「きゃああああ!どうしよう!!」 「あー、大丈夫大丈夫、モチってそういうもんなんだよ」 「だってなんか3倍くらいの大きさになっちゃったわよ!?」 「そんなもんだってー。でもそろそろやりすぎかなー。網から降ろしたほうがいいよー」 「え?え!?」 リリーの日本文化に対する反応はめちゃくちゃ面白い。日本に行ったことないんだもんなあ、仕方ないよなあー。・・・あ、でも餅はそのまま食べると火傷するよ? 43. 「楽しかったわ・・・!!」 目をこれ以上ないほどキラッキラに輝かせて、リリーは感動交じりにそう言った。楽しんでくれたんならよかったよかった。様々な日本文化をいっぺんに体験して、見てるこっちが面白いほどだった。うん、てかそうだよな、コタツってこっちの国にはないんだもんな。初めてならそりゃ感動するよなあ、コタツは天国だ。あの破壊力は最強。 「もう帰るのね、なんだかさみしいわ」 ホグワーツ行きの汽車を待つ駅で、リリーが残念そうにつぶやいた。どうでもいいけど寒いな!爽やかに笑ったアオト兄は送りに来てくれた。ちなみにオレは母さんからお土産として、大量のりんごケーキを持たされた。・・・これでリーマスの機嫌、なおんないかなあ・・・。 「次の夏にはまた来てくれな、リリーちゃん」 「へっ?アオト兄、それって・・・」 「ああ、結婚式だよ。夏にお前が連れてきたヤツらも呼んでやるつもりだけど」 ジェームズがものすごい勢いで喜ぶぞ。アオト兄を何故かめちゃくちゃ尊敬しているあいつは、アオト兄から招待状なんかもらったら昇天しそうだそのまま。そこまで考えて、オレははた、とセブの顔を頭に浮かべた。 「ねえアオト兄、オレの友だちのセブってやつの話、前に手紙に書いたと思うんだけどさ」 「・・・確か最初に友だちになったっていう子じゃなかったか?」 「そーそー!そいつも呼んでいい?」 「別にオレは構わないぞ」 「やったっ!」 よし!帰ったらそのままセブのとこ直行だ!今回はだめだったけど半年以上後の話だったらさすがに何の予定も入ってないだろう。そう思って一人ガッツポーズ。・・・でもシリウスとかジェームズとかもいるんだよな・・・。まあいいやなんとかしよう。 そうこうしているうちに列車が到着する。別れの挨拶を交わし、オレたちはコンパートメントへ乗り込んだ。さっそく窓から身を乗り出して、リリーがアオト兄に手を振った。オレもそれに続く。アオト兄はいつもの笑顔でオレたちを見送る。ここで手を振り返さない頃がアオト兄らしい。 「じゃー元気でな、リリーちゃん、妹よ」 「お世話になりましたー!」 「いってきまーす!!」 でもってオレはまた、いつものごとく爆睡しました。目が覚めたらリリーも目をこすってたので多分2人そろって寝てたんだと思われる。汽車内で寝るのって案外気持ちいいよなあ。 * 「ただいまーっ!」 「・・・・・・・・・・じゃねーか・・・・・・・・・」 帰った直後降ってきた禍々しい声にオレは思わず立ちすくんだ。声の主はシリウスだ。でもって負けず劣らずの黒いオーラを発してるのはリーマス。ホグワーツにいるにも関わらずリリーに会えなかったおかげでジェームズはもはや屍と化していて、ピーターなんてすでに灰だ。・・・・・・・・・うわぁ。 「お前・・・お前が泣き叫ぶジェームズをオレたちに押しかけてから、オレたちがどんな目にあったかわかってんのか・・・・・・・?」 「大変だったよね・・・箒でホグワーツを抜け出そうとするジェームズを止めるのは・・・・・・」 「リリーリリーリリーうるせぇし・・・呪いをかけてもうるせぇし」 「一度なんて透明マントまでつかって抜け出そうとしたからね」 「別に止めなくてもよかったんだけどな」 「というか僕らなんで止めてあげたのかな・・・」 どうしよう2人が怖いよ。 けどオレは、すぐさまお土産であるりんごケーキを取りだした。途端に甘い物好きなリーマスがぴくんと反応する。ふわりとりんごとハチミツのほのかな香りが漂った。うん、美味しそうだ。リーマスがそわそわしだしたのを見計らって、オレはりんごケーキをそっと胸のあたりまで掲げながらにっこりと笑う。 「ねぇリーマス、ごめんね?許してくれる?」 「うん」 「即答!?おいリーマス!!??」 シリウスの叫びもむなしく、リーマスは今にもとろけそうに笑ってオレからケーキを受け取った。よし、リーマス攻略、成功。さあ次だ。 「リーマス!お前!モノにつられんなよ!!」 「ジェームズ?おい、おーいジェームズさーん?」 シリウスがリーマスに気を取られている間に、オレはジェームズへ話しかける。反応が無い、どうやら屍のようだ。 ということでオレは、ポケットの中から一枚の写真を取り出した。ひらり、それを彼の目の前で振る。それを目に入れた瞬間、ジェームズの目に一瞬にして輝きが戻る。そしてむしろおもいきり顔を輝かせた。 「リリ―――――――――――――――――――――!!??」 「はっはっはっは」 「これ、これ一体・・・!!」 「その衣装は日本の伝統衣装、着物だよ。母さんのなんだけど、振袖。綺麗だろ?リリーはやっぱりそういう春らしい色が似合うよなー」 「・・・・・・!!!」 写真はこの冬に撮ったものだ。リリーの着る振袖は淡い黄色から緑へのグラデーションの入ったもので、咲き誇る花もその色を邪魔しないような淡くふんわりとしたもの。髪も軽く結い上げてとても綺麗だ。でちなみにオレは・・・まあ着物はちょっと似合わないんだけど、薄青から白の振袖を着て一応リリーの隣に立っている。 「やるよ、その写真。ジェームズに」 「いいのかい!!?」 「親友じゃないか、わが友よ☆」 「・・・!!!僕は君へのこの数日の非礼を詫びるよ。わが友よ、感謝する!!」 「はっはっはっはっは」 「おいこらジェームズ――――――――!!!」 鮮やかにオレとジェームズはぐっと突き出した親指を交わした。シリウスが必死で自分の味方を手に入れようと、慌ててあたりを見渡した。そしてオレとシリウスの目は一斉にピーターに注がれる。 「ピーターぁああああお前はオレの味方だよな!!?」 「離れろシリウス!!」 詰め寄るオレとシリウスを交互に見て、ピーターは困った顔をしながらも珍しく、一言。 「ごめんね、シリウス」 「へっ!!??ちょっとおいお前までっ・・・」 「許してくれんの?ピーター」 「うん、だって僕、そんなに怒ってないもん」 そう言って笑うピーターが天使のようだ。そしてここで仲間を絶たれたシリウスとオレは対峙する。こいつはもう無理なのはわかってる。一番頑固で意固地で、どうしようともできないやつだ、わかってる。一番めんどくせえんだよな・・・。 「・・・オレは怒ってんだからな!」 「ところでシリウス大発表があるんだけどさー」 「無視すんじゃねえよ!!」 「きいてくれるリーマスジェームズピーター!!」 「!お前っ」 「アオト兄が結婚しまーす!!」 「「「「・・・・・・はあ―――――――――――――!!??」」」」 怒ってたシリウスですら、それを明後日のほうに追いやるほどの衝撃があったらしい。4人が一斉に声を上げた。おうおう面白いなあ。 「おめでとうございます、だね」 「そうか、アリアさんって人だったね?なんて喜ばしいことじゃないか!!」 「よかったねー!!」 むすっとしていたシリウスは、オレらからじぃっと視線を受けて気まずそうに視線を漂わせた。そして諦めたように息をつくと、オレの額を軽く突き飛ばす。 「・・・ったくわかったよ。許してやる。今回はアオトさんに免じてなんだからな!」 「どーも」 にしても、アオト兄ってこいつらにとってどんな存在なんだ一体。オレの兄ってポジションだけでこんなに影響力大きいのか?よくわからん。カリスマ性ってやつが働いてるんだろうか。なにはともあれ、オレってなんだかんだいってアオト兄に頼ってるんだなあ。ちょっとだけ情けなくなって、誰にも気づかれない位に小さくため息がこぼれた。 ←BACK**NEXT→ 091217 |