「ふぇーっくし!」
「・・・・・・ってさー、ほんとに女?」
「大丈夫、?」
「うるせーわキルア。ありがとおゴン。優しいねえ」
「ババアかよ」




 いい加減にお黙りなさいキルア。




***7輪***




 濡れた髪のまま寝てしまったせいか、不覚にも風邪をひいてしまったらしく今朝方からくしゃみがとまらない。そんなあたしを憐れんだレオリオから薬をもらって飲んだら少し楽になったけれど、それでもまだ鼻水は治まらなかった。なんだか悲しい。


「本当に平気なのか?無理はするな」
「あ?大丈夫だよこれくらいなら。でも、心配してくれてありがと、クラピカ。 でもそんなことより今のこの状況の打開策を検討したほうがいいと思うよ」
「ああ、言わずもがなだ」


 現在時刻は9時40分。第三次試験会場トリックタワー。
 入口探しに苦戦中。


 きょろきょろとあたりを見回す。さっき壁を降りってった人が思いきり食われてたし、この様子じゃあ、屋上のどこかに入口があるようだ。そういえばぱらぱらと人数も徐々に減っている。ぺたぺたと歩く。・・・・・・それにしても、不謹慎かもしれないけど、風が気持ちいい。高いところは好きだ。


「レオリオ、クラピカ、
「ん、ゴン?」
「隠し扉、見つけたよ」


 ゴンの言葉にレオリオが軽く目を見開く。それに無言でうなずいてから、ゴンは軽く首をかしげた。聞けば、隠し扉はいくつもあり、なんと6つもの扉が一か所に集中しているそうだ。


「おそらくこのうちのいくつかは罠・・・」
「だろうな」
「もしくは全部そうだろね」


 考え込むクラピカに、あたしとレオリオが賛同する。おまけにひとつの扉は一度に一度しか開かず、また一人しか通れない。それはつまり、


「みんなバラバラに行かなきゃってワケだね」
「ああ。オレとゴンはこの中からそれぞれ選ぶことに決めた」
「罠にかかってもうらみっこなし!三人はどうする?」


 ちらりと目くばせして、頷く。もちろん反対などしない。運も実力のうち、これでどうなるかは自分次第。他人を恨むなどお門違いだ。むしろ見つけたことを知らせてくれたゴンとキルアには感謝するべきだろう。
 公正なじゃんけんの結果、選択の順番はゴン・あたし・キルア・クラピカ・レオリオとなって、それぞれが選んだ扉の前に立つ。


「1.2.3で全員行こうぜ」
「それじゃ―――幸運を祈るよ、みんな」
「ああ。地上でまた会おう」


「1、2の、3っ!」





・・・・・・・・・・・・ッいぎゃあああああああああ!!!


 降りて次に目を開けた瞬間、あたしは思わず絶叫していた。そこに座ってにっこりと手を振ったのは、


「やあ◆」
「カタカタカタタ」



 神様、私は一体なにをした。



***


「・・・短い別れだったな」
「くっそー、どれを選んでも同じ道だったのかよ」
「・・・あれ?待ってよ!まさか、」


が・・・・・・いない」


 ゴンの言葉を継いでキルアの感情の見えない声が、そう紡ぐ。気づいた全員が息をのんだ。がくぐった扉はクラピカの隣だった。その空間を見つめてクラピカは小さく青い色の髪の少女の名を呟いた。きっと彼女はこの壁の向こうに。たったひとりきりで。もともとそのつもりだったけれど、こうして4人が集まってしまうと、たった一人隔離された少女が気にかかる。


「大丈夫だよ」
「・・・ゴン」
は、大丈夫だよ」
「・・・・・・ああ、そうだな」
「あいつはアレでたくましいからな。ま、平気だろ」
「・・・・・・、心配するべきなのはオレたちじゃねーの?あと一人、来るまで動けねーじゃん」


 全員が同じことを考えていたらしく、しばらくの沈黙があったがゴンの一言で空気が緩んだ。更にその後のキルアの言葉が、現実を引き戻す。


「・・・・・・あと一人が、だったらよかったのにな」


 キルアの正直な言葉が、そこにいた全員の気持ちを代弁した。




***


「いっ・・・どああああっ!?」
「わ◆大丈夫かい◇危なっかしいなぁ◆」
「ほっとけ!触んな!うわああん動きにくいちきしょ――ッッ!!」
「カタカタカタカタカタ」


 なんでなんでこんなことになるの!




 あたしが落ちた道にはあろうことかヒソカとギタラクル(名前は聞いた)がいて、このなんとも言えない異常な空気の中にひとり落ちたのがあたしだった。しかもこの道は「一蓮托生の道」。なんのこっちゃ、と思えば三人の手首を手錠でつないで進む、という道だった。動きにくいわ歩きにくいわ三人で繋がってるから狭いわ気まずいわで泣きたくなってくる。しかもあたしの位置は二人に挟まれていた。つまりは真ん中。何  故   。そう、あたしだけ、両手が完全にふさがっている。ひどい。


「ほんっと面白いね◆最高だよ◇」
いい加減貴様は黙れ。・・・・・・・・・・・・・ところでギタラクル、マジ何してんですか怖すぎます」


 右手のすぐ横で聞こえるびきびきという不気味な音に心底ビビりつつあたしは恐る恐る聞いた。彼は自分の顔に突き刺さっているピンを容赦なくぶちぶちと抜き続ける。ああああああホラーだってマジ怖いってもうやだ!


「うわあああああん!なんであたしこんな人外化生と一蓮托生・・・・・・・」



 遠い眼をしてふっとした瞬間、横から聞こえた若い綺麗なテノール声に、あたしの思考は一瞬停止した。その声の主は、さきほど恐ろしげな行為に没頭していたギタラクルの場所に、さらさらのきれいな長い黒髪を垂らして、ぱっちりとした表情の見えない黒目がちの瞳。一言でいえば美青年。・・・・・・・・・・・・でもものすごくあたし的に心当たりのありまくりすぎる顔がそこにあった。


「――――――― イルミ・・・?」
「やあ。久しぶりだね、
「う。・・・うん。久々」


 相変わらずのその顔、声。なんだか懐かしくって言葉が出てこない。・・・あまりにもあまりにもな容貌(ギタラクル)だったから、ヒソカと並んで極力近づかないようにしてたのだけど(ていうか常にヒソカが傍にいたし)、ちょっと気付かなかったのが悔しかった。というよりも、彼に騙されるのはなんだか・・・情けなかった。


が気付かないなんて珍しいね。実力は落ちてないみたいだけど」
「・・・ああ、うん、きっと精神的にいろいろやられてたんじゃないかなきっとね」
「なんでボクを見るんだい◆」
「・・・・・・・・イルミの変装術なんか久々に見たよ。っていうか針さしっぱなしって、そんなのもアリなんだね・・・」
「まあね。針なしだと比較的戻るのが早くなっちゃうからね」
「ボクはスルーか◇サミシイね◆」
「(無視)へー・・・・・・・・あ。」


 刹那、あたしが不用意に出した右足が「カチ」という音を踏んだ。正確にはその音を出すスイッチを踏んだ。途端に開く足元の床。もちろん落ちていくのはあたしだけのハズ、なのに両腕にしっかりとつけられた手錠のおかげで両側を歩いていた二人も重力に耐えきれず体を投げ出しかけた。しかしそこはさすがで、落ちる寸前で踏みとどまる。自動的にあたしは宙ぶらりんの状態なわけで、手錠の金属が腕に食い込みつつも落下がとまったことに気づいて上を見上げた。


「危ないなあ◇」
「大丈夫?」
「・・・・・アリガトウゴザイマス」




 でもひとこと言わせて下さいお二人さん。




 上から、大量の水が落ちてきてます。




「あーあ◆どうする?◇」
「どうするもこーも・・・落ちるしかなくね?」
「これぐらいの水圧なら耐えられるよね、
「まぁそりゃそうだけどあたし足場ないんですけど」
「でもさ◆結局下に向かうんだよねえ◇だったらこのまま落ちていいんじゃないかな?」
「・・・うーん、どうするイルミ?」
「いいよ、がいいなら」


 ・・・。

 こくりと頷けば、彼らは同時に床を蹴った。そこに大量の水がぶっかかる。そのままあたしたちは、流れに巻き込まれて下まで流されていった。



 これ・・・助かるのかな・・・。














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090208