「酢と調味料を混ぜた飯に新鮮な魚肉を加えた料理・・・・・・のはずだ」
魚ぁ!?お前ここは森ん中だぜ!?
声でかいっつーのこのドアホが――ッッ!!!!




***5輪***





 腹いせに思い切りレオリオの腹をぶん殴って、あたしは猛スピードで川まで駆けた。
 せっかく物知りだろうクラピカにヒントを聞きにいったのに全てが無駄だろう!?

 キルアにゴン、2人も一緒に川に駆けてくる。他の受験者も猛ダッシュで駆けて行く。ああああああもうレオリオの馬鹿野郎。クラピカもすぐに追いついて、上に着ていた民族服を放り投げて川に飛び込んだ。あ、そうか。レオリオが追いついてこないのはあたしが食らわせた拳が効いてるからか。どんまい。自業自得だよ。


「ゴーン、キルアー。あたしの分もよろしくー」
「分かった!待っててね!!」
「っざけんなお前!自分のは自分で取りに行けよ!」
「水に入るのめんどいんだよ。頼むぜ」
「・・・・・・しょーがねーなもー!!」


 にっこりと笑顔で手を振ったゴンと対照的に怒鳴ったキルア。うん、でも結局良い子だからあたしの分も取って来てくれる。可愛いなー、もうこいつら。なんて素直なんだろう。・・・・・・えーと、うん、あたしはマトモマトモ。(自分に言い聞かせる)

 本当に取って来てくれた魚を持って戻ると、レオリオは未だに悶絶していた。そんなに痛かったのかな。どんまい。医者志望だろアンタ。でもさすがに可哀相になってきたので、レオリオの前の調理台に一匹魚をおすそ分けしてやる。ようやく痛みが消え去ったのか、よろよろと立ち上がったレオリオは目の前に置いてある魚に一瞬唖然として、それから大袈裟に両手を広げるとあたしにしがみついた。


「ありがとよ!!!お前良いヤツだなぁおい!」
「るっせぇさっさと離れろ暑苦しいわこの半裸男!!!」


 その言葉にレオリオはまた落ち込んだ。・・・・・・なんかあたしの対応が冷たい?気のせいだ気のせい。・・・うん、あの・・・半裸っていうのがちょっとムカつくからかもしれない。八つ当たりだったらごめんよ。

 それはともかく、順調に魚をさばいてご飯を握ってみる。レオリオにゴンが行ったけれど余裕で駄目だったらしい。・・・いや、アレは料理とは言えないのでは。あたしだって食べたくないんだけどアレ。放られてもしょうがないじゃん・・・・・・・。さて、あたしだあたし。問題は。


 決まった形。一口サイズ。且つご飯に魚肉。ここから推測していくと、食べやすいモノ。何個でもぱくぱくっといけるもの。食べるほうの身になって考えてみる。とりあえず、小さめだろう。んでもって、魚なんかそのままの形だと気色悪いから捌いてみる。白身と赤身、まぁ見た目の感じ的に美味しそうに見えるのは赤かな。で、ご飯と同じくらいの形に切る。でもって、一口で行くってことは、ご飯の中にあるか、上か下に重なってるか。そんなトコだろう。えーっと、どっちかというと魚肉が上のほうがキレイかも。・・・・・・えっと、こんなんでいいのかな。一個味見。・・・・・・まぁ、いっか。


 とりあえず持っていく。メンチさんのところに。

 ぱかっと開けて見られる。感心したような声がメンチさんからもれた。・・・え、マジ?もしかしてコレで良いわけ?


「・・・・・・アンタ、知ってたの?」
「いえ。ただおそらく一口大で、ぱくぱくっといける物で、且つご飯と魚肉の美しさを追求したらこうなりました」
「へぇ。やるじゃない。そうよねー、料理は美しさが大事よねー」


 ふんふんと上機嫌でいいながら、パクッと食べる。その瞬間、メンチさんの顔色が変わった。


「・・・・・・アンタ、本当に初めて?」
「へ? はいもちろん」
「どうやって作った?」
「普通に握って、えーと、魚肉のなるべく見た目が良いところを切り取って、味見したら温かいと美味しくなかったからなるべく温かくならないように手を水につけて冷たくして―――・・・・え?」


「アンタ!あたしの弟子にならない!?
「はぁぁ!!!??」
「勿論試験は合格よ! ちょっと、そのセンス!勿体無いわ、弟子になりなさい!!」
「いやいやいやちょっとちょっと!!!」
「まだまだ全然改良の余地ありよ。確かにまだまだこれは発展途上!だけどその気配りに美的センス!いいもの持ってるわよ!!ちょっとあたしに人生かけてみない!?アンタ!


 あのスイマセンどういう勧誘なんですかちょっと!!人生!?人生て!!
 なんとかもう既に師匠がいることを話しついでに美食家ハンターになる気もないということを説明し必死に説得し、(ブハラさんも手伝ってくれた・・・良い人だ)解放してもらった。その代わりメンチさんの隣に座って試験見学になってしまった。他の受験者の目が痛い。痛すぎる。だってしょうがないじゃん・・・!!

 そしてあたしが念能力者だということはとっくにバレてしまっていたらしい。まぁしょうがないか。現役のプロハンターだもんね。 それくらい見抜いてもおかしくない。でも上手く隠してたつもりなんだけどな。ヒソカにもバレてたし、そう簡単にはいかないもんだね。

 結局、ハゲ忍者が作り方を皆にバラし(そこでメンチさんは「アンタのスシはこの子の足元にも及ばないわ!」と叫んだため今度は殺気に満ち溢れた目で見られることになった)美味しいスシを誰も作れないまま二次試験終了となってしまった。そう、なんと合格者はあたし一人。・・・そんなぁ。





 結局、試験はなんと異例のやり直しになった。メンチさんが主張した合格者1(もちろんあたしだけ)は取り消しになり、ハンター協会の審査委員会会長、ネテロが二次試験やりなおしを施行した。正直神様に見えました。他の受験生にとっても神様だっただろうけど。あたしはほら、もう合格はしていたけれど、・・・・・・受験生みんながですね、ものすごい殺気の込めた目で見てくるわけで・・・・・・いたたまれなかったんですよ。かなりね。うん。むしろ不合格のほうが嬉しかったよ。


「あれっ、!? 合格したんじゃなかったの?」
「そうそう。受ける必要ないじゃん」
「いいのいいの。やり直しなんだからあたしもやったほうが皆も納得行くでしょーし」
「いいのか?」
「あれッ、なにそれ。クラピカまで心配しなくても平気だってば。で?試験はなんなの?」
「着いたみてーだぜ!」


 レオリオの声に山に降り立つ。ゆで卵にマフタツ山。そっか、あれか。
 クモワシの卵。確か超美味だって話を聞いたことがある。さすがは美食家ハンター、コレを試験にするなんて。笑って飛び降りたメンチさんは、軽々と崖を登って帰ってきた。なるほど。


「じゃあーお先ーっ!!」
「あー、!ズルいや!!」


 ゴンの声に手を振って、奈落に飛び込んでいく。糸につかまって卵を取ってポケットにしまう。数瞬の差はあるものの、ゴンにキルアにクラピカにレオリオ。みんな降りてきてやすやすと卵を手に入れていく。さすがだね。あたしが見込んだだけのことはあるよ。うん。やっぱりこんなところで失格になるようなヤツらじゃないよね。勿体無いよ。二次試験やり直しになって良かった。


「なー。平気だったろ?」
「ああ、心配無用だったな」
「っしょー? クラピカも細い手足でよくやるじゃん」
「・・・・・・それは褒めているのか?」
「さぁね♪」


 褒めてるんだけどね。にこっと笑ってさっさと崖を駆け上る。クラピカの返答が返って来ない。ん?ちらりとその顔を見てみると、うっすらと頬が赤く染まっていた。・・・なんやねん。顔染めるとこ間違ってるよおいおい。





 結果。二次試験は42名合格。もちろん、4人もあたしも含めて。  あー、もう。本当に良かった。



 クモワシのゆで卵も初めて食べることが出来たし!美味しかったし!何はともあれ良いことずくしだったな。

 あ。メンチさんのメルアドもげっとしました。まる。しかもメンチさんが妙にうっとりしてました。どういうことですか。あたし、女の人にモテるとは思わなかったよ。まる。












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080328