「・・・っんだよコレ・・・っ!!」


 オレはひたすらに箒を上へ下へと操作しながら、どうしようもなくただ焦っていた。困ったような顔をしたハッフルパフのビーターがオレの傍でクラブをふるっている。異常事態だ。なんで!?




 79.




「なんなんだよこいつ!!おかしいだろ!!」
「・・・・・・っ」


 焦ったハッフルパフのビーター、アレックス・ドナルドが苛立ち声をあげる。だけどオレは、もはやそれにも反応できないほど必死で箒を駆った。

 ブラッジャーが、オレから離れてくれない。というか、ひたすらオレめがけて飛んでくる。しかもスピードに緩急つけて、不規則な動きで。明らかにおかしいのは、相手チームのビーターがオレを狙っているわけではなく、ブラッジャー自体がオレにめがけて飛んでくる、ということだ。だってそのビーター本人がオレを守ろうとブラッジャーを吹っ飛ばそうとしてくれるんだもの、逆だろ普通。


!」


 異常事態に気付いたディックがすっ飛んできた。でもオレはそれに反応出来ないままひたすら避けた。物凄い速さでオレだけ狙ってくるんだもん!ぴったりと!ストーカーか!!


「――――くっ、」


 必死で集中しながらブラッジャーの追尾をかわす。ていうかどんどん速度増してないか!!?もはや試合がどうなっているかもよくわからない。なんだこれ!





*




、ジェームズ・・・!!!」
「ンだよアレ!!おかしいだろ!!」


 完全に試合が中断されていた。オレは苛だってマイク横のテーブルを殴る。普段ならその行動を諌めるはずのリーマスも、となりで険しい顔をしてフィールドを睨む。ブラッジャーにひたすら追われると、ジェームズ。そう、が必死で逃げているその遥か上空でジェームズも全く同じような目にあっていた。

 グリフィンドールの2人の選手がブラッジャーに追い回され、ビーターが中に入ってブラッジャーを叩きもどすもすぐに戻ってくる。というか今はすでにビーターが割り込むことも出来ずにいた。追われる方と追う方、どちらもすごいスピードだ。


「マクゴナガル先生っっ!!」
「どきなさい――――どくのです!どきなさいエドガー!!」

 
 怒鳴ったマクゴナガルはまずジェームズのほうへ、次にの方へ杖を向けた。


「Protego Totalum!」


 その瞬間、2人を追っていたブラッジャーはそれぞれに目に見えないなにかにはじかれた。立て続けに呪文を放つと、途端に失速したブラッジャーが落ちて行く。解放されたように息をついたジェームズをみて、オレはほっとしながら次にを見て。




 失速して落下したはずのブラッジャーが、の背中を強打したのを見た。




「―――――――っっ!!??」
!!!」


 終わったと思って不意をつかれたは、思いっきり食らって完全に昏倒してそのまま箒から滑り落ちた。すかさず近くにいたエドガーが受け止めて地面にたたきつけられるという最悪の事態は免れたものの、気持ち悪い違和感が残ることになった。


「シリウス、行こう」
「ああ」


 そのまま中止になった試合を終えて、オレとリーマス、そしてピーターは医務室に直行した。疲れ果てた顔のジェームズとグリフィンドール・クィディッチ・チームのメンバー、そして真ん中に。うつ伏せに寝かされながらもはオレたちに気がついて片手をあげた。


「よー!お疲れ、シリウス、リーマス、ピーター!」
「お疲れ、って・・・お前、大丈夫なのか?」
「ん!背骨は折れたし疲れたけど、マダム・ポンフリーが骨折くらいすぐ治せるから、って。今は薬品の調合待ち」
「大事が無くてよかったよ・・・


 思っていた以上に元気な声にホッとする。ずっとしかめっつらだったリーマスがようやく笑みをこぼす。その横でまだユニフォームのままのジェームズが真剣な顔で腕を組んだ。


「でもなんだったんだろうね?あのあと、先生たちの話じゃブラッジャーに細工がしてあったらしいんだけど」
「悪質な嫌がらせだわ。誰がやったのかしら」


 メイファが整った顔をしかめてそう憤然と呟く。賛同するように次々と憤りの声が上がる中、ギルが宥めるように片手をあげた。「追い出されるだろ」と小さく注意して、それから彼はオレたちを見た。


「なんでうちのキャプテンとキーパーが狙われたのかは明らかにしたいよな。何か知らないか、魔法悪戯仕掛け人」
「・・・まさかオレたちを疑ってるのか?悪戯仕掛け人って」
「そ、そんなことするわけ、ないよ!こんなの、こんなの―――」
「こんな洒落てないことするの、イタズラなんかじゃないもんな」


 顔を真っ赤にして反論しようとしたピーターの言葉を受けて、妙に冷静なの声が落ちた。頷くジェームズもハシバミ色の瞳に冷たい光を宿らせる。


「一体犯人は誰だろうね。―――だけど僕らを狙うなんて、命知らずなことよくやってくれたよ。・・・ねぇ?」
「その通りだねジェームズ。僕らを怒らせるなんてどうなることか・・・」


 ん?なんか空気がおかしくないか?

 真ん中にいたが敏感に気付いて肩を震わせた。うつ伏せで顔はあっちを向いているから見えないけれど多分引きつっているだろう。こんな状況は初めてであろうチームメイト達が全員ドン引きしている。オレは見ないふりをしながらマダムの調合が早く終わることをただひたすら願った。


「はは、リーマス、君と考えていることは近いらしいね」
「ふふ、ジェームズ、さすが気が合うね」


 だから怖ぇーよこの2人の暗黒オーラ!!!

















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