々が痛い。・・・なんというか、落ちるわ水はかぶるわ擦り傷は出来るわ散々だったな。


「諸君、タワー脱出おめでとう。残る試験は4次試験と最終試験のみ」


 あと二つ!と周囲がざわめく。あと二つ。ようやく実感が出来てきた。


「4次試験はゼビル島にて行われる。では早速だが、これからクジを引いてもらう」
「クジ・・・?これで一体何を決めるんだ?」


 だれかの声に、試験官のメガネの男が嫌な顔で笑う。


「狩る者と狩られる者。この中には、25枚のナンバーカード、すなわち今残っている諸君らの受験番号が入っている。さぁ、今から1枚ずつ引いてもらう。それでは、タワーを脱出した順にクジを引いてもらおう」


 ・・・なるほど。最初に脱出したらしいヒソカが進み出る。あたしは・・・って、うわ!最後じゃん!当然か。

 最後の最後にあたしが引いて、クジに書いてある文字を見る。


「全員引き終わったね。今、諸君がそれぞれ何番のカードを引いたかは全てこの機械に記録されている。したがってそのカードは処分してくれて結構。それぞれのカードに示された番号の受験生が、それぞれの獲物だ」


 あたしはちらりと自分のカードを見る。・・・コレって・・・。


「奪うのは獲物のナンバープレート。自分の獲物となる受験生のナンバープレートは3点。自分自身のナンバープレートも3点。それ以外のナンバープレートは1点。最終試験に進むために必要な点数は6点。」


 全員の視線が素早くあちこちに走った。けどあたしは、自分の引いたカードを見つめたまま硬直する。


「ゼビル島での滞在期間中に6点分のナンバープレートを集めること」


 ・・・・・・・・・・もしかしてあたし、とんでもないもの引いた?




 あたしの引いたナンバープレート。「66番」。

 ―――――自分の番号なんですけど。

 こういう場合ってもしかして、1枚で6点分ですか・・・?














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090330