「やっと休憩かー・・・・・・。眠い・・・」
「ゴン!!飛行船の中探検しようぜ!」
「うん!!」
「キルア貴様あたしの言葉聞いてねぇだろ! あたし行かないぞ!!」
「つまんねーの。お前ババアかよ。行こーぜ、ゴン」
「・・・元気なやつら・・・。オレはとにかくぐっすり寝てーぜ」
「私もだ。恐ろしく長い一日だった・・・・・・」




***6輪***




「クラピカ、レオリオ。あたしちょっとシャワールームとか探してくる。いくらなんでも気持ち悪い」
ああ。・・・・・・見つけたら、入った後でいいから教えてくれないか?」
「了解」
「たのんだぜーぉー!!」


 レオリオの疲れ果てた声に応じて、あたしはぺたぺたと廊下を進んだ。こんな飛行船に乗れたのは実にラッキーだった。試験中ずっと同じ服、しかも風呂シャワーもなし、は覚悟してたけどやっぱり嫌だった。そう思うのはおそらくあたしだけではないだろう。現に、クラピカとレオリオも浴びたがっていたようだった。

 ・・・・・・まぁ、特にレオリオなんか汗だくの上に沼地にダイブしたしね・・・・・・。確かに無理もない。シャワーを浴びてさっぱりしたいと思うのは当然の心理だろう。でもお風呂に入らないのは慣れてるといったら慣れてるんだけど。例の修行のおかげで。でも入れるかもしれないのなら、借りたいと思った。それくらいいいだろう。別に。


「・・・・・・が・・・・ね・・・・今年は」
「ん?」


 聞き覚えのある声につられて、あたしはすたすたとその部屋へ向かった。部屋の前まで来た瞬間、ドアは勢いよくひらいてあたしを中に引きずり込んだ。


「へ?」
「この子よ、この子!例の見所ある新人ちゃん!」
「なるほど。66番ですか。確かお名前は・・・」
です。よろしく」


 けたたましい声、失礼な表現だがそうとしか聞こえなかった。どうしようもなかったのでしょうがなくあたしはぺこりと頭を下げて名を言う。そこの部屋はハンター試験試験管の待機室(ていうのかどうかよく知らないけど)らしかった。周りには今日であった試験管の面々がお酒を片手に寛いでいた。ついでだからシャワー室の場所だけ聞いて退散しよう。


「あのスイマセン。シャワーし」
「久々の掘り出しモンだと思うのよねー。どう思う?」
「そうですね。彼女も能力者のようですし」
「それだけじゃないのよこの子のスゴさは!」
「メンチ相当入れ込んでたしねー」
「・・・・・・あの、シャワー室を」
「スシを見抜いただけでなくセンスの良さ!磨けば光るわ!!まさに原石よッ!」
「ふむ」
「・・・・・・・・・あのー・・・・・・シャワー室・・・・・・貸して欲しいなー・・・なんて・・・・・・」


 ・・・・・・・・・・・・完璧あたしのこと聞いてねぇ。 てゆうか話題の本人置いて喋るなよ。いいけどさ。


さん、でしたか」
「あ、ハイ。サトツさん」
「私は貴方の師匠殿にお会いしたことがありますよ」
えええええ!!


 不覚にも物凄く驚いてしまった。いやだってだって!弟子のあたしが太鼓判押すほどのとんでもない師匠なのに、いやうん確かにすごいしいろんな意味でかっこいいし尊敬もしてるし信頼も置けるし念能力者としても人間としても最高の人間なんだけれど(ここまで言うとかなり癪に障るが)、・・・・・・サトツさんと知り合いってなんか意外すぎる!なんとも不思議な運命というものはあるものだろう。あたしは非運命論者・・・というよりただ単に信じてないだけだけど、とにかくそれなわけだから、運命ではないというわけだ。でもさすがに今回は信じそうになった。世界は狭いのだね思ったよりも。


「そんなに驚くことでしょうか」
「・・・・・・ま、まぁ。いや意外というかなんというか」
「そうですか? ・・・・・・ところで、さん。貴方は何故此処へ・・・」
「あ! シャワー室ですシャワー室! 借りたいんですけど、どこですか!?」
「ああ、結構ですよ。それならここを出てですね・・・・・・」


 サトツさんのおかげで本来の目的を果たすことが出来た。有難い。未だにあたしのことについて語り合っているメンチさんとブハラさんを置いてあたしは伝えられたシャワー室に向かう。そこまであたしを気にしてくれなくても全然構わないんですけど。あたしよりよっぽど気になる存在は大量にいるのにね。ゴンにキルアにクラピカとレオリオ、ついでにヒソカに・・・・・・あと気になるのはギタラクルとかかな。まぁあのハゲも入れていいかもね。勝手にランク付けをして皮肉げに笑った。そんなことが出来るほど、あたしは偉くもなんともない。


「ん、ようやく体を清められる・・・・・・」


 何だか嬉しかった。




**




 置いてあったタオルを拝借して、あたしはシャワー室を出た。服は流石に代えられなかったから、設備されていた洗濯機と乾燥機を酷使してなんとシャワーを浴びている間に洗濯まで完璧に終わらせた。素晴らしいねさすがハンター協会。最新の設備。綺麗に掃除された清潔な空間。嬉しすぎるよ。

 服も体もきれいになって、実にさっぱり。拭いきれなかった滴が青い髪から落ちる。ぱたぱたと歩きながらクラピカとレオリオのもとに向かう。入りたいって言ってたし。男女兼用だったからいいんだろう。そう判断したためだ。受験生の中にはあたし以外にも女の子はいたし、同じこと考える人がいないとも限らない。早くしないと使われてしまうかもだから、ちょっと急ごうかな。


「いってぇ〜〜〜〜ッッッ!!!」
「ん? キルアの声?」


 その声に導かれてある部屋を覗く。そこには、半泣きのまま足を押さえるキルアと、思いっきり駆け出したゴンがちょうど見えた。ゴンはそのまま地面を蹴って・・・天井に頭をしこたまぶつけた。痛いよアレ。何がしたいんだあの子。


「おや。お客人のようじゃの」
「! あれっ、!?」
「何で髪濡れてんだよ?」


 何故かトレーニングウェア(にしか見えない)姿のネテロ会長があたしに気づいた。ほぼ同時にゴンとキルアもこっちを向く。二人揃って不思議そうな顔をしてあたしを見る。そんなにあたしの登場は変だっただろうか。別にそんなことないと思うけど。


「いや、シャワー浴びてたんだよ。借りれたから。何やってんの?」
「ネテロさんがあのボール取れたらハンターの資格くれるって!」
「そんなこと言うからオレたち挑戦してたんだよ」
「・・・・・・・・・・またこのジジィ・・・・・・悪ふざけを・・・・・・」
!? 知り合いなの!?」
「うーん・・・まぁ」


 ぼろりと口が滑った。隠すつもりはなかったけど言うつもりもなかった。そんな必要ないし。会長と面識あるとなんか言われそうだし。あたしは公平主義、なんで。ネテロ会長は面白そうに片足で立ちながら、左手の人差し指でくるくるとボールを回す。思わず溜息が漏れた。なんて相変わらず疲れるんだろうこのジジイ。あたしの疲労を日毎常に倍増させているのはこの老人だと思う。うん。


『なにしてんですか、ボールを奪うなんてこの子達に出来るわけないでしょうが』
『いやなに、ちょっとしたお遊びじゃよ』


 変化させたオーラで会話する。あああああこのクソジジィ。幾らこの子等がどれだけ才能に溢れていようが出来るわけないだろうが。いいけど。奇跡てのは起きるものだけどね。ゴンもキルアも、何気に出来るかもしれないし。たまに奇抜な考え方するし。


「ところでよ。お主もやってはみんかの?」
「へ!? 何言ってんですか面倒くさいっ」
「・・・・・・お主、本物の面倒くさがりじゃのう。全く変わらん」
「余計なお世話ですよ。とにかくやりませんよ。シャワー浴びたばっかでさっぱりしたんだから」


 がしがしとタオルで髪を拭く。ついでに欠伸まで出た。もう夜も遅いし、寝たい。夜更かしは乙女の肌に悪い。


「ほっほ。逃げるのかの?」
「・・・」


 あ。やべムカつく。


「イイんです。逃げるでいいよもう。じゃ。頑張れゴンにキルア。奇跡は信じてあげるよじゃーねっ」
「何だよそれッ、!奇跡とか言うなよ!!」
「そうだよー、ちょっとは善戦出切るかもしれないじゃん!」
「ああはいはいそうだねゴメンね」
「「謝ってないっ!」」


 そんなゴンとキルアの声を背に、あたしはそのまま部屋を出ようとする。その瞬間――、


どがっ。


「・・・・・・何するんスかこのクソジジイ」
「鈍ってないのう。さすがじゃな」


 不可思議な方向からとんでもない速度で飛んできたボールを思い切り蹴り返す。余裕で受け取ったネテロ会長はあくどい笑みを浮かべた。溜息をついてやり過ごし、あたしはタオルを一度、振り回してそのまま廊下を歩いた。あー、クラピカに言わなきゃ。シャワー室、使われてないといいけど。






**




・・・・・・・・・なんだ、今の。


 オレの目では、ボールの軌道すら捕らえることが出来なかった。
 それどころか一瞬で移動した会長の動きも、気配さえも。
 しかもそれに刹那的に反応したの動き、それすらも。
 嘘だろ? とんでもない動きだった。オレだって、暗殺の技は身につけたんだ、ある程度は強いと思ってるし、自分の力量だってなんとなく分かる。

 なのに今のジイさんとの動きは、・・・・・・・何も分からなかった。
 何だあの得体の知れない動き。
 ジイさんなんか完璧に気配がなかった。それなのには即座に反応してボールを思い切り蹴り飛ばした。意味分かんねぇよ! ただ、あることだけは分かった。ジイさんもも、ありえないほどに、強い。オレなんかはまだ全然、かすりもしないくらいに。





**





「げ。遅かったみたいだけど起こしていいんかなコレ」


 クラピカとレオリオはぐっすりと眠ってしまっていた。そりゃ疲れもあるだろうけど、えー・・・どうしよう。
 そんな風にぐちぐちと悩んでいたらクラピカが目を覚ました。


「・・・、シャワー室は見つかったようだな」
「ああうん。ごめん起こしちゃって」
「いや、構わない。・・・疲れているようだが休んだらどうだ?」
「あー・・・うん、ちょっと今無駄に色んな意味で疲れてさ」
「?」


 不思議そうな顔をしたクラピカに笑顔で手を振って、シャワー室の位置を指示する。そうしてクラピカの背を見送ってから、あたしは毛布にくるまると寝転がった。

 ああもう。無駄に色々疲れたな。


 その日は、夢をみないくらいの熟睡だった。









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080405