「海ぃ?」


 手紙に書いてあった言葉に素っ頓狂な声を上げる。オレの返事なんか聞こうとせずに迎えに来ることになってんだけど。しかもこの日にちって今日なんだけど。そう思った直後に聞こえた「ー!!」の声に、オレは思わず頭を抱えた。





 93.





「あれ、リリーもいんの?ジェームズよく誘えたね」
「もちろん僕はリリーが大好きだもの!僕のリ「行きましょうよ、ね!!!」」


 きらきらとリリーの輝く笑顔に見つめられたら、うん、勝てないよね・・・。
 苦笑しながらオレはアオト兄とムーディのいるリビングまで踵を返した。ぽかんとしている二人に事の経緯を説明する。黒髪をさらりとゆらして、アオト兄は爽やかに笑った。


「いいじゃないか、行ってこい。どーせそのままキャンプとかするんだろ?」
「でも、家事とか・・・今日の夕食はオレの当番じゃん」
「いいさそれくらい。気にすんな」
「アオト、お前も行って来い」
「は?」


 ムーディの表情の見えない渋い声がそう言う。思わず聞き返したアオト兄に繰り返す。


「行って来ればいいだろう。私も明日は仕事がたまっていたところだったからちょうどいい。保護者として付き添ってこい」
「保護者、て・・・。・・・まあ、いいか」


 苦笑して立ち上がったアオト兄を見て、オレは思わず目を点にした。え?本当に海行くの?


「なにボケっとしてんだ。さっさと準備して来い」


 兄に背中を押されて、オレはあわてて自分の部屋へ駆け上がった。
 てゆーか、水着とか、ないんだけど!!




 とかなんとかやってた朝を思い出す。遠い目。




「本当に来ちゃったよおい・・・・・・」


 ざざーん。
 波打つ音が気持ちいい。白い砂浜、真っ青な海。すげー。今朝起きた時にはこんなことになるなんて予想もしなかったよ。いつものとおり当番制で家事をして、買い物か何か行って・・・くらいだと思ってた。いつもこいつらって唐突だよなあ・・・。


、着替えられた?・・・・・・」
「え、リリー・・・・ちょおおおおおおおおリリーやめ!やめええええちょ!ちょっと!リリー!!!


 着替えてたとこの隣の角から顔を出したリリーが突然オレに手を伸ばして、着ていたTシャツを脱がそうとする。慌てて拒もうと逃げようとしたけど、がっちりと彼女に捕まってあえなく水着だけの姿になる。えー!!?


「なんでTシャツなんか上から着てるのよ!水着の意味ないじゃない!」
「だだだってリリー・・・!!こんなにオレ、肌出したことないしー」
「もったいないわよいいスタイルしてるんだから!」


 いいスタイルっていうのはリリーみたいに腰もきゅっと細くて胸もしっかり揺れるくらいあるスタイルのことをいうと思うんだけど・・・。でも言うと絶対怒られるから言わない。リリーに引っ張られて更衣室から出ていく。男どもがもう遊んでる姿が見えてオレはなんだか無性に腹が立ってきた。男に生まれたかった!もう!






*




 黒地に真っ赤な星柄、しかもところどころキラっと光る派手なジェームズの水着が目に痛い。おんなじような柄のパンツ持ってなかったっけ?好きなの?疑問だよそのセンス。

 なんて思いながらさっそく海で戯れているバカ二人を見た。シリウスはさすがにセンスもよくて、落ち着いた色の黒に近いシンプルなハーフパンツだ。水しぶきを浴びて、まさに水も滴るなんとやらだ。輝く太陽に濡れた黒髪。決まりすぎじゃないのかなアレ。ピーターは薄いオレンジ色の水着で、波打ち際でおとなしく何かを見つめている。アオトさんは大人の余裕たっぷりに、黒色のハーフパンツにサングラスで日陰で優雅に足を組んでる。さすがだ。

 と考えつつ僕は、薄い緑色のスポーツロゴの入ったハーフパンツで波打ち際に座る。女の子は着替えが遅いとはいえ、さすがに時間かかりすぎじゃないかなあ。なんて思う。


「ごめんねみんな!遅くなっちゃって」
「リリー!!待ちわびたよ!!」


 ジェームズが物凄くうれしそうな顔で振り向いた。更衣室から出てきたリリーは、真っ白い肌に映える白地に小花柄の散った可愛いデザインのビキニを着て笑う。鼻血を出さん勢いで駆け寄ろうとしたジェームズの足を捕まえて、シリウスが面倒臭そうに鼻を鳴らした。


「おいリーマス、こいつ抑えるの手伝えよ」
「うん、了解」


 ばしゃばしゃと暴れるジェームズを抑える。ところでは?


「ちょっと早く来なさいってば、!」
「だーーーってリリー!こんなん・・・絶対似合わないってば笑われるってばーーー」
「いーいーかーら!大丈夫よ!もう!」


 リリーに引きずられるようにして出てきたに、思わず僕らは絶句した。

 だって、普段あの子の女の子らしい恰好をしたところなんて、見たことがなかったから。


「うーーーーー・・・」


 リリーに負けず劣らずの白い肌は剥き出しで、何色もの青で作られたチェック地の水着。チューブトップで、形としてはほとんどビキニだ。白くて細い脚が強調されていて 、あれ?こんなにってスタイルよかったっけ?なんてことを思った。


「ほらーーーーー!もうみんな絶句じゃん!」
「綺麗だから言葉を失ってんのよ!大丈夫だから帰らないで!!」


 女子二人の攻防を見ながら、僕はちらりとシリウスを振り返る。
 珍しく真っ赤な顔をしたヤツは、ジェームズに隠れるようにして顔を伏せて呟く声が耳に届く。


「・・・・・・・・やっべぇ・・・・・・」


 その言葉がどんな意味を持っているかは聞かないでおいてあげようかな。














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