私とケイシュウは中国の奥地で育った幼馴染だ。その集落には私とケイシュウしか同世代の子供はいなくて、病弱で泣き虫だった彼と、気が強くて男勝りだった私とで、まるで姉弟のようにして育った。だから、一人立ちしたいと言って彼が遠い外国のホグワーツに通うと言いだしたとき、ついていこうと決意したのは、弱虫で泣き虫な彼を一人にするのが、不安で仕方なかっただけなのだ。



62.



「ナイスディフェンス!!!」
「おう!さんきゅーギル!!」


 しっかりと箒を握り締めて、オレはフィールドを見回す。クァッフルを持つ選手の名を次々と放送席で叫ぶシリウスの声。汗を拭いながら、オレはジェームズが勢いよく下降したのを目の端に捕える。


いっけええええええジェームズ!!!


 グリフィンドールの席がわっと沸いた。スリザリンのシーカー、ディサーダも負けずについてくる・・・と、そこに、ジェームズめがけてブラッジャーが飛んでった!

 間一髪、ジェームズの前に割り込んだクライスが力の限りブラッジャーを吹っ飛ばした。だけどそのことで一瞬にしてスニッチは姿をくらましたらしい。悔しそうにジェームズがゆっくりと上昇するのが見えた。息をつく暇もなく、オレは飛んできたクァッフルを抱きとめる。グリフィンドール、スリザリンの点差は40点。まだまだだ。


「クライス選手、見事ブラッジャーをスリザリンに返しました――・・・選手、失点はいまだ10点に抑えています、守りきれ!!!現在、クアッフルはグリフィンドールギルバート選手・・・」


 ぐるぐると大きく旋回していたジェームズがそのとき、動いた。弾丸のようにつっこんでいくジェームズの視線の先にいるのは・・・ディサーダ!圧倒的にスリザリンのシーカー、ディサーダのほうが近い!だけどそのとき、オレは目の前から飛んできたクアッフルを捕えるのに視線をずらす。


「行け!行け!!いけえええジェームズ!!」


 シリウスの声が届く。そんななか、クアッフルを受け止めた瞬間、逆側からもう一人が飛んでくる。えっちょ、マジかよオレ手ェふさがってんだけど誰か来てくれないとパス出来ないんだよ知ってんだろみんなあ!ギルが焦った顔で飛んでくるのが見えた、でも間に合わない!


!!」


 やむを得ずオレはクアッフルを抱えたままゴール前に飛んだ。片手で防ぐか!?考える間もなく投げられたクアッフルとゴールポストの前に滑りこんだオレは反射的に蹴っ飛ばしていた。高いリリーの悲鳴がオレの名を呼んだ気がして目を上げると、嫌な顔をしたスリザリンのチェイサーが目の前に現れた。





*




 ジェームズとディサーダのせめぎ合いに見入っていた僕はリリーの悲鳴に慌てて我らが獅子寮のゴールポストに視線を向けた。パスできないままのクアッフルを抱えたが必死でもう一つのクアッフルを蹴り飛ばしたのが見える。だけどその瞬間、手の空いたチェイサーがにそのままつっこんだ。両手の塞がった彼女は何もできないまま吹っ飛ばされる!


「―――――ッッ!!」


 リリーが声にならない悲鳴を上げて、ピーターが息をのんだ。ごとゴールポストをくぐりぬけたクアッフルの点数がスリザリンに加点される。そして、は、


ふっざけんなスリザリン―――――――――――――――!!!!


 魔法で大音量に拡声されたシリウスの怒号が飛んだ。の細い肢体が箒から離れるのが見えた。全員が、彼女がフィールドに叩きつけられるのを予想して息をのむ。―――だけど、そんな最悪の事態は訪れなかった。


「・・・メイファ・・・」


 後ろから小さく呟いた声が聞こえた。振り向くと、ケイシュウが呆然とした顔でフィールドを見つめている。視線を戻すと、メイファが地上スレスレで必死で腕を伸ばしての腕を捕えていた。何か喋っている様な空気が伝わって、メイファはを地上へ下ろすと再び空中に凄い速さで戻っていく。


「な―――、メイファ・ロウ選手です、速い!速い!速いっ!!」


 スリザリンにつっこんでいったメイファはそのままクアッフルを奪うと渾身の力でギルバートへ投げる、繋がったパスがそのままスリザリンのゴールに吸い込まれ、広げられていた点差を埋めるようにゴールが決まっていく。シリウスが叫ぶ。そして次の瞬間、


取った!取りました!!ジェームズ・ポッター、スニッチゲット!!グリフィンドール決めました!!やっぱ最高だぜジェームズよっしゃァ―――――――!!


 わあああ、と一気に歓声が上がった。シリウスの実況が思いっきり私情が入っていて笑った。リリーが嬉しさのあまり飛びあがって抱きついてくる。ジェームズには黙ってよう、と僕は笑いながら思う。後ろを振り向くと複雑な表情をしたケイシュウがいた。


「・・・あ、おめでとうございます、グリフィンドール」
「ありがとう、君はレイブンクローだったね。次の試合では負けないよ」
「はい」




*




「メイファ、さっきはありがとな」
「・・・いいえ。何もなくてよかったわ」
「ようやく、ちゃんと喋ってくれたな」


 談話室でお祭り騒ぎの中、メイファに話しかけると気まずそうな視線が返ってきた。「あのとき」は咄嗟に体が動いてしまった、と本人は言うけれど助かったのは事実なんだからオレが感謝するのは至極妥当だ。


「ケイシュウと仲直りできたんだな」
「・・・、はい。ずっと当たってて、ごめんなさい」
「いいよ、むしろ仲直りできたのを祝福したい。よかったな」


 とオレが言うのも、試合後に2人で喋ってるのを見かけたからだ。ケイシュウが言うと、メイファが素直に笑みを返した。あらましを知るらしいリーマスに聞くと、入学以前からずっとケンカをしていてようやく仲直りした、ということらしい。どうやら一人立ちしたかったケイシュウとそれを追いかけたメイファで、ケイシュウにしてみれば親がくっついてきたみたいで嫌で仕方なかったらしい。で、ようやく2年越しの仲直りだ。


「謝謝。・・・クィディッチチームでも、よろしくお願いします」
「こちらこそ」


 そう言って握手を交わすオレたち。それを、いつもの3人とリリーが見守っていたことになんて、オレが気付いてないわけないだろ?でもまあ、試合も勝ったしメイファとも仲直りできたし、のぞき見くらい許してやるか。















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110703