いつもいつもいつだって、そうあいつは無茶ばっかりするから。 そのくせ、結局話してなんてくれないから。 心配なのだ。なんだかんだいって。 へらへら笑いながら、危険につっこんでいくから。 「・・・ちっ」 軽く舌打ちして、僕は暴れ柳のなかに足を踏み入れた。 66. 「・・・え・・・・・・?」 オレは暴れ柳の下で途方に暮れていた。リーマスが話してくれた、校長の特例、暴れ柳からの入口、通じている叫びの屋敷。全部知ってる、分かってる。なのに、 先に、進めない。 「え?え?え―――なん、で」 セブのもとへと≪移動≫したはずだったのに、オレが到着したのは暴れ柳の前。困惑している間も惜しくて先に進もうと足を進めようとしたのに、それ以上足が動かない。入口は見えてる、進まなきゃいけない道も分かる、この先にセブとリーマスがいることも分かっている、なのに。 足が動かない。 「そんな―――なんで、」 焦りと困惑と不安とで真っ白になっていく頭によぎったのは、≪mover(移動者)≫ 。 ――――自分で発動しなくとも、その人に命の危険が迫れば意思に無関係に勝手に発動してしまうほどの魔法――― 「―――――ッッッ!!!」 命の危険が伴う場所に、オレはそもそも行くことができないのか。つまりそれは、セブが、リーマスが。焦るだけで動こうとしない足。嫌だ、なんで、どうして? こんな肝心なときに動けないなんて。 こんな能力になんの意味がある? 動かない、震えるだけの、使い物にならない足から崩れ落ちる。 「嘘だろ―――嫌だ、やだ、嫌だ・・・っ」 このままじゃセブもリーマスも。 オレの前から いなくなっちゃう。 それでも、オレの足は動かない。 ああ、無力だ。 「――――くそ・・・ッ!」 「!?」 「ッ、ジェームズ!」 駆けてくる足音に振り返る。へたりこんでいるようにしか見えないオレに驚いたようにジェームズは近寄ってきて、オレはその腕にすがりついた。動けない。足がこれ以上さきに動かない。泣き出してしまいそうな声でそれを伝えると、ジェームズは眉を寄せて、でも決意したような目でオレをまっすぐに見た。 「!君はできることをやるんだ!この先は僕が行くから、君は校長先生を、ダンブルドアを呼びに行ってくれ!」 「っ、うん・・・っ分かった」 頷いてオレは、ジェームズがオレから視線を外したその瞬間に≪移動≫した。音もなく校長室に現れたオレに、校長は驚くそぶりも見せずにオレをみる。 「ダンブルドア先生!リーマスが―――」 * 一番怖いことはなんだった? 僕がなによりも怖かったのは、狼人間だとバレてしまうこと。 そして、この手で、この牙で。 大切な人たちを傷つけてしまうこと。 「・・・・・・」 目を開けて飛び込んできた真っ白なカーテンと天井に、即座にフラッシュバックした昨日の光景。目の前で真っ赤に染まったのはジェームズの背中だった。見慣れたボサボサの黒髪にまで血糊が飛んで、もともと顔色の悪いスネイプの顔が蒼白になったのまで目に焼き付いている。 「・・・はっ」 自嘲ぎみの笑みが唇に浮かんだ。なにが大切な友達だろう。仲間だろう。理性を失った自分の前では、ただの狩るべき獲物のひとつでしかなかったのだ。 自分は紛れもなく狼人間なのだってことをこんなにも突き付けられたのは初めてだったかも知れない。もう、あいつらは僕の前には現れないかもしれないなあ―――・・・どんなに危険か、きっと嫌というほど分かってしまっただろうから。 「・・・?そういえば、体が重――・・・」 そろそろと起き上がって呆然とした。 「え」 僕の体の上に倒れるようにして眠っている、きらきらした特徴的な金髪の少女。は目の周りを真っ赤に腫らして、涙の跡をいっぱいつけて、そしてよだれをたらしてすうすうと寝息を立てていた。 「・・・!!」 ふと振り返ると、衝立がどかされた隣のベッドには包帯を何箇所もぐるぐると巻かれたジェームズが間抜けな顔していびきを立てて眠っていて、ベッドの間の空間に、壁にもたれて座り込んだシリウスが眉間にしわを寄せたまま目を閉じて。ピーターはジェームズのベッドの端っこで、蹴られながらもネズミみたいに丸まって眠っていた。 ああ、もう。なんなんだろう、こいつらは。 ――――オレたちはリーマスの傍にいるよ あのとき言ってくれた言葉がどれだけ自分を救ってくれただろう。傷を見るたび、まるで自分が痛いかのように眉をひそめるその表情に、いつだって僕は救われた。 「・・・んー、リー・・・マスぅ・・・ごめんな・・・どこも行くなよー・・・」 横のシリウスが寝言を呟く。どうしようもなく切なくなって、僕はこっそりとシャツの袖で目元を押さえたまましばらくじっとしていた。 ←BACK**NEXT→ 110902 もちろんシリウスはみんなに全力で叱られた後です。 リーマスにもこのあと目を覚ました後、全力で謝ります。 |