「・・・セブ・・・?あれ?」 いつもいるはずの図書室の一角に、見慣れた綺麗なストレートの黒髪を探したけれど見つからない。どこ行ったんだろ? 「この本、返そうと思ったんだけどなあ」 新しめのファンタジーの本を抱えたまま、オレは所在無さげに廊下に出た。 65. 「おっかしーなぁ、セブがこの時間に図書室にいないなんて」 一人呟きながら、オレは廊下を歩いた。セブって大体時間のあるときは図書室にいてひたすら本を読んでる。それも分厚くてかなり難しそうな本。オレは読書が好きな方ではあるけど、よく読むって言ったらやっぱりファンタジーだ。それを言うとセブは子供だなって顔をするけど、オレが読みたそうにしていた本を探し出してくれたりするからなんだかんだでやっぱり優しいんだ。 で、少し離れたところから喧騒が聞こえる。・・・どうやらやっぱりあいつら、みたいで。そのこととセブが図書室にいなかったこととが符合して、オレは眉を寄せた。 「ったく、セブには手ェ出すなっつってんのにー!」 言いながらオレは床を蹴った。で飛び出すとそこにはセブとシリウスが・・・ん? 「シリウス!テメェまたセブになんかしたんじゃねーだろうなっ」 「あ!?・・・あぁ、か、なんもしてねーよバカ」 「・・・?セブ、大丈夫だったか?」 いつもならセブをイジめてるジェームズとシリウスのとこにオレがすっ飛んで行って2人に百味ビーンズをお見舞いしてセブをかっさらって一件落着、なんだけれどもなんか今回は様子が違った。そもそもなんか挑戦的な目ェしたシリウスだけだし、セブはセブでなんかものすっごい憎々しげな顔でシリウスを見てるし、・・・なんだこれどういう事態だ。 「セブ?大丈夫?」 「・・・ああ、に心配されるほど僕はやわじゃない」 「いやお前そんなことないから」 「うるさい」 え?え?ちょっと、どういうことだよ?唐突に踵を返して去っていくセブの背を追うか追わまいか迷ってるうちに、見えなくなってしまう。なんかふてくされたような顔のシリウスを振り向いた。 「お前セブになに言ったんだよ!?」 「なんも言ってねーよ」 「嘘つけ!」 「うるっせー!!」 「・・・っなんっでいきなり不機嫌なんだよ意味わかんねーやつだなもー!」 シリウスまでいってしまって、オレはしばらくどうしたらいいのかわかんなくなってしばらくこの場に立ちつくしていた。・・・あ、今日はリーマスが行っちゃう日だ。じゃあ今晩はいっぱい練習できるなあ、がんばろう。 * 「うーん、やっぱりどうやってもこないだのところまでしかいかないねー」 ジェームズが思案気に言う。こないだのとこ、っていうのはあの例の中途半端獣人状態だ。見た目的にはもう大変にヒドイ。 そんななかでもどこか心ここにあらず、というようなシリウスの様子に気づいてるのは、もちろんオレだけじゃなくジェームズもだ。いつまでたってもそんな様子の彼を見かねたオレたちは、結局しゅるしゅると変身を解いて、シリウスを呼んだ。 「シリウス、君はさっきからなにしてるんだい」 「・・・なんでもねぇよ、練習するんだろ、やろうぜ」 「なんでもないって風には見えねーんだよ!」 イラっときてオレが怒鳴ると、シリウスの挑戦的な視線が返ってきた。思わず息をのむと、彼はなんだかヤケくそのように、 「親愛なるセブルス・スネイプをからかっただけだ!はうるっせーんだよいちいちアイツの事に対して!!」 ・・・は、ちょっとお前、何言ってるの・・・? 「コソコソ嗅ぎまわってうっとーしいんだよ!を巻き込んで危険なことでもしてるんじゃないのかってキレられたから、気になるんなら今晩暴れ柳に行ってみろって言っただけだ!」 頭の中が、一瞬で真っ白になった。 「・・・シリウス、今、なんて」 「ちょっとくらい怪我でもすればいいんだアイツなんて―――」 そこまで聞いたオレは渾身の力でシリウスの頬をひっぱたいた。乾いた音、言葉を失うシリウス、真っ赤になるその頬。それを確認する間も置かず、オレはその場所から≪移動≫した。 * 頬がジンジン痛む。わめいていたオレは一瞬で言葉を失って呆けた。殴った張本人であるは顔面蒼白で表情をなくしたまま「そこ」から姿を消した。と同時にジェームズが踵を返して駆けだして、荒々しくドアを開けてそのまま怒涛の如く走っていく。呆然とただ見守っていたオレに、ピーターが泣きそうな顔で迫った。 「な、なんてことしたのシリウス!!」 「何を―――」 「リーマスが!スネイプを傷つけたら、どうなると思ってるの!?」 ほとんど泣きじゃくりながらわめくピーターの言葉で、オレはようやくハッとした。 あのとき。リーマスが人狼だと知ってしまったとき、リーマスがどれだけ自身を責めていたか。自分のことよりも、オレたちを傷ついていないかばかり気にしていたこと。 「退学どころか―――リーマスが、僕たちの前からいなくなっちゃうよ!!」 泣き叫んだピーターの腕を取って、オレは自分をぶん殴りたい衝動に駆られながらジェームズたちの姿を追った。 ←BACK**NEXT→ 110813 |