「・・・・・・・まじで?」


 ぼやぼやしている間になんと、ジェームズとシリウスの2人はアニメ―ガスになる のを見事に成功させていたらしい。まだまだ失敗続きのピーターと一緒に、顔を見合わせて、 深くため息をついた。


もそろそろなれると思うよ?」


 人間の姿に華麗に戻りながらジェームズが得意げに笑う。





 92.




 なんだその根拠のない慰め。なんか腹立つ。ていうかオレはそもそも練習すら最近は出来ていなかったわけで、こうやってアニメーガスの魔法を使うこと自体が久しぶりだ。あのクリスマスの日から、もう数か月が経過していたことに気づいて呆然とする。月日が過ぎていくのは本当に早い。

 家に戻ったアオト兄からは定期的に手紙が届く。ひと月に一回くらいのペースで。近況報告と家の状況を知らせる義務的なもの。だけどそれに無性に安心する自分がいて、それを確実にわかってやっているだろう兄に感謝する。気持ちがうれしい。


「すっごい久しぶりにやるなぁ・・・そもそも覚えてるのかな」


 杖を握りしめて呟いた。シリウスが笑う。


「あんなに練習してたじゃねえか。少し前までは中途半端だけど成功してたろ?」
「・・・シリウスに励まされるとか・・・」
「うるせぇ」


 軽口を叩き合う。オレが変身するのは、カワセミだ。翡翠とも書く、その体に空色をまとった小鳥。大空を自由に羽ばたく姿だ。何度も辞典を見て、たぶん研究者とか専門家の次くらいにはカワセミに詳しくなったと思う。それぐらいイメージを頭に焼き付けた。




 必要なのは、変化する体のイメージ。
 変身する姿の鮮明な知識と、想像力だ。




 杖をぎゅっと握りなおして、オレは呪文を口にした。




 *





「今年も順位は入れ替えなしかあー」


 誰かがつまらなさそうに言った。張り出された順位表の前で、オレは大きく息をついた。出てなかった授業が多かった後半、本気で今回はダメかと思った。それなのに「順位落としてみろ、家に入れてやらんぞ」っていうアオト兄からの脅しで泣きながら勉強した甲斐があってなんとか前回から平行線の結果だ。よかった。ほんとによかった。


「行こうぜプロングズ!試験が終わったら中庭でやるって決めてただろ!」
「ああ、もちろんさパッドフット!」


 成績表の前から興味なさそうに一瞬で去っていく二人は、今回も首席と次席だ。リリーが悔しそうにしているのもいつもの通りで、リーマスがそこそこの上位に入ってるのもピーターがなんとか平均くらいに滑り込んだのもいつもの通り。よかったよかった。


「来年はOWL試験だもんね、頑張らないとね」
「んー。リーマスはさ、なんかやりたいこととかあんの?」
「うーん・・・。まだ、わからないけど。そうだなあ、甘いものに囲まれて生きられたらいいなぁ」
「・・・・・・・・・・・・・おお、応援するよ・・・」


 ふにゃんと笑ってうっとりとそう言うリーマスに生暖かい声援を送っておく。別にリーマスが幸せならオレはそれでもいいけどさぁ・・・。


は?」
「オレ?オレかー。うーん・・・」


 そういえば将来なにになりたいかなんて考えたことなかったなあ。今が楽しければそれでとりあえずよかったから。


「ムーニー!ソーラ!ワームテール!」


 楽しそうな笑顔でシリウスが駆けてきて、オレたちを呼ぶ。オレとリーマスは互いに顔を見合わせてふっと笑って、あたふたするピーターを引き連れてシリウスの後を追った。

 夏がやってきている。晴れ渡る青空に笑い声が響いた。




「悪戯完了!」



















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