「なぁ、ジェームズ、シリウス。お前らセブになんかした?」
「ん?いいや、親愛なるスニベルスとはまだ会っていないよ?」
「何もしてねぇよ、大体まだ列車の中だろ?」
「・・・・・・だよな・・・?」


 どうしたんだろう、セブ。





 97.





 オレの心配をよそに、ガタンゴトンと列車は進んでいく。案の定オレはまたしてもシートに沈んで気持ちよく爆睡してしまったらしく、目が覚めたら顔に豪勢な落書きがされていた。落とす暇もなく慌ただしく列車を降りて彼らに続くと聞こえるクスクスという笑い声。うるせー!知ってるわ!落とす余裕なかったんだよ馬鹿野郎!


「似合ってるよ
「うるせぇよ!ったくもう、なに使ったんだよ?拭いても落ちないんだけど!」
「水で洗えばすぐ落ちるって」


 ほんとに学習しないオレ自身に呆れる。日本で生活していたころから、乗り物が苦手なのは変わらない。乗ったらすぐに眠くなってしまうのだ。なんでなんだろうなー。


「ちょっとトイレ行ってくる。先に大広間行っててよ」
「えー!落としちゃうのー!?」
「うるせーよジェームズお前にもしてやろうか!!」


 残念そうなジェームズの声に怒鳴り返して慌ただしく廊下に出る。1階のトイレまでは大分あるなぁ、面倒臭いなあ。久々に履いたスカートが動きづらくて鬱陶しい。私服じゃ絶対にスカートなんか履かないから、夏休み明けの違和感はいつものことだ。


「早く帰ってきなよ、組み分け終わっちゃうよー!」
「わかったー!」


 リーマスの声にそう返して、オレは廊下を走った。誰の声も聞こえなくなったところで、壁に背をつけた。


「・・・・・・はぁ」


 おかしいな。疲れたのかな。なんでだろう、なんか気持ち悪い。頭の中がぐるぐるする。最近は眠ることもできていたのに。嫌な夢ばっかり見ていたあの頃と違って、夢すらも見なくなった。それだけだけれど。
 なんでだろう。ホグワーツは好きなのに。家にいるよりもきっと、ここにいた方が楽なのに。―――なんでこんなに、不安?


「――――ミス・じゃないか」
「ふぉおおおお!!!??」


 全く人の気配を感じていなかったところに、突如として耳に落ちてきた綺麗なテノール声に思わず奇声をあげた。飛び跳ねた心臓を抑えて振り向く。いつのまにか背後に立っていた


「驚かせてしまったようだね、すまない」
「あ!あんた、確か、ハッフルパフの」
「うん。ハッフルパフ7年のエイモス・ディゴリーさ」
「なに!?なんでここにいるんだよ!」
「俺は監督生だからね、はぐれてしまった1年生がいないかどうか確認をしていたんだよ」


 ああ、と思わず納得してしまいながらいやでもそうじゃなくて!と首を振った。オレ、どんな顔してたんだろう。思わず唇をかんだ。けれどエイモス・ディゴリーは爽やかに笑って廊下の奥を指さす。


「とりあえず酷い顔してるから、洗ってきなよ?」
「え・・・、あ!!!」


 はたと思い当って、オレはあわてて走る。忘れてた、どんな顔してたってそりゃおもろい顔だよ!馬鹿かオレ!!そのために来たのに!!そしてそのオレの後ろで、ハッフルパフの監督生が楽しそうに笑ったことには気づかなかった。


「はは、なんだあの子。可愛いな」




――――そして、この人のよさそうな先輩が大波乱を呼んだ。





*




「好きだ、。僕と付き合ってほしい」


 がちゃーん。



 完全に静まり返った食堂で、いま銀のスプーンをビーフ・ストロガノフの皿に沈没させたのは誰だ。てんてんてん、とリーマスの手から落ちたオレンジが転がって足にぶつかる。見事に具の乗った方を下にして、ピーターの持っていたトーストがテーブルに落ちた。ジェームズの口に入れようとした肉が間違って鼻に突っ込まれて、シリウスがサラダにかけているドレッシングの矛先がそれてスープに注がれている。そんななか、灰色の瞳をもった彼は爽やかに笑った。


「ね、
「・・・・・・・・・・。・・・・・・・・・え?」


 お、オレ?

 自慢じゃないがオレはホグワーツ生として生きてきて5年、女の子に告られたことなら手の指の数は通り過ぎるくらいはある。もちろんオレだって可愛い女の子は好きだけど、そういう、あの、ソノ気はないので!基本的には円満に断ってる。それでも女の子に告られてる回数なんて圧倒的にシリウスの方が多いし、たぶんリーマスにも負けてるし、ああジェームズには勝ってるなアイツリリー馬鹿だから、ってそうじゃなくてそうじゃねーんだよ現実逃避だよ分かってる!
 男子に告られたのは、初めてだ!


「あの、いや、あの、えっと、オレ、え?」
「嫌かな?俺のことは嫌い?」
「いやそういうわけじゃ、あの」
「じゃあさ、返事待ってるから。いつでもいいからさ、俺、待ってるから」
「えっちょ!あの、えっ、ちょ、えっ、は、はああああああ!!??」


 そう言って彼は「授業だから!」なんて言って去って行ってしまった。後には呆然とするオレたちが残されるわけで、あって。て、ゆーか。


「・・・・・・・・・・・ええ・・・・・・!!!????」


 なんか、顔があっついです。どうしたらいいですか。
















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