「リリぃいいいいいいいどぉしよぉぉおおおおおお」 「なんで直前になって言うのよ・・・」 「だってぇぇぇ」 「とりあえず魔法史はこれとこれとこことここを覚えて!呪文学と変身学は得意だったわよね?薬草学はこことこことここをとりあえずやりなさい!」 うわーん出来る親友がいてよかったよー! 68. 「そもそもなんでこんな直前に言うのよ・・・あら、でも多少は勉強してるのね」 「その通りさリリー!この僕に手抜かりなどはないよ!」 「あなたには聞いてないわジェームズ」 ピシャリと辛辣に言ったリリーはオレの大量の羊皮紙とアンダーラインだらけの教科書を見てそう言った。オレは半分泣きそうになりながら白紙を埋めつつ頷く。 「オレ、去年、順位ハネあがっちゃったから落とせないんだ。アオト兄にも『落とすなよ☆』って言われちゃってるしあぁぁぁぁ」 「そうよね、去年がんばってたものね・・・今年は、確かに忙しそうだものね、」 「うん。ありがとリリー、でココなんだけどさ」 「ハイハイ、これはね・・・」 リリーが言う忙しさとはクィディッチのことだろう。7年生で忙しくなったクライスに変わって、オレたちは次期キャプテンのもとで練習するようになっていた。だから練習もちょっと変わるし、去年までは最年少だったオレたちも後輩が出来たわけで、ボヤボヤはしていられなくなった。 「あぁピーター、そこはこうだよ。だからここまで間違ってしまったんじゃないかな?」 「あ、ジェームズ、ありがと・・・!」 そしてジェームズはここ数日はすっかり大人しくなって勉強している(自分の勉強と言うよりはピーターやオレの補佐だけど)。実際問題なのは、「リーマスとの約束」だ。あれからあまり大した進歩はない。最難関の魔法だってのをオレたちは今さら痛感している。 「困ったのは占い学だよなー。オレあれ、ほんっとに苦手」 「オレも」 珍しくオレに同調したのはシリウスだ。占い学の先生はザ☆チャイニーズ☆おじいちゃんって感じで決して嫌いではないのだ。ないのだが、今にも御臨終を迎えそうなくらいの御高齢で(失礼)授業は、うん・・・眠い。ビンズ先生といい勝負だ。 「今回の課題って水晶占いだよな?あ――無理だわオレ」 「同感。無理。陰陽五行だったら母さんに教わろうと思ってたのになあ」 見た目にそぐわず、世界中の占いを教えてくれてそれはなんだか民俗学チックで、眠いのを我慢して聞けば面白いのだけど、それはそれ、これはこれ。試験範囲が日本の呪術だったらよかったのに。そしたら母さん直伝の知識が多少はある。 「のお母さんはそういうの得意なの?」 「っていうか本業なんだよ、リーマス。日本ではそーゆー勉強が主だし。アオト兄も得意なのになー、父さんに似たのかなあ」 「ウォルスさんって首席卒業じゃねーの、お前だれに似たんだ」 「うるせ――――!!!」 つーか本当だよ、なんでオレだけ標準の頭脳なんだよ納得いかない。父さんもアオト兄も首席卒業、母さんは日本からの特別留学生、なんでオレだけそんなに頭よくないの!? 「そんなことないわよ、だって去年は5位だったんでしょう?」 「・・・うん、でも今年は」 「やってみなきゃ分かんないじゃない、最初から諦めてどうするのよ」 「・・・リリー・・・」 「ね?」 優しい親友の笑顔に救われる。うん、頑張ろう。 * 「千鳥、これ」 「え?」 古い本を差し出してきた夫から受け取って、私はじっとそれを見つめた。昔、そうホグワーツに留学していたころの教科書だった。なぜこんなものが今さら。 「書斎を整理していたら出てきたんだよ。今度が帰ってきたら渡してやれ」 「・・・?」 夫の意図が掴めずに首を傾げる私に、ウォルスは若いころと変わらない仕草で私の髪を撫ぜた。全く色褪せない笑顔で(歳をとって深みは増したけれど)そっと表紙をめくる。 「あいつ、成績が振るわないから、誰に似たのかって悩んでるって話をアオトに聞いたんだ」 「誰にって、そりゃあウォルス、あなたでしょう。あの破天荒でノーテンキなところ。そっくりよ?」 「そうか?まあ確かに、アオトはお前に似たからなあ」 黒髪に海色の瞳を持つ長男アオトは、確かに私によく似ている。物事を考えすぎるところ、妙に冷静なところ。子供らしくないところ。弱みを見せることを極端に嫌うところ。大して妹のは、どうも考えることよりも行動が先に出て、表情もころころ変わる。私から言わせてもらえれば、ウォルスにそっくりだ。 「いや、は千鳥に似たところもあるぞ」 「そう?瞳の色は一緒だけど、あとはそうね、手の形が似てるかしら・・・?」 「いやいやそうじゃなくて。アオトが天才型っていうのはオレ似だろ?の努力して努力して努力する、あの頑張り屋なところはお前にそっくりだよ」 「・・・・・・」 そうだ。ウォルスは、学生のころから、一度聴いたら理解してしまうほど、要領もよく呑み込みも早かった。それに対して、私の成績が良かったのはただ単にそれだけ勉強していたからだ。呑み込みの良さは人並み、だけど努力ならだれよりもしていたと思う。 「オレの教科書は綺麗なままだけど、こんなにぼろぼろになるまで、千鳥は勉強していたもんな。覚えてるよ、図書館の隅っこで必死でやっていたのを」 異邦の地でまともに授業についていくためには、それこそ他人の数十倍も頑張らなければならなかった。古い記憶をひっぱりだされて私は苦笑する。 「・・・そうね、そこはたしかに私に似てるわね、は」 「だろ?」 次に娘が帰ってきたら、少し昔の話でもしてみようかしら、と久しぶりにそんなことを思って、ああ、私も歳をとったな、なんて呟く。隣の夫はオレもだよ、と言いながら笑った。若いころから少しも変わらないその鮮やかな笑顔に、私もすっと笑みを返した。 ←BACK**NEXT→ 110913 |