「みなに、話しておきたいことがあるんじゃ」 重々しく立ち上がったダンブルドアの言葉に、新学期で浮かれているオレたちの気持ちがすぶすぶと沈んでいくような気がした。 77. 「・・・だからチェルカ、来てないのね」 隣のリリーが悲しそうにつぶやいた。リリーと仲の良い大人しそうな女の子、チェルカ・ルッテンブルグはこの場にいない。その理由は、祖父母の家が襲撃されてしまったこと。ダンブルドアはぼかしたけれど要するに祖父母が殺された、ってことなんだろう。今日もそういう理由で、何人も休んだ生徒がいる。 「アオト兄が助かったのって・・・ラッキーだったのかな」 「―――・・・そうかもしれないけど、が気にする必要はないだろう?」 「・・・」 ジェームズが気遣うように笑った。オレは考えもしなかったけれど、アオト兄の殺された3人の同僚にだって家族がいたはずなんだ。他人事の様には思えなかった。 「こんなこと、これから増えて行くのかな」 「わかんねーよ、そんなの。けど・・・」 リーマスの不安そうな声に答えたシリウスがふと押し黙る。結局なんでもない、と言って首を振ったけれど、なにかあったとしか思えないその姿にオレも何も言えなかった。ピーターが怯えたように肩をすくめる。 「―――しかし!今日から楽しい新学期じゃ!!」 暗い雰囲気の大広間を、突然の明るいダンブルドアの声が切り裂いた。その温かい声に、少しずつみんなが元気を取り戻していくようで。そして最高のタイミングで、テーブルの上に食事が並んだ。歓声が上がる。やっぱり、ダンブルドア校長はすごい。 「とりあえず、食べよう!難しいことを考えるのはそれからだ!」 そう言ったジェームズは真っ先にミートパイを口に入れる。それにつられてグリフィンドールのテーブルの上がだんだんと賑やかになっていく。 「ジェームズ」 「なんだい?」 「ありがと」 「・・・なんのことだい?」 すっとボケて笑うジェームズに、オレは「なんでもねぇよ!」と返してフライドチキンにかぶりついた。 * 「で。なんでオレたち呼び出されたんだっけ、ジェームズ」 「確か新学期早々ミーティングやるとかじゃなかったかな、」 「ちょっとききたいんだけどさ我が友。初日から練習するほどグリフィンドールって熱心なチームだったっけ?」 「いいやそんな覚えはないね。というか新学期初日からフィールド借りれたんだね知らなかったよ」 「そこ!早く来い!」 「「はーい」」 なんだかんだ文句は言いつつクィディッチは大好きだから、初日から練習あるよーと言われて嬉しくないはず無かった。特にオレは夏休み中、自主練しかしてなかったしチームで会えるのは嬉しい。練習用ユニフォームに身を包んで集合する。 「久々だなー、」 「お前ノーコンは解消できたのかー?」 「自主練頑張ってたってきいたわよ」 久々に会うチームメイトと言葉を交わす。クライスは去年で卒業。これで、≪グリフィンドールの救世主(メシア)≫と呼ばれた世代はもう誰もいないってことになる。そう、つまり、これからのキャプテンを決めなきゃいけないんだ。 「オレは、推したい人物がいる」 ここにみんなを集めた張本人、ギルバートから零れた言葉。そして全員の視線が行ったのは、 「え・・・・・・、僕かい?」 ジェームズが半ば困惑したように笑う。だけどオレは、なんだかそうなるような気がしていた。クライスが卒業して、次にキャプテンになるひとって誰だろうって思ったとき、一番に思いついたのがジェームズだった。 「・・・僕でいいのかい、みんなは」 「ジェームズ、君にやってほしいんだ。オレたちは」 強い目でギルバートが言った。オレたちのひとつ上のギルは、年齢や実力で言ってもキャプテンになったってちっともおかしくない。性格だって向いてると思う。その先輩であるギルが、ジェームズにやってほしいと言ってるんだ。ジェームズはさすがにまだどこか迷いの色を浮かべながら皆を見る。 「―――僕は・・・まだまだ未熟だ」 静かに喋りだしたジェームズは、だけど、だんだんとその目に決意の色を宿していく。ああ、ほら、いつものジェームズだ。 「いつもエライことばかり言うから信じて貰えないかもしれないけれど。僕だって自信の無いときだってある、怖くてたまらないときもある。―――だけど」 「悔しかったんだ。去年、クライスを優勝杯で卒業させることが出来なくて」 去年の順位は2位。クライスはそれでも、ありがとうって言って去っていってくれたけれど。それでもみんなが悔しかったはずだ。お世話になったクライスを、≪救世主≫世代のクライスを、優勝で送ってあげたかった。 「―――今年こそ、勝とう。 ギルバート、アドルフ、ディック、、メイファ、エドガー。 僕と一緒に、闘ってくれないか?」 そんなの、決まってんじゃんか。 今までずっと一緒に戦ってきたメンバーはにっと笑って親指を立てる。傲慢で目立ちたがり屋で、だけど誰よりも周りを見ていて、仲間思いの彼を知っている。だから任せてみようと思うんだ。こいつの下で、戦っていきたいってそう思えるんだ。それはきっと、ここにいるみんながそう思っているはず。ギルが満足そうに笑った。 「よろしく頼むぜ、新キャプテン。期待してる」 「こちらこそ、よろしく」 新・グリフィンドール・チームの誕生だ。 ←BACK**NEXT→ 111229 |