「どうしたの?あなた、グリフィンドールでしょ?」 「あ、あの・・・えーっと、エイモス・ディゴリーさんに用があるんですけど、」 「あら、エイモスに?ちょっと待っててね」 ふわりとした雰囲気の優しそうな女性の先輩が、寮の扉の前で右往左往していたオレを気にかけてくれた。ものの数分で扉は開いて、嬉しそうな笑顔をしたエイモスが姿を現す。うう、なんでそんなに嬉しそうなんだよ・・・。 99. 「やあ!!来てくれたんだね。言ってくれれば僕の方から行ったのに」 「いやあの、なんか・・・ごめんなさいこんな時間に」 「そんなことないよ?ここで立ってるのもあれだし・・・近くのベンチにでも行こうか?」 「えっいやいいです大丈夫ですここで大丈夫ですあのほんと」 「そう?」 首も手も全力で振って全力で拒否したら少し残念そうな顔をしながら彼は了承してくれた。月が昇っている。あと2、3時間で消灯だ。さっさと話だけして帰ろう。そう決意してオレは、エイモスの顔を見上げた。シリウスと同じくらいの身長なのかなあ。ふと気づく。 「えっと、あの、オレ、その・・・今日の昼間の返事なんだ、けど」 「ああ!急がなくていいって言ったのに」 「オレ、―――ディゴリーとは、付き合えない」 「・・・そっか。理由きいても、いいかな?」 優しい声が耳にスッと入ってきた。何故か動揺して、オレは目を逸らす。あくまでもエイモス・ディゴリーは紳士的に対応してくれる。そもそもこんな扱いされたことないし、緊張して心臓の音が痛い。女の子扱いされることに慣れない。 「彼氏とか付き合うとかよくわかんねーし、オレ女の子っぽさなんて全くないし。・・・今、誰かとそーゆーことするつもりも、ないので」 「それが理由?」 「・・・まあ」 「よかった」 は?ぽかんと彼を見上げると実に嬉しそうな笑顔が返ってきた。いやあのなんでそんなに嬉しそうなんですか。オレあんたをフリに来たんですけど。ていうかフッたじゃん。今。混乱するオレを放置して、彼はそのまま笑顔で続けた。 「好きな人がいるわけじゃないんだね?」 「へ?」 「じゃあ僕にもチャンスはあるわけだ」 「・・・はあ?」 呆然としたオレを無視してにこにこと笑顔のディゴリーはそのまま強引に話を進める。 「まずはオトモダチってことならどうかな!」 「お友達なら・・・まぁ」 「じゃあ、今度のホグズミード一緒に行かない?美味しいケーキの隠れ名店を知ってるんだけど」 「ホグズミード?」 「友達なら一緒にお茶するくらいいいだろ?」 まあ確かにリーマスともしょっちゅうお茶してるしジェームズやシリウスと悪戯専門店で馬鹿騒ぎしたこともあるしセブルスと本屋さんに行ったこともあるけれど。ケーキの隠れ名店、の言葉にもちょっと揺らいだのは事実だ。・・・うん、まあそれくらいなら。 * 「で、来週のホグズミードに一緒に行くの!!?デートじゃないのったらもう!!!」 「・・・・・・やっぱそうかなぁ」 なんだかぽーっとしながら寮の寝室に帰り、4人からコトの次第を聞かされていたリリーに詳細を尋ねられというか尋問され、洗いざらいエイモス・ディゴリーとのやりとりを打ち明けた途端彼女は悲鳴のような歓声のような声を上げた。心なしか嬉しそうだなおい。他人事だと思って・・・! 「もー!!!なんで私に一番に言ってくれないのよ!リーマスから聞いてびっくりしたじゃない!」 「いや一番びっくりしてるのオレだからね」 「こうしちゃいられないわ、私の服でが着れそうなのあったかしら」 「えっちょっとリリーってばちょっと」 いきなりタンスをひっくり返し始めたリリーの手から次から次へと服が放り出されていく。ベッドの端に避難しながらオレは溜息をついた。仕上がったレポートをくるくると巻いてしまいながら、メイファはオレを振り返って笑った。 「が男の子に告られたなんてね。私も驚いたわ」 「だから一番びっくりしてるのはオレだってば」 「でも不思議じゃないわ。私、2年のころ、をライバル視してたんだから」 「何の?」 「ケイシュウのこと。だって彼、のことが大好きなんだもの」 驚きの暴露にオレは思わず動揺してベッドから転がり落ちた。床に強かに鼻を打ちつけてうめき声が漏れる。ひいひい言いながら体勢を立て直しながら、メイファの話に耳を傾ける。気づいてなかったの?とメイファはあきれ顔だし、リリーは「そうだったわねー」なんて服を放り投げ続けながら返す。なにそれ知らなかったよオレ!? 「ケイシュウ、のことが大好きなの。ホグワーツに入る前から憧れてたんだから。正確に言うと、憧れてたのはアオトさんのほうだけど」 「アオト兄に?」 「入学したらそのアオトの妹がいて、しかもホグワーツでグリフィンドールでクィディッチ選手なんかやってて。しかもポッターとかブラックとか・・・目立ってたから、余計にね」 「・・・・・・」 「幼馴染でずっと一緒に育ってきて、私のことなんてただの姉みたいにしか思ってなくて。口を開けばずーっとのことばっかり。嫌になっちゃう」 だから、メイファはオレをずっと嫌ってたわけか。長い間打ち解けられなかった同室の後輩とようやく仲良くなれたのは3年生の半ば。メイファがクィディッチ選手になった後、オレが箒から落っこちそうになったのを助けてくれた、あのあとからだ。そういえばあのとき、ケイシュウと仲直りしたとか言ってたような・・・? 「そう。あのあとに仲直りしたというか、幼馴染を卒業したというか」 「ねぇ、。クィディッチといえば、去年のあのヘンな事件は解決してないの?」 「ヘンな事件?・・・ああ、あの変なストーカーじみたブラッジャーのやつか」 服を漁る手を止めたリリーが聞く。去年のクィディッチではオレとジェームズが執拗にブラッジャーに追いかけまわされたというよくわからない事件があって、あのときオレは確かに背骨を骨折するという重傷を負った。まあマダム・ポンフリーが簡単に直してくれたんだけど。 「犯人か・・・、捕まってないと思う。リーマスが報復を誓ってたけど、なにも聞いてないし」 まさかオレの知らないうちに言えないアレでコレな状況になったとは思えない・・・よな!? 「あのあともクィディッチではなにもなかったし、心配しなくていいよ」 「でも心配だわ・・・今年はなにもなきゃいいけど・・・」 「ありがとな、リリー。でも今年こそ、優勝杯を取らなくちゃ」 結局去年は3位で終わった。ジェームズも今年でキャプテンが2年目になる。今年こそ勝ちたい。いや、勝たないと。 「最初の試合はあと3週間後だな。ハッフルパフか」 「ハッ!そうよ、そのハッフルパフのキャプテンとデートするのよ、わかってるの!!??」 ・・・・・・・しまった。またリリーに火をつけてしまった。 ←BACK**NEXT→ 130103 |