「・・・行くよみんな」
「おう」
「う、うんっ」
「うっし!」


 ジェームズの掛け声に一番男らしく答えたオレは全員から白い眼差しで見られた。リーマスまでそんな目しなくても・・・!




 70.




「――――・・・・・・え、っと・・・」




「見てよ!僕、蹄まで出るようになった!四足になれたし!かなり進歩したんじゃないかい!?」
「なんか着ぐるみみてぇなんだよなー、オレ」
「ひげ!ひげが出たよ!」
「・・・。・・・・・・・・。(中途半端鳥人間から進歩なし)」




「仮装大会でも企画するの?」
「「「「ちっが―――う!!」」」」




 困ったように半笑いで首を傾げるリーマス。まあ当然の反応だろうなぁなんて思いながらも、オレたちは全力で否定した。やっぱり無理だった。半年やそこらでこの難易度の魔法を習得するのは。・・・かなり頑張ったんだけどなあ。


「最初に言い出したのは、だよ」
「ジェームズ?」


 ぱっかぱっかと蹄の音を立てながらリーマスに近づくジェームズ。多分、一番ジェームズが成功に近い。トナカイの鼻にメガネがのっかったままなのと、髪の毛が残ってること、目が人間の目のままだってこと、あと思いっきり人語を話せることを解決すればほぼ成功だろう。


「『アニメーガスなら、リーマスと一緒にいられるんじゃないか』ってな」


 まさに黒犬の着ぐるみをかぶってる状態のシリウスは(つまりなんだかニセモノちっく。動作とか人間だし、二本足で歩くし)言いながらオレを見た。


「それって、どういう・・・」
「あの、ね!狼人間は、人間を襲うのが本能だから、えと、僕らが動物になっちゃえば、襲われないですむんじゃないかって!だから、満月でも、一緒にいられるんじゃないかって!」


 耳・シッポに加えてみよん、とヒゲの生えたピーターが顔を紅潮させながら言う。呆気にとられたようなリーマスは目を瞬かせてオレたちをゆっくりと見回す。


「え・・・待って、じゃあ、君たち・・・もしかして、ずっと」
「あ―――、うん。ほんとはさ、みんなで成功させてリーマスをあっと言わせたかったんだ。目標は今日。とか言って、そんな簡単に上手くいくような魔法じゃなくってさぁ」


 あはははとごまかすように笑いながらオレは頭の後ろをかいた。その頭をべちん!とシリウスが叩く。「なんだよ!」と見上げれば、口の端を引きつらせたシリウスがオレを見下ろした。


「おーまーえーが、勝手に期限決めたんだろ!」
「しょーがねーだろ不可抗力だってばどんだけ引きずるんだよお前は!」
「だけど3年生でここまでやり遂げた僕らもなかなかだよねー」
「最初はなんにも起きなかったもんね・・・」


 数か月前。呪文を唱えようがなにしようが変化どころか髪の毛一本も動くことすらしなかったあのころに比べれば、確かに随分な進歩だ。4人で顔を見合わせる。まだまだ中途半端だけれど、頑張ったんだなあ。ふと、無言のままのリーマスを振り返る。


「・・・リーマス・・・?」




*




「えっ、ちょっとリーマス!?なんで・・・っ」


 慌てたが駆けよってきて僕の頭を乱暴に抱きよせた。数瞬遅れたシリウスがの上から僕の肩を抱く。


「・・・ッ・・・、ごめ、ん」
「なんで泣くんだよ!つーか、完成、できなくて謝んなくちゃいけないのはオレのほうで・・・」


 ジェームズの蹄がカカッと響いて、それでがぴたりと黙り込む。僕は口を覆って嗚咽が漏れるのをただ必死でこらえた。優しい優しいジェームズの声が落ちる。


「ねぇリーマス。こういうときって、なんて言うか知ってるかい?」




「ごめんじゃ、ないよね?」




「―――――ッありがと!」




「「「「it will be natural my dear !!」」」」




*




「魔法悪戯仕掛け人、さ!」
すっげ―――――!!!


 キラキラした目でジェームズの言葉に食いつくシリウス。ちなみにオレたち4人はもとの姿に戻った後だ。さすがにあの無残な姿のままでずっといるわけにはいかない。

 そんななか、ジェームズが「ずっと考えてたんだ」とおもむろに言いだした「オレたちの通り名」。曰く、ただのイタズラ集団じゃつまらないじゃないか、というのが持論らしいけれど。


「仕掛け人らしくコードネームもつけようじゃないか!」
「コードネームねえ・・・別にいいけど」


 ノリノリのシリウスとジェームズに半ば置いて行かれながらオレはとりあえず曖昧に頷いた。リーマスはにこにことそれを見守り、ピーターはぽかーんと口を開けている。 


「こんなのはどうだい?リーマス!」
「え、僕から?」


 完全に傍観者を決めていたリーマスが突然呼ばれて目を瞬かせた。得意気なジェームズがびしっ!とサムズアップする。


「『Moony』!」
「・・・月の人、か。なるほどね、洒落てる」
「オレはオレは!?」
「シリウス?―――『Padfoot』でいいんじゃない?」
「全然かっこよくねえ――――!!」
「犬の足の肉球!あははははははは!!!」


 リーマスがにっこりと言った言葉に、オレは爆笑してジェームズはイイネ!と笑顔を返してピーターは何故か慌ててシリウスは大声を上げた。それから「パッドフットかあ・・・」と思案気な顔で首をひねっている。いやお前ぴったりだよ。だって犬に変身した時の肉球ぷにっぷにだもん。

 
「じゃあピーターは『Wormtail』だな!」
「・・・ああ、なるほど。ネズミのシッポはミミズみたいだからか」
「えええ!!?」


 びっくりして固まるピーターの命名にケタケタとみんなで笑う。オレもなにか出そうとジェームズを見た。鹿。鹿かー。鹿・・・。あ、そうだ!

 
「『Prongs』でどうだ!」
「枝分かれ?どういう意味だよ、
「分かった!ジェームズの、角だね?」
「リーマス正解!ほら、枝分かれしてるじゃん、牡鹿の角って」


 「よし、僕はプロングズだね!」とジェームズはアッサリ納得する。自分でもなかなかヒネリのある良いネーミングだな!なんてちょっと自画自賛してみる。少なくともワームテールよりセンスいいよな。多分。
 

「じゃあはどうする?飛ぶ人?」
「ふ、フライヤーとか?」
「待って!は、僕が考えてた名前があるんだ」


 ニヤリと笑うジェームズが、シリウスとピーターの会話を遮って右手を上げた。オレを見て楽しそうに笑う。


はカワセミだろう?青い羽を持つ小鳥」 
「うん、多分」


 真っ青な羽が生えるから、多分それは確定だ。綺麗な青い、翡翠とも書く小鳥。青い羽根が生えた日から鳥の図鑑を漁って確かめたんだからきっと間違ってない。


「で、の目の色もそんな色に近いじゃないか。どっちの色もまるでskyblueだなって僕は思ったんだ。それでのお母さんから聞いたんだけど。日本語ではなんて言うのか」
「?」 


 よく話がわからない。首を傾げると、ジェームズはコホンと咳払いすると鮮やかに笑った。


「『Sola』!日本語で、sky。ソーラ!どうだい!?」
「え、いやソーラじゃなくてソラ・・・」
「いいね。ぴったりだと思うよ」
「いやだからソラ・・・」
「ソーラかー。確かに似あうな。目の色もそうだし」
「えっ、ちょ、だから、」
「う、うん!僕もいいと思う、よ!」
「待って、えっ、え?・・・ソーラ?」




 拳を掲げて、5人でコツンとぶつけあい、窓から差し込む半月の光に笑う。もしかしたらここが始まりの時なのかもしれないと、なんとなくオレは思った。


「Moony」「Warmtail」「Padhoot」「Plongs」「Sola」
「「「「「我ら魔法悪戯仕掛け人!!!」」」」




 魔法悪戯仕掛け人、誕生の日。
 絶対に、忘れられない、大切な一日になった。
 






 







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