結局、丸一日海で遊んで。
 たくさんたくさん、くだらないことをして遊んで。

 散々笑って、散々暴れて。
 ――――なんかすごく、夏休みだなあ。





 
 95.





「すっげー・・・綺麗」


 人のほとんどいなくなった海辺で、砂の上にみんなして寝転びながら空を仰いだ。ホグワーツの天井にも確かに似た、満点の星空が頭の上に広がっている。インクを零したような空に、きらきらと輝く星がまるで砂のように、一面に散らばっている。


「なー、シリウスー」
「んー?」


 隣に寝っころがるシリウスを呼ぶ。間延びした声が返ってきて、なんだかおかしくなった。逆隣りにいるリーマスもくすくす笑う。


「シリウスってどれ?」
「ああ、うーん・・・よくわかんね」
「天文学でやってるじゃないか、二人とも」


 リーマスがオレたちの会話を引き取って、簡単に説明を始めてくれた。てゆーかシリウスだって優等生のくせになんで知らないんだよ(あれ?そもそもこんなこと授業でやったっけな?)


「シリウスは明け方だよ。太陽とともに上ってくるんだ。暑い夏の時期の到来を告げてくれる。ちょうど今の時期に一番きれいに見えるんじゃないかな」
「ふーん・・・でも明け方かあ。起きていられるかなあ」
「無理だろは。お前、移動中は真っ先に寝るじゃん。列車でもなんでも」
「うっ」


 否定はできない。


「あ、でもオレあれは知ってる。北極星!ポラリス!」
「あーーーー。うん、オレもそれはわかる」


 指差した先に、ひときわ明るく輝く星。シリウスのうなずく気配が伝わる。横で、ジェームズがいつものようにリリーを口説いている声も聞こえてくる。


「この満天の星空よりも・・・、いや、この美しい景色を君と一緒に見られて、僕は幸せだよ。リリー」
「・・・・・・そうね。綺麗ね」


 お!?珍しくいいムードじゃん!?
 ジェームズの口説き方が変わった!なんだと!?
 でも確かに、このロマンティックなムードを生かさない手はない。うん、たまには応援してやるよ!がんばれジェームズ!!


「・・・ジェームズも長ぇよな」
「ねー。1年生の初期からだもんね。あんなんでも一応人気あるのに、よく一筋で頑張ってると思うよ、僕は」
「オレはそれよりもリリーがよく愛想尽かさないと思うよ」


 一斉に横の二人がうなずいた。ちなみにピーターは遊び疲れて横で寝ちゃっている。なんだかんだジェームズとリリーはお似合いだ。黙っていれば美男子のジェームズに、花が咲いたように可愛いリリー。並んでいればそれ相応の二人に見える。


「なんかさあ、いつかは一緒になるといいね、あいつら」
「んーーー・・・」


 いつか。
 ジェームズとリリーが結婚して、オレたちもみんなそれぞれ好きな仕事をして、今と同じように集まって、笑って、馬鹿騒ぎして、こんな風に星空を見上げる。そんな未来があるのかなあ。


「ジェームズとはクィディッチ選手になってたらかっこいいね。ジェームズはイングランド選手、はイングランドの女子チーム」
「すげー!いいなあ、オレ、そうだったらいいなぁー」
「リーマスは何してっかな。お菓子屋?喫茶店のマスターとか?」
「それいいな!リーマスの入れるお茶、美味しいし!」
「僕が?喫茶店?・・・いいね」
「シリウスは?もうお前ゾンコに入れよ、悪戯の素質を生かしなよ」
「おお、それ悪くない」
「ピーターは?」
「じゃあオレが一緒に連れてゾンコに入るわ」


 他愛もない未来予想図に笑う。


「何年たっても、一緒に笑えるといいな」


 誰かがつぶやいた言葉が、ずっと頭の隅に残っている。













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