「!!」 「ああ、ごめん・・・リリー、心配かけた」 「なに言ってるのよ!そんなの・・・」 明らかに痩せた親友を抱きしめて、私は首を振る。 「ごめんなさい・・・ごめんなさい、。傍にいてあげられなくて」 「リリー・・・」 「私は、私はいなくならないから」 ひゅっと息をのんだのが分かる。そのまま、は涙の入り混じったような声で笑った。 「ありがとう、リリー」 87. クリスマスを終えて、帰ってきた私が聞いたのはとんでもない知らせだった。日刊預言者新聞を握りしめてわいわいと好き勝手なことを話していたどっかの下級生からそれを奪い取って食い入るようにして読んだ。 「なによ・・・これ・・・」 ――――襲撃!クリスマスの夜の悪夢・・・名門家、壊滅か 青ざめていく自分の顔。記事の死亡者の欄に、ウォルスさん、千鳥さん、アリアさんの三人の名前があった。かつて冬休み、夏休みと遊びに行ったときに接したの家族だ。あのひとたちが、どうして。 にそっくりで、でもあの子よりもずっと凛々しくて、綺麗な金髪のウォルスさん。 艶やかな長い黒髪の、落ち着いた姿にどこか激情を隠し持っていたような美しい千鳥さん。 ふわふわと纏う雰囲気から本当に可愛くて、幸せそうにウェディング姿で笑っていたアリアさん。 あの人たちが、もうこの世界にいないだなんて。 「嘘よ・・・」 だけど私は、その欄にも記事のなかにも、全く出てこないの名前に、嫌な予感を重ねる。アオトさんは、・・・行方不明、らしいけれど。 「そんなところで・・・なにをしている、リリー」 「っ、セブ・・・!」 声をかけてきたセブは、私の握り締めるその新聞の記事に息をのんだ。血相を変えて私の手からそれを奪い取ると、視線を走らせる。セブも知らなかったのか。 「なんで・・・こんな・・・!」 「セブも・・・知らなかったの・・・?」 「僕は、このクリスマスは先輩の家にお呼ばれしていて・・・っ、なにも」 「・・・・・・・・・そう」 深刻な声色に、私は目を伏せる。知らないのだ。がいまどこにいるのかも、生きているのかすらも。なにも知らなかった、呑気にクリスマスを満喫していた自分に吐き気がする。 「リリー!!!そいつから―――離れろ!!」 大声が響く。振り向くとジェームズが、険しい顔でセブに向けて杖を向けていた。シリウスが今にも噛みつきそうな顔でにらみつけ、リーマスやピーターですら冷たい視線を投げる。 「なによ―――なんなの?」 「これがスニベルス、お前らの―――スリザリンのやつらが仕える『あの方』のしたことだ!!」 ジェームズは怒鳴った。だけど、いつもなら冷たい視線を投げてその場を流すだけのセブが、ずかずかと何も躊躇うことなく彼らに近づいていく。感情を抑えられず、シリウスがセブに掴みかかった。 「なにも感じねぇのかよ!!なんも思わねえのかよ!!お前らの大好きな『あの方』が、したことなんだぞ!!あいつが―――どんな声で泣いたと思ってるんだ!!」 「離せ。はどうなった」 「てめぇ――――!!」 「はどうなったと聞いている!!答えろ!!」 怒鳴るシリウスを遮り、セブは思い切り吠えた。その姿に、とうとうリーマスが間に入った。諦めたようなため息が落ちる。 「だめだよ、シリウス。八つ当たりしてても仕方がない。セブルス、君は関係ないんだね?」 「当たり前だろうが!!」 そんなことが起きると知っていたら、どんな手を使ってでも止めた。 そう怒鳴り返したセブに、シリウスの手が緩んだ。ジェームズは苛々と唇を噛み、リーマスはゆっくりと私を振り向く。思わず、言葉が口からこぼれ落ちた。 「知ってるんでしょう―――なにがあったの?はどこにいるの?無事なの?」 「リリー、そうだね。話すよ。僕らもまだ、詳細は知らないんだ」 ね、ジェームズ。と話を振られたジェームズは数秒躊躇ったあと、観念したように肩を落とした。そして―――あの日のことを、話し始めたのだった。 * 話すたびにどんどんリリー、リーマス、ピーター、スネイプの顔が険しくなっていく。シリウスは不機嫌な顔のまま僕の隣で何も言わない。当然だろう、僕だってこんな話、したくない。いつも太陽みたいに笑うあの子の辛い姿なんて、話したくはない。 リリーとセブルスはの≪mover(移動者)≫の能力のことを知らない。だから、突然が僕らのところに現れたことは、おそらく両親かアリアさんの魔法で飛ばされたのだろうと伝えた。僕らが分かっていることも、少ないのだけれど。ただ、僕は、援護で駆けつけた父親の話から、少しだけ詳しく話を知っていた。 あのとき。 駆けつけた闇祓いの人たちが見たのは、かたく手を繋いだまま眠るように倒れていた夫妻の姿だったそうだ。部屋の中は荒らされ、たくさんのものが破壊されていたけれど、2人の体には目立つような大きな傷は無かったそうだ。 加えて、玄関から大広間にかけては何人かの死喰い人が昏倒して倒れていたそうだ。夫妻に倒されたと、捕縛されてから彼らは話したらしい。 そして、上の階で倒れていたのはアリアさん。まるで眠るように、綺麗な顔をしていたそうだ。ただ、気になるのは、彼女は埋葬されるかのように横たわり、静かに手を胸の上で組んでいた。加えて小さなクリスマス・ローズが手には握らされていたそうだ。まるで誰かにそうされたかのように。 「・・・・・・・そんな酷いこと、どうして」 リリーはそっと涙を拭った。信じたくないのはみんな同じだった。あの素敵な人たちが、もうこの世にいないだなんて。 「アリアさんは・・・赤ちゃんがいたのよ・・・?それなのに・・・」 去年の夏、優しそうに笑っていたアリアさんとアオトさん。結婚して、もうすぐ子供が生まれて、あんなに幸せそうだったのに。 なんで、あの幸せを壊されなくちゃならないんだ。 「許せない・・・!」 僕は握り締めた拳を、だけどどうすることもできず、ただ思いきり壁を殴った。やりきれない思いが溢れていく。 「それで、は」 「ああ。完全に錯乱状態で、自傷までし始めたから薬で眠らせてホグワーツまで運んだんだ。聖マンゴに行くかもしれなかったんだけど、ダンブルドアがね。ホグワーツの方が安全だろうから、ってね。で、僕ら・・・僕とシリウスも、クリスマス休暇はまだ明けてなかったんだけど早めに戻って来たのさ」 「じゃあ、ホグワーツにいるのか!」 「そうさ、スネイプ。だけどまだ面会謝絶だ」 「え?」 突然ピーターが声をあげた。唐突すぎてみんなが一斉に彼を見る。あわあわと顔を赤らめたけれども、彼はつっかえつっかえ口を開いた。 「で、でも―――さっき、医務室に、校長先生と知らない誰かが―――」 「ピーター!なんでそれをもっと早く言わないんだい!」 言うなり僕らは走り出した。リリーたちも後をついてくる。医務室の前まで来ると、僕らは耳を澄ました。怪訝な顔でリリーが僕を見る。 「なんなの?」 「しっ!が目を覚ましたのかもしれない!!」 の容体を知りたいのはもちろんだった。なにかを話す声―――そして間もなく、医務室から聞こえてきたのは。 体を引き裂くような、泣き声だった。 その痛々しさに無言で僕らはそこを去った。は、そんな姿を見られることなんて絶対に望んではいない。そもそも「助けて」と言って現れたのは彼女の意思ではないのだ。≪mover(移動者)≫としての彼女の血が勝手に働いたのだろうから。 が僕らの前に姿を現したのは、それから2週間後だった。 ←BACK**NEXT→ 120218 |