ガシャーン。 「「「・・・・・・・」」」 イルミが目の前の3つのドアを指さした直後、背後から巨大な落下音が。振り向けばそこには檻。あれですか。もう戻れないってやつですか。 ***9輪*** そして目の前にある3つのドアと、台の上に手錠のものと思われる小さな銀色の鍵。ドアはといえば、右から順に大・中・小。あたしなら、小は四つん這いで頑張ればなんとか通れるだろうし、中は・・・腰が痛くなりそうだけどちょっとかがむ程度で通れそう。ただ、ヒソカとイルミは無理だ。大しか通れないだろ。 ≪選択の間へようこそ。一蓮托生はここまで。ドアをくぐれるのは一人一つ。好きなもののを選ぶといい≫ 「は小だね◇」 「うん」 「・・・・・・そうですね」 当然の選択だろう。小って、この2人、肩すら入んないんじゃないだろうか。 「ヒソカが“中”行きなよ」 「嫌だよ◆」 「オレの方が身長あるでしょ」 「ボクの方が高いよ◇」 「・・・ヒソカのほうが高いよ」 「ホラね◆」 「・・・はどっちの味方」 「中立ですー」 めんどくさいな。あたしはどれでも通れるんだし先に行っちゃいたかったりするんですけど。押し付け合いが始まる前に、とあたしは台に手を伸ばす。けど。 かしゃーん。 金属音とともに小さなミニチュアな檻が現れて鍵を覆う。・・・え、なにコレ。無理やり開けちゃっていいのだろうか。ちゅーか正直、鍵なんかなくても力ずくで外せなくもないんだけど。一蓮托生で手錠しなきゃ失格だ、っつーからここまではこんな面倒くさい目に合っていたわけで・・・。 そんな考えが頭をめぐったその時、壁の一部がぐるりんと、例えるなら東の最果ての国の忍者屋敷のカラクリみたいに開いてそこからフードを被った怪しい影が3つ、飛び出してくる。発せられる奇声。そして天井から響く試験官の声。 ≪彼らを倒さないと鍵は手に入れられない≫ フードの3人組があたしたちを襲った。 ** 一言で表すなら、「瞬殺」。ひとつ言っておく。あたしはぴくりとも動いてない。イルミの針、ヒソカのトランプが全てを片づけた。爪の先すら掠ることもなく彼らはそこに血みどろですでに「死体」と化している。 「・・・・・・・・・・つまんねー」 「え、なに戦りたかったの?ごめんね」 「いやいいけど。手錠で繋がってたっていうのに、なんのハンデにもならなかったーとか、どんだけ雑魚だったのかなー・・・と」 「確かに雑魚だったね◆短い命にカンパイ◇」 「意味が分からん」 ようやく自由になった両腕を振ってあたしは骨を鳴らした。繋がってないってなんて素敵なことなんだ。 「ってことであたしはお先に」 「え。待ってよズルいでしょソレ」 「えーだって体型は仕方ないじゃんー」 文句を無視して、あたしは何の躊躇いもなく一番小さいドアを開けた。奥からなにか聞こえるような気もするけど、気にしていても仕方ないのでそのままあたしは床に手をついた。そのとき、後ろからイルミの声。 「ねえ」 「んー?」 「余計なお世話だよ?」 「・・・」 振り返れば大きな黒い瞳があたしをじっと見る。かち合う視線にあたしは沈黙する。コレはあの表情だ。―――怒ってる。 「・・・・・・ごめん」 「バレてないとでも思ってたの?」 「―――いや、わかってた、けど、さあ・・・」 気まずい雰囲気に、あたしはうつむいた。付き合ってる期間中に、それなりに彼の表情は読めるようになった。きっと本当にわずかな変化。そのまま数分が経過した。ヒソカはと言えば我関せずの顔で知らんふりして、あたしはとりあえずこの嫌な感じを打破したくてそわそわする。けどイルミはあたしを黙ったまま見つめるだけで。 ・・・・・・・・・・埒があかない。 「・・・イルミ?」 「なに?」 「・・・・・・ごめんなさい」 久々に上目づかいで彼を見る。あたしが謝るなんてそうそうないんだからな!と喚きたいのを堪えつつがんばる。ここはあたしは下手に出るべきです。分かってます。 そのままの状態でしばらくいれば、根負けしたのかイルミがようやく溜息をついてあたしの頭に手をおいた。ちょっとホッとして、あたしは視線を彼から外す。正直首でも絞められるかと思った。ヤツならやりかねない。 「ほら、早く行きなよ。あとはオレたちの問題なわけだし」 「・・・うん」 てめぇが引き止めたんだろが!叫びたいのを我慢する。このヤロウ。 そしてあたしは再び扉の前に手と膝をついた。やっぱりなかなか狭いというか小さいというか。暗くて何も見えない。頭を突っ込む。そしてこのあと、あたしは自分の行動を本気で後悔することになる。 「はい、じゃあね」 「のげっ!?―――のっ、あっ、ぎゃ―――――――――――!!??」 油断してた。油断してたとも。イルミが怒ってたのに、実にバカだった。ああもう!思い切り尻を蹴られてあたしはそのまま落下する、というか中は滑り台で、すさまじい勢いで滑り落ちていくことになった。擦れる皮膚が非常に痛い。めちゃくちゃ痛い。 「いたたたた痛い痛い!!くっそ、イルミのバカやろ―――――!!!」 絶叫したその声は、上の二人に届いたんだろうか。 それほどまでにすさまじい勢いで、あたしは滑り落ちていった。 ** 「これでちょっとは反省したかな」 「・・・・・・キミも結構ヒドイね◆」 平然と言うイルミに、さすがのヒソカも冷や汗を浮かべた。こんな男と付き合っていたとは、も恐るべしだ。どんな付き合い方だったのだろうか。非常に気になる。 「―――――!」 かすかに聞こえる悲鳴に、イルミは全く動揺せずにさっさとドアを閉めた。 「もっと可愛い悲鳴をあげればいいのに」 「・・・◇」 どうやら扉は一人しか通れない、というのは本当らしくが落ちた瞬間に鉄格子がドアのすぐ外に落ちた。こんなことをしてくれなくとも、どうせ自分らには通れないが。 「ところで、オレたちはどっちを行く?」 「さっきボクの方が背は高いって証明されたじゃないか◇」 「証人はもういないけどね」 「確かに◆」 やるなら容赦しないよ、とイルミは腕を組む。しかしヒソカは、にやりと不気味な笑顔を浮かべた。 「キミ、変装したら通れるじゃないか◇」 「・・・・・・」 あからさまに嫌そうなオーラを醸し出すイルミだったが、結局受験生の一人にいた金髪の美青年に姿を変えて中の扉をくぐったのだった。 ** 「い、た、たたた・・・ッ、くっそー、あのヤロー。覚えてろよ・・・あーあ傷になってるー」 体のあちこちの擦り傷を見て、あたしは小さくため息をついた。滑り落ちるのもようやく終わり、たった今壁に激突したところだった。なんとか止まろうとは挑戦したけれど結局は無駄で。だって滑り落ちてるとはいえ、天井と床までの距離は50センチないのだ。ていうか穴の中を落ちてる気分だったというか・・・。 「ちっくしょー。あたしはアリスかってんだよー」 いつかどこかで読んだ小説の主人公の名を口にする。確かその主人公も穴を落っこちていったはずだ。こんな無様な落ち方じゃなかっただろうけど。 穴が狭かったおかげで変えられなかった体勢。体のあちこちがギシギシいう。ようやく広い所に出て、あたしはぺたりと座った。ちょっとくらい休憩したってバチは当たらないだろう。 「あーあ、めんどくさいなぁ。あと何時間残ってんの?」 首を振ってふと上を見上げると、おあつらえたようにデジタル時計が設置してあった。ハンター協会のきめ細かい対処に気が抜けるのを感じる。残り時間はあと、50時間。 あれから22時間もたっていたことになんとなく驚く。ほとんど丸一日、ヒソカとイルミといたってことか。手錠の意味もあんまりなかったけど。 「・・・」 さっき怒ったイルミを思い出す。やっぱりバレバレだったかな。手錠で繋がれてた状態の時に、仕掛けられてた罠をことごとく壊していった自分を思う。いくらなんでも簡単に進みすぎたのかな。ハンター協会だってそこまで甘くない。そこを見抜かれたか。うまくやったと思ったんだけど。別に、イルミとヒソカに対して不安があったわけじゃない、ただ単に罠の相手をするのがめんどくさかっただけで・・・。 言い訳をしたってイルミにとってはあたしの行動はウザかった、ということは変わらない。余計だったかなぁ、とひとり呟く。でも、あたしのおかげでここまで短時間で来れたんだから少しは感謝してくれてもいいじゃん。くっそー。 「結構下まで降りてきたことだし、とりあえず先に進むかー」 そうしてあたしはようやく立ち上がった。 ←BACK**NEXT→ 090327 |