「しかし酷い目にあったよ、ったくもう!!」
「でもよかったわ、。大したことが無くて」
「リリー、けど、追っかけまわされるのすっごい辛かったんだぜ!あーもう、もう勘弁」


 しかし正直な話、あいつら(オレを含む)を敵に回した犯人が哀れっちゃあ哀れだったりする。あれからリーマスが図書館から借りてくる本が怖い。『世界の呪い大全集』『悪質な呪文―あなたは誰にこの魔法を使うの?―』『一歩間違えればそこは闇の魔術者―振り向いたらそこにいるのは―』・・・。


 怖いよ!!




 80.





 友達と連れ立って去っていったリリーに手をふって、オレは所在なさげに外を歩いた。今頃あいつらはまたなんかイタズラしにいってたけど、オレはリリーと約束をしていたから断った。(ジェームズが飛びついて来そうになったのを抑えたのは別の話)そのリリーとの用事(単に妹さんへのバースデープレゼント選びにカタログ見に来ただけ)を終えた以上、暇だ。なんとなく戻る気にはなれずぶらぶらと歩く。


「しかし寒くなったなぁ」


 ほわほわと唇から零れる吐息が白い。とゆーかオレ、アレで試合中に箒から落っこちるの2度目なんだけど。去年も似たような時期に落っこちたような。あれはスリザリンの嫌がらせだったけど。このままじゃ、次こそ本当に危ないような・・・。


「駄目だなー、オレ」


 なんだかんだ言って、みんなに助けられてばっかりだ。キーパーってチームにおける最後の砦、超重要な役目なのに。役に立ててる気がしない。こないだ勝てたのは、正直点差を縮められる前にスニッチを捕まえたジェームズのおかげだ。


「・・・。はぁ」


 柄にもなく落ち込んできた。なにやってんだろオレ。そんでもってここで会いたくなるのって父さんや母さんやアオト兄で、そんな風に思うことですらなんだか情けないのだ。誰かに助けられないと生きられない自分を痛感する。家族離れできない子供のままの自分も。

 そのままぶらぶら歩き続けて、湖にまで出る。春や夏ならカップルとかカップルとかカップルとか―――ごほん、でいっぱいになるはずのスポットも寒く なってきたせいか誰もいなかった。けどオレは寒い時期の、薄く濁った冷たい湖も好きだ。


「なにやってんだ、お前」
「ああ、なんだシリウスか。んーちょっとね・・・ってシリウス!?


 驚いて声が裏返った。「なんなんだよ!?」と驚かれた側もまた必要以上に驚いてるけどンなことは問題じゃなくてよ!!


「お前イタズラ中なんじゃねーの!?」
「いや。逃げてきた」
早ぇな!!
「まぁな」


 そんな会話もそこそこに、シリウスはオレの横に腰かけた。なんだ。なんなんだこいつ。盛大に焦ったぞ!びっくりしたぞ!!


「なに悩んでんの。らしくねーな」
「・・・・・・・・・・・・えっ聞いてたの・・・・・・?」
「駄目だなー、オレ。はぁー。みたいな?」
「っっっああああああよりにもよってシリウスにぃぃぃぃぃ!!!!」
「誤魔化すな阿呆」


 ぼか、と後頭部を殴られる。うう、と軽く涙目になりながらオレは膝に額をくっつけた。落ち込んでるときにさらりと横に来るとか、なんだ、こいつ。イケメンか。イケメンだった。そういや。


「・・・・だってオレみんなに助けられてばっかじゃん」
「おう」
「迷惑掛けてるのオレばっかじゃん」
「おー」
「せっかく期待とかしてくれてんのにオレ駄目駄目じゃん」
「確かに」
「別に頭とかよくねーし。勉強とか好きじゃねーもん」
「まぁな」
「出来ないことばっかだし、アニメ―ガスもオレばっかり進歩ないし」
「・・・ピーターもだけどな」
「・・・・・・・・・・・・・いつかみんなに嫌われるんじゃないかって」


 ばごん!


 後頭部がトンデモナイ音を出した。んでもって目の前に星が散った。ぐらぐらする。え、ちょ、なにこれ、オレ、シリウスに殴られた?つーかそんなに殴られるともともと馬鹿なのがさらに馬鹿になるんですけど!これ以上馬鹿になったらどーしてくれんだこの野郎!・・・と思いつつも激痛で喋れない。


「あのな。お前な。ふざけんなよ。誰が誰を嫌いになるって?」
「・・・っ、っ、え、だか、ら。みんなって・・・そりゃシリウスとかジェームズとかリーマスとかピーターとかリリーとかセブとか・・・チームのみんなとか」
「1年のころ言われた言葉をそんまま返すぞ。『お前はオレたちを信じられないのか?』」
「――――・・・あ」


 ああ。そうか。そうだった。涙目で昔を思い返す。そんなこともあったっけ。憤然と鼻を鳴らすシリウスを見上げて、オレは薄く笑った。


「・・・・・・さんきゅ、パッドフット」
「お前は笑ってる方が性に合ってんだよ。だから前だけ向いてろ、ソーラ」
「おう」




*





「イタズラ完了、と」
「全く世話が焼けるねは」
「シリウスも、だよ、ねっ」


 こっそりと茂みの中から覗きに来ていた3人の影に、オレたちが気付くはずもなかった。


















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