「こんなんが恋人でいいのかお穣さん」 「おいコラバカ兄貴黙れ」 「ええ、私とっても幸せです!」 ・・・え、チョットあの、リリーさん? 42. がっつりと夕飯を食べたあと、デザートとか言ってアップルパイまで出された席で、リリーとアオト兄は楽しそうに喋っている。ちなみにすぐそばのソファでは父さんが新聞を読んでいたり、台所では母さんが後片付け中だ。 今日は我が家に来て3日目だ。初日は、オレの兄や両親に会うなり意気投合した親友に、オレは本気で途方に暮れた。どうしようめっちゃ仲良しなんですけどこの人たち!すごい速さで気に入られて、ずーっと喋ってるリリーを見ながらオレは一人感心した。すげえなリリー。日を追うごとに親密度がアップしている。さすがだ。 クリスマス休暇に入って、オレはリリーとともに里帰り。ジェームズが泣いて悔しがるのをシリウスに押し付けリーマスに託しピーターに頼み込んできた。こういうとき仲間っていいよね!そうにこやかに笑っておいた。正直帰るのが怖いです。はい。リーマスの最後の笑顔が忘れられないヨ!めっちゃ怒ってた!プレゼントに仕掛けがありそうで戦々恐々としていたけれどさすがにそれはなかった。だからこそ帰るのが怖いんだけどね! 「おい、おーい、」 「ちょっと、?」 「・・・ん?あ、ごめん。ぼーっとしてた。なに?」 帰ったあとの悲惨さを想像して思わず遠い目をしていたオレは、兄とリリーの呼ぶ声に顔を上げた。アオト兄はにぃ、と悪戯っぽい顔をして笑う。え、なに? 「、オレな」 「へ?」 「結婚するから」 ぱかっ、と口が開いた。呆然としながらも、段々と意味が呑み込めていく。結婚。ケッコン。要はつまりは、アリアさん、と。それが分かった時、自然と口元がゆるんだ。横のリリーがおめでとうございます、と笑って、オレはその瞬間思いきり身を乗り出した。 「いつ!?本当!?アリアさんと!?」 「式の時期は夏だな。お前が夏休みに入ってからだ。アリアだよ、ほかに誰がいるってんだよ」 「本当に!?」 「しつこいな、本当だよ」 「っわー!!!」 頬が緩む、顔がニヤける。アリアさんとアオト兄が、結婚、だ!ずっと前からいつかそうなるだろう、って予想はしていたけれどいざこのときが来ると、なんか、すっごい嬉しいというか照れるというか、わぁ、なんか、とりあえず、 「おめでとー!アオト兄っ!!」 「ああ、さんきゅな」 リリーちゃんもありがとうな、なんて言って、アオト兄はいつものように笑う。だけどその笑顔がいつもより三割増しくらいで幸せそうなのは気のせいなのかな。わ、わー、家族が、増えるんだ。 「アリアさんてどんなかたなんですか?」 「ん?」 リリーが興味津々で目を輝かせた。アオト兄は少し困ったように頬をかくと、珍しく言葉に迷いながら答える。いつもならズバズバと言いたいことはさっさと言ってのけるのに。・・・照れてるな、レアだ。 「・・・そうだな、ガキっぽくてチビで・・・危なっかしくて、天然で、無駄に優しくて、・・・あったかくって」 少し遠い目をして。その目がどこか優しくなって。 「よく笑うくせに泣き虫で、守ってやらないとどこかに消えてしまいそうで」 本当に大切な、大事なひとなんだなぁ、ってオレたちにまで伝わってくるような、そんなかおで。 「一緒に生きたいと、思ったひと、・・・かな」 そうまで言って、はた、とアオト兄は途端に我にかえったような顔をして、ばっと口元を押さえて一気に真っ赤になった。オレとリリーは2人でにやにやとアオト兄を見る。アツアツのノロケ、ごちそうさまでしたー!さすがは結婚を控えてるだけあってラブラブだ。これだけデレデレのアオト兄もそうそう見れないぞ。 「――――ッ、」 「お前もまだまだだな」 「っ、と、父さん・・・」 真っ赤な顔を隠すようにしながら、丸めた新聞紙で頭をはたかれてアオト兄はその影を見上げる。オレと似た凛々しい顔(・・・自分を凛々しいと言ってる気分になる)を面白そうにほころばせながら、父さんはオレたちを見た。 「がアオトをからかうなんて珍しいな?」 「ん。いつもはアオト兄に一方的にやられるばっかだけどたまにはね。だけど今やったのはリリーだよ」 「あら、私は聞いただけよ?」 アオト兄が勝手にノロケたんだ、と暗に言い含めたリリーはおかしそうに笑った。自分の失態を本気で悔やんでる様子のアオト兄は、軽く唸って頭を抱える。顔は相変わらず赤い。 「アリアさんは確かにかわいいよな。千鳥の若いころといい勝負だ」 「ウォルスなにか言ったかしらー?」 「千鳥の若いころには負けるけどな!!」 千鳥というのは母さんだ。台所から飛んできた言葉に、父さんは慌てて自分の言った言葉を訂正する。でも言わせてもらうけど、オレから見たって母さんはすごく綺麗だ。アオト兄とそっくりな顔つきはまだまだ若いし、髪だってつやつやとした見事な黒髪だし。それを言ったら父さんもかっこいいんだろうけど。 父さんと母さんは卒業と同時に結婚して、それから1年後にアオト兄が生まれてるから、今はまだ2人とも38歳くらいのはずだ。・・・そう考えると、オレの両親って若いな・・・。 「なにはともあれ、めでたいんだから素直に喜んどけ。散々からかわれるのも今の特権だからな」 「・・・・・・父さんが一番嬉しそうにからかってくるんだよな・・・」 「おー?わかってんじゃねーか」 傲岸不遜、飄々としてるアオト兄が絶対に勝てないのが唯一、父、ウォルスだ。あ、母さんにも勝てないけど。さすがはホグワーツでなんとかって伝説を作っただけの人物であり、オレたちの親だけはある。愉快そうに笑いながらアオト兄の横の席に腰を下ろした父さんを見て、アオト兄はあからさまに「うわぁ」という顔をした。 「さーて、我が息子よ。吐け☆」 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」 それからは父さんの独壇場。なれ初めからプロポーズに至るまで、アオト兄は延々と吐かされることになった。ここまでくるとさすがに同情した。発端はオレらであるし、一応謝った。ごめんアオト兄。でもやっぱりなんだかんだ言って幸せそうだし、まあ、いっか。 ←BACK**NEXT→ 091122 |