いまでも思うんだ。あのとき、オレはなにをすれば良かったんだろうって。 何度も何度も後悔して、夢で幾度もあの日がやってくる。 だけど結局、夢の中でも同じあの日を繰り返すんだ。 83. かしゃん、とキッチンから陶器の割れる音がして、珍しいなぁと思いながらオレは「母さん?」と声をかけた。こわばった顔をした母さんは割れたお皿に目もくれず、ガタリと立ち上がって足早にキッチンを出て行く。ぽかんとしながらオレとアリアさんはとりあえず割れたお皿を片付けようとしゃがみこんだ。 「ウォルス!ウォルス!!」 「どうした?」 「結界が破られたわ」 「・・・なんだと?」 緊迫した様な会話。せっかくのクリスマスパーティ、アオト兄は残念なことに仕事で帰ってこれなかった。仕方なく家族4人でパーティをして、一通り楽しんで、片づけをしようとしていた、そのときに。楽しい一日になんて不釣り合いな会話だろう、とオレはどこかぼんやりしながら両親の会話を聞いていた。 「さっきから結びなおしてるんだけど―――片っ端から破られるの―――相手にも相当な腕の呪術師がいるみたい」 「そうか・・・やっぱり狙いは」 「みたいね。駄目だわ、逃げたほうがいいかもしれない。うちには妊婦がいるのよ?」 「そうだな。アリア!!」 「は、はい!!」 唐突に名を叫ばれて、慌ててアリアさんは答えた。 そのときだった。 どーん!!!!と大きな音が階下から響いた。家が揺れる。オレは衝撃で立っていられなくてそのまま床にみじめに転がって鼻を打った。よろけたアリアさんを咄嗟に父さんが支え、母さんが素早く印を切る。 「くっ・・・駄目だわ、!」 「ふ、うぇ!?」 「アリアと一緒に上へ行きなさい」 「えっ・・・え!?」 「5階の暖炉から逃げろ!ほら、早く―――ッ、!!」 母さんの言葉を引き継いで父さんが叫ぶ。その間にたちまちいくつもの光線が飛び交う。怒声と哄笑が響く。頭のなかが真っ白になる。なんだこれ。なんだ、これ。なんなんだ、この、状況。 「」 呆然とへたりこむオレの腕を引っ張ったのは、アリアさんで。 「行こう」 そのオリーブ色の瞳に宿った強い光を見て、オレは、 「―――うん」 ああ、守らなきゃと、 思ったはずだったのに。 * 「―――――え・・・・・・」 唐突に変わった周りの風景に、オレは思わず伸ばしていた手が空を掴むのが分かった。階下から聞こえていた怒声と悲鳴と物音の嵐。壊れる音、なにかが吹き飛ぶ音、何人もの呪文を叫ぶ声。 必死で階段を駆け上って、次の階への階段へと向かう。身重のアリアさんを気遣いながら無駄に入り組んでいる我が家のなかを駆けた。だけど背後から飛んできた光線に絡み取られてアリアさんが床に転がる。オレは咄嗟に武装解除呪文を後ろに向かって叫んだ。乱射しながらアリアさんの手を取ろうと、手を伸ばす。細くて白い手がオレに向かって手を伸ばしたのを、見て、 「・・・?」 「え、え、え、え――――・・・い、やだっ」 目の前からアリアさんが消えて、周りも、見慣れたオレの家じゃなくて、知らない誰かの家で、見たことない絨毯の上でオレはアリアさんに向けて手を向けた体勢のままで。 まさか、と。頭の中が一気にパニックになったそのどこかで冷静な自分がいた。 「やだ――――いや、やだ、あ、あああぁぁぁっっ!!!」 「え―――おい!?どうした、ちょっと、おい、ジェームズ!が――」 ああ、そうか。オレは、≪mover(移動者)≫だから。 「――――――――助けて」 錯乱状態のなか、それだけ喉から絞り出したことを、覚えている。 ←BACK**NEXT→ 120203 |