「出来るわけがねえ」
「シリウスが出来ねえならオレなんか一生出来ねえだろ!弱音吐くんじゃねーよ!!」




 60.



 
 思った以上に、とんでもなく 難しかった。


 というのがオレたちの感想である。あの決意の日から一カ月、リーマスと離れる機会さえあれば常に本の冊子を開いてひたすら勉強勉強、練習練習、だ。4人そろって練習できるのはリーマスの例の日だけだから、なにかと機会を作って2人組か一人で「便利な部屋」で練習している。

 オレはまだ寮の部屋が別だから、リリーとメイファがいないときに練習したり真夜中にひたすら勉強したりはできるのだけど3人はもちろんそうはいかないらしく。早々に壁にぶつかっていた。


「イヤ・・・だってこれどうしたらいいんだよ?」
「それはオレのセリフだよ・・・なにがなんだか」


 一応書いてある通りに呪文を言っては見るものの、なんの変化もなし。さすが最高難度の魔法だ。少なくとも3年生で出来るようなものじゃないのかもしれない。つーか出来ないよな。


「もっとこう・・・イメージが大事なんだろ?自分が変化していくイメージ」
「そもそもさ、何になるかがわからないってゆーのが問題だと思うんだよな。イメージしようがないじゃん、そんなの」
「そりゃそーだよな。それぞれに最も適した動物・・・ったってなぁ」


 シリウスが難しい顔をしたまま机に突っ伏した。シリウスがこんな風に悩んでいるのも珍しい。だって授業で習う魔法ならひょいひょいやれちゃうからなぁコイツ。


「それぞれの『っぽい』動物でいいんじゃないかなー。オレはシリウスは犬だと思うし」
「それジェームズにも言われた」
「ジェームズってなんだろ。・・・ライオン?」
「あんな変態なライオンは嫌だ」
「お前ジェームズに謝って来い」
「ピーターは鼠っぽくねーか?」
「あー、分かる。それはピッタリ」


 うーん、と唸りながらオレも自分の杖を見つめた。「変化するイメージ」が出来れば少しはやりやすいように思うのだけどなあ。オレってなんだろ?


「ねー、オレは?」
?」


 伏せたままだったシリウスがちらりと顔を上げてオレを見た。考えこむような色が目に浮く。日本でやった動物占いではなんだったかなぁ覚えてないや。結構考えてる風なシリウスは沈黙したままだ。

 とりあえずシリウスは放っておいて、オレは再び本を開いた。舐めるように読んだ文章。ちなみにジェームズとピーターは、いまリーマスと一緒に悪戯の真っ最中だ。オレとシリウスがいない今回の言い訳としては「のボール投げのド方向音痴を直す特訓に付き合ってる(ジェームズ談)」だ。なんで選手じゃないシリウスが手伝うかどうかはとりあえずまぁ・・・ジェームズの言い訳に期待。


「鳥」
「は?」


 唐突な言葉にオレは思わず聞き返しながらシリウスを見た。灰色の目がオレを見てる。妙な沈黙に思わず目をしばたたかせると、不意にシリウスは目が覚めたようにいきなり起き上がった。


「うわっ!なんだよ、びっくりした」
「トリ!鳥だよ鳥、あー焼き鳥食いてぇっ」
「はァ!?」


 ワケ分からん!ワケ分かんねーぞシリウス!


「おーいシリウス!!どうだい?」
「おージェームズっ!」


 扉をがちゃっと開けて入ってきたジェームズに、シリウスは笑顔を向ける。「成功でもしたのかい!?」「いや悪ィ全く」ぬかよろこびしたジェームズは露骨にがっかりした顔をした。


「成功もなにも、シリウス途中から飽きちゃってさ」
「うるせー!疲れてんだよ」
「ところでジェームズ、どうしたんだ?」


 ああそうだった、とジェームズはポンと手に拳を置く仕草をする。シリウスはぱたぱたとテーブルに広がった本を片付け始めた。長い指が本棚に本を閉まっていく様子は妙に絵になる。


「そろそろ夕飯だよ。君たち時間見てないだろう?リーマスとピーターは夕食の席取りに行ってもらってる」
「え、マジか!もうそんな時間?」


 慌てて部屋の時計を見ると、なるほどもうすでに19時を大きく過ぎていた。リリーにもこの特訓の話はしてないから、きっとまた無茶してるんでしょ、とかつって怒られるんだろうなあ。連鎖反応的にメイファの顔を思い出して複雑な気分になる。


「どうしたんだい、そんな微妙な顔して」
「あ、いや・・・なんでも」
「なくねェだろ、なんだよ早く言え」
「でっ!―――あーも!メイファだよメイファ!そんだけだよ!!」


 後頭部に本の背表紙の一撃をくらって思わず声をあげて、犯人を見上げるように睨んでからそれだけ言う。そう言うと2人はまたこないだのように微妙な表情を浮かべた。うーん・・・なんか結構大変なコトになってんのかな。


「全くあの子も長いねえ」
「つーか迷惑だろ。自分たちでやれよそーゆーことは」
「ねェオレほんとにわかんねーんだけどチョット説明してくんない?」


 そう言うと2人から一斉に憐みの視線が降ってきた。え!?なんで!?


「・・・・・・・・・まぁがこういう話に敏感だったら確かに逆に物凄く嫌だけどね」
「へ!?」
つーかお前単純にバカだろ?
「は!?」
「でもこういう話は僕らよりリーマスのが得意そうなイメージないかい?慣れてそうだし。少なくとも僕はリリー一筋だからね、ああいう感じはよくわからないんだ」
「確かにな。うーん、仕方ねぇか、おい、後で談話室で話してやるからそれまで我慢してろ」
「えっ!?」


 結局、夕飯を終えて談話室でリーマスが「ええ?まだ分かってなかったんださすがだね」なんて言いながら教えてくれた。

 よーするにメイファはケイシュウが好きで、ケイシュウからめちゃめちゃ懐かれてるオレにどーしよーもないほどヤキモチを焼いている、と。


 ・・・・・・・。


 どー考えてもそれ、オレ悪くねえじゃん!!!!















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