こんなのオレだって初めてで。どーしたらいいかわかんなくて。 「ん?どした、」 「・・・・・・・・・いや。あの。離れて。」 なんだこれ!もう!やだ! 98. 「ちょっと。どういうこと」 衝撃的な先輩が去って、最初に我に返ったのはリーマスだった。金魚みたいにぱくぱくしたまんまのオレのほっぺたを容赦なく引っ張る。痛い。ジェームズも手元のナプキンで顔を拭きながら、固まったままのシリウスの後頭部にパンチを食らわせた。ピーターが悲しそうな顔でトーストを拾い上げる。 「ど、どーいうことって・・・・・・んなの、オレが知りたい」 「あの人ハッフルパフの7年生でしょ?どこで関わりがあるのさ」 「関わり、って・・・一週間くらい前に一回話しただけだよ。始業式の日に、トイレの近くで・・・お前らが顔に悪戯描きするから、それで声かけられて」 あれか、とリーマスは苦い顔をした。鼻を念入りに拭いたジェームズがオレを見る。微妙に楽しそうな色がその目に灯っていて、なんだか微妙な気分になりながら視線を返した。エイモス・ディゴリーとはそれ以前には、何度か試合で言葉を交わしたことがある。なんせ3年前からハッフルパフ・クィディッチ・チームのキャプテンだ。けれど面識はあったとはいえ顔見知り程度だったのに。 「結構かっこいいじゃないか、彼。どうするんだい?」 「どーするって・・・。付き合うって、つまり、そーゆうことだろ?」 「そーゆう?」 「だから、その・・・キス、したり、とか」 「おお!、君、成長したんだね!」 ジェームズが感嘆の声をあげるのを剣呑な瞳で睨みつける。まあ同室の後輩の方が進んでるからな!夏休み明けてなんだか進展したらしく、リリーが楽しそうに聞き出していたのを横で聞いてたりはしたから。そんなに詳しくないしよくわかんないけど! 「いや、無理だろ、だって・・・だって、さあ」 「返事しなきゃじゃないか!」 「へ、へんじ・・・って・・・こ、断るよ。無理だもん。そんなの」 即答したオレを灰色の瞳が見上げた。なにも言わないでテーブルに肘をついていたシリウスは、そのまま目を瞬かせる。何かを言いたげなその瞳に、何故か不安になった。 「なに?断んの、お前」 「だ、だって・・・」 「ふーん・・・・・・」 しどろもどろで二の句が継げないオレからするりと視線を外すと、シリウスはおもむろに席を立つ。がたりと乱暴にひかれた椅子が大きな音を立てて周囲もびくりと反応するけれど、そんなことにはお構いなしのシリウスは、無造作に荷物を手に取った。 「おいジェームズ、例の薬つくりに行こうぜ」 「は?ちょっとシリウス・・・」 それきり背を向けて歩き出してしまったシリウスを見て、ジェームズは軽く嘆息してオレを見た。少し呆れたような色がその瞳に浮かんでいる。なんだろう。彼の気まぐれはよくあることだけれど、なんだかいつもよりも少し。少し何だか、 「ごめん、。あんまり気にしなくていいよ、あいつ昨日夜中までチェスやってて睡眠不足みたいだからさ」 「・・・・・・なんで、シリウスは・・・怒ってんの?」 「放っときなよ、ガキなんだよ、あいつ」 リーマスが呆れた声で続けた。放っとけよと言われても、シリウスのあんな険悪な空気は触れたことがなかったから、・・・少し、怖かった。不安げな様子が顔にも出てたのか、鳶色の瞳がオレを覗き込む。 「大丈夫?。とりあえず、大事になる前に断ってきなよ」 「あ・・・うん。」 その通りだ。いつまでもズルズル引きずるわけには行かない。いまが昼休みなわけだから、寮が違うエイモス・ディゴリーに会うなら夕食前か後に会いに行かなきゃだ。・・・正直、会いたいとは思えないけれどこればかりは仕方がない。確実に会うなら夕飯後、寮まで行けばいいのかな・・・。そういうと、リーマスは複雑な顔で頷いた。 「なんか心配だなあ。近くまでならついて行こうか、」 「あー・・・うん、でもいい。大丈夫、一人で行くよ。ありがとう、リーマス」 で、オレは結局、夕食後に一人でハッフルパフ寮まで出向いたわけだけど。 ――――リーマスに、ついてきてもらえばよかったって。 本気で後悔することになった。 ←BACK**NEXT→ 121231 |