最近、アリアの調子があまり良くない。 気が付いたらソファで眠ってしまうし、夜は目を離すとすぐに夢の中だ(普通の新婚夫婦の夜の生活、も今までは普通に送ってきたはずなのだけれども)。 昔からどこかぼんやりしているところのある娘だった。だけど、あまりに顕著すぎて、正直心配で仕方ない。 71. 「いってらっしゃい、アオト」 「そろそろ病院に行ってこいよ?」 「うん、大丈夫だよ」 ふわりといつものように笑うアリアをそっと抱きしめる。いくら妻の体調が悪いとはいえ、簡単に仕事を休むことはできない。特に最近では『闇祓い』の仕事がやたらと増えて休日もろくに取れない有様だ。同居している母親にアリアのことを頼むと、オレは『姿くらまし』して職場へと飛んだ。 そして今、たくさんの仕事を終わらせ、連絡が無かったからきっと何事もなかったのだろうと結論付けて帰ってきたオレは、玄関先で困惑することになった。 「・・・・・・・・・アリア?」 帰宅するなり腰に抱きついてきたアリアは、そのまま何も言わずにオレの胸に顔をうずめて。・・・オレをこんなに困らせるのも、彼女しかいないだろう。何度呼びかけても一向に返事を返さない彼女に、何かあったのだろうと両親に助けを求めようと読んでも出てくる気配はない。一体何なんだ。 「アリア、何があった?・・・せめてリビングにくらいあがらせてくれないか」 「・・・・・・」 仕方ない、とため息をつくとオレはセピア色の髪をそっと撫ぜて子供をあやすように背中を叩いた。彼女の気が済むまではこのままでいてやろう。帰宅してから既に数十分が経過していた。 「・・・あの、ね」 「ん?」 ようやくそろそろと口を開いたアリアはゆっくりとそのままの体勢でオレを見上げた。オリーブ色の瞳にオレが映る。 「・・・・・・・・・赤ちゃん、できたみたい」 * 『アー!アー!ただいまマイクのテスト中。ただいまマイクのテスト中ーっ』 テストが明け、成績も開示されて(オレは無事に去年の成績をキープした。なんだかんだ言って順位を落とさなかったし。首席はやっぱりジェームズだったっていうのがどうしても気に入らないけど。でも今回は手伝ってもらったし、感謝はしてる)あとは夏休みを待つばかりの、ある日。大広間に呑気な声が響き渡った。声の主は、シリウスだ。 「な、なんだ!?」 ざわめきだす生徒と先生たち。その姿をオレたちは「上から」見下ろしながらにやりと笑みを交わした。リリーとセブが見える。おお、2人とも呆れた顔してるなーやっぱ2人にはお見通しなのかなあまあいいや。 『オーケイ!準備万端だぜ、プロングズ!』 『流石だねパッドフット。じゃあ交代だ』 『Yes,sir』 拡声魔法の調整を行っていたシリウスからバトンタッチして、ジェームズは口を開いた。ちなみにオレたちの姿はみんなからは見えない。だって、ここは。 『親愛なる我らがホグワーツの生徒諸君!今年はあまりイタズラが起きなくて退屈だったろうね!』 「阿呆か!平和だったわ!!」 レイブンクローの机から声が上がった。さざなみのように笑いが起きる。ジェームズは構わず笑い飛ばし、その横でオレたちは着々と準備を進めた。離れたところにいるリーマスとピーターがそっとこっちを窺っているのを感じる。 『――さて、明日から素晴らしい夏休みがやってくるよ!そんな君たちに僕たちからの――――――・・・』 言葉を切ったジェームズの声に静まり返る大広間。そしてオレたち4人は合図を待つ。 『―――宣戦布告だ!』 瞬間。 大広間の四隅に置かれているオブジェの口がかぱっ!と開いて花火が上がる。大きな音に悲鳴がいくつも上がるけれど、ホグワーツの星の瞬く天井の夜空に満開の花が一斉に弾けすぐに歓声に変わった。そしてオレたちは天井の隅で箒に乗りながらかぶっていた透明マントを取り払う。上空待機組はオレとジェームズ、花火を仕掛け爆発させたのはリーマスとピーターだ。 次はオレたちの番だとばかりに、オレたち2人は箒で宙を蹴ると全速力で上空を旋回した。そして杖を取り出して大きく振る。教員席から悲鳴が上がる。 「ポッター!!!!!」 頭にショッキングピンクのよそ行き帽子を乗せたマクゴナガル先生が怒鳴る。ところがその横でダンブルドア校長が、うさぎがてっぺんから顔を出している長いシルクハットを頭に乗せたままふぉっほっほなんて楽しそうに笑うから、マクゴナガル先生は毒気を抜かれたようにため息をついた。生徒の笑い声が大きくなる。 「ほっほう!!」 ファーとリボンとで可愛くデコレーションされた猫耳を頭につけたスラグホーン教授は面白そうに笑っていて、キアリス教授のような噛みつく反応を期待してたオレたちは少し呆気にとられる。それでいいのかスリザリン寮監? 「まだまだ!」 笑い声が少し静まったタイミングでジェームズの声が上がり、リーマスとピーターが再び花火を打ち上げる。まず南から一発。 ――Moony―― 次は東。 ――Wormtail―― 次は北だ。 ――Padfoot―― そして西。 ――Prongs―― そして最後に、大広間のど真ん中から、 ――Sora―― キラキラと金色に輝く文字が空に浮かぶ。皆がそれに気を取られている間に、オレとジェームズは下に降り立ってシリウスが代わりに空中に飛び込んでいく。悪そうな、だけど楽しそうな表情で杖を構えて箒を駆るその姿に、女子からの歓声の声が大きくなる。上空で杖を大きく振ると、机に何箇所も置いてある花瓶の花が軽い音を立てキラキラしたものを振りまきながら弾けていく。 「花びらに何か書いてあるわよ!」 リリーの声が聞こえる。それを聞き流しながら、シリウスが空中に大きなきらめく金色の文字を出現させ、弾け続ける花にあがる大歓声にまぎれながら姿をくらましてオレたちのもとに戻ってきたのを確認し、ジェームズが再び自分の喉に拡声魔法をかけた。 『――こんなのはまだまだ序章だけどね!次年度からは本格的に活動していくんで、よしなに頼むよ!それじゃあみんな、素敵な夏休みを!』 それだけ告げるとオレたちは誰からも見えないようにさっさと大広間から逃げる。まだ歓声が鳴りやまない大広間からの声に、オレたちは5人でハイタッチして笑った。 ――We are Purveyors of Aids to Magical Mischief!!―― (我ら魔法悪戯仕掛け人!!) ←BACK**NEXT→ 111010 |