「喰らえ!!ファイナルデスブリザードアターーーーック!!!」
「なんの!いっけぇぇぇファイアーエターナルスペシャルサーブ!!」
「こっちはブラッディシャイニーフォーチュンブロックだぁ――――――っ!!!」


「みんな楽しそうでなによりだね、リリー」
「そうね。あら、ピーターが目を回してるけど、いいの?リーマス」
「んー、いいんじゃないかな?大丈夫だよあれくらい、いつものことだし」
「それもそうね」


 波打ち際でのほほんと会話する二人の言葉の端々から黒さがにじみ出ている。思い切りそれに気を取られたの頭を、シリウスが放ったビーチボールが直撃した。





 94.





「アオトさんもやりませんか、ビーチバレー」
「ジェームズか。いや、オレは遠慮しておくよ」


 ジンジャーエールのかかったかき氷を差し出しながら誘う僕の言葉に、アオトさんはゆるく首を振った。男の僕でもドキッとしてしまうほど肌がきれいで、細い首筋に流れる黒髪が色っぽい。その首筋にはあの帰ってきた日からずっと包帯が巻かれている。


「オレが参加したら、味方に付いたほうが確実に買っちまうだろ?それに」


 かき氷を受け取りながら、サングラスをちょっとずらしてアオトさんは笑う。


「水着の女の子を見てるのも楽しいもんだぜ」
「なるほど」


 さすがにここまで色男がビーチサイドに寝そべっていると引く手数多で、さっきから女の子が熱視線を送ってくる。それはシリウスも変わりないんだけど、なんというか大人の男の色気っていうものはここまでいかないと見られないらしい。


「・・・ありがとな、お前ら」
「はい?」
の気晴らしに呼んだんだろ、どーせ」
「・・・・・・」


 去年のクリスマスから日は経ったとはいえ、にとって物凄くショックな出来事であったことは変わりない。アオトさんが戻ってきてくれたことは大きかったけれど、それでもあの子がつらい気持ちを抱えているのはわかっていた。


「てめーシリウス!ふざけんな!」
「よそ見してるほうが悪ィんだろ!」


 明るいの声が聞こえてきて、降り注ぐ金色の光の中、水飛沫とともに彼女の笑顔が輝く。よかった、と心の底から安堵する。


「家にいてもキツいだけだからな。・・・随分、辛い思いをさせてしまったから」
「アオトさん・・・」
「一人でいると余計なことを考えるだろ?つまり、そういうことさ」


 そういってアオトさんは首元の包帯に触れた。憂いのある眼元が寂しげに揺れる。


「すべてを失くしてしまったような、虚無感は消えねぇんだ、どうやっても」


 白い首に巻いた包帯はやっぱり痛々しくて、どうしてもあの日を連想してしまう。も、アオトさんも確かに変わってしまったのだ。それでも、とアオトさんは笑う妹の姿を眩しそうに見つめた。


「帰ってきてよかったと思ったよ。オレにはまだ、守るべき存在がいた」


 1か月近く消息を絶っていた兄が帰ってきたとき、あの子は声すら上げずに泣きじゃくった。抱きしめるアオトさんの腕の中で、小さい肩が小刻みに震えて。あんなを見るのは初めてで、だけど、本当によかったと。千鳥さんも、ウォルスさんも、アリアさんも失くして、決してよかったとはいえない、けれど。


「―――さて。そろそろ行けよ、ほら。あいつらが呼んでるぞ」


 ジェームズ!と声を張り上げるシリウスに手を振って僕は立ち上がった。ふと思い立って僕はアオトさんを振り返る。けれど何も言えずに、結局そのままシリウスたちのもとへ駆けだした。




 僕には、彼になにがあったのかを知ることはできない。

 けれど確かに、僕はこの時、固く、強い意志を含んだアオトさんの碧い瞳の色に、なぜだろう、どうしてか不安を抱いていたんだ。



















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