「・・・やっぱりスリザリンのシーカーは君かい、ディサーダ」 「ああ、もちろんだ。貴様ももこっちは予想済みだったさ」 「だろうね。お手柔らかに頼むよ」 「口だけの癖しやがって」 火花を散らしながら、フィールドに油断なく視線を送りながら、上空でジェームズとディサーダの交わす言葉が聞こえてくる。次の瞬間飛んできたクアッフルを思い切りたたき落として、オレは試合に意識を集中させた。 35. 「クアッフルを取ったのはグリフィンドールチームだ―――っ!!ギルバート選手、見事な飛びっぷりです!ここでパスだ!!行け、アドルフ、再びギルバート、リネット、ゴ――――ルっっ!!グリフィンドール先取点!!10点先取!」 シリウスが熱烈に叫ぶ。それ以上にグリフィンドール側の観客が湧いた。よっし!オレはゴール前でガッツポーズする。そこに飛んできたブラッジャーを慌てて避ける。観客からスリザリンへと怒号が飛んで、オレにもクライスが怒鳴った。 「バカ!!油断するな!」 「はい!」 オレの避けたブラッジャーを思いっきり打ち返したクライスはビーターだ。普段のほのぼのとした雰囲気からは想像もできないほどに真剣な面差しで選手たちに矢継ぎ早に指示を出していく。 「クアッフルはスリザリン―――イアン選手からハロルド選手にパスです――取れ、とっちまえ、ギル―――ゴールへと一直線、ブラッジャーを交わす、攻める、攻めるスリザリン―――奪え!!」 スリザリンのボールを受け止めて、衝撃でゴールをくぐらないように箒の軌道を修正する。思い切り風が渦を巻いてオレの髪がはためいた。よし! すぐ下にまで来てくれたチェイサーのリネットにクアッフルをパスして(というより落として)オレは再びゴール前に戻る―――、その瞬間、鋭いジェームズの声が聞こえた。 「だめだ、!」 はっと気づいた時には遅く、すぐ両側から同時にオレに向かってビーターの棍棒が思いっきり振られていた。つまり2つのブラッジャーから挟み撃ちにされたわけで―――咄嗟にオレは箒の上で伏せる。ブラッジャーがぶつかりあった瞬間、ジェームズの声を聞いて怒涛の如く飛んできたクライスが一度に二つのブラッジャーを吹っ飛ばした。舌打ちしてスリザリンのビーターはオレから離れていく。 「試合前に言っただろう!忘れるな!!」 「はい!!」 それだけ言ってクライスは再び加速してフィールドの中心へと飛んでいく。オレはひとつ深呼吸してロングシュートを決めようと飛んできたクアッフルを蹴り飛ばした。とりあえず今のところは無失点だ。 『スリザリンはまず確実にキーパーを排除しようとするだろう、つまり君を集中的に狙う』 何度も向かってくるブラッジャーを次々とかわしながら、オレはゴールにも意識を向ける。 『キーパーはぶちのめされることが多い。だから体格のいい選手がなることが多いんだが、僕はあえて君をそのポジションに推す』 どうして、と言わんばかりの顔をしたオレに答えるクライスは、まっすぐに視線を合わせてくれた。その言葉を思い出す。 『君はチームの他の選手と比べれば小柄で非力に見えて、しかも女性だ。敵チームはどこも君をシーカーのポジションに持ってくると思ってる。普通はそう考える。けれど僕はその裏を突こうと思う。だけど、君がキーパーになって、それで役に立てなかったなら意味がない』 そりゃそうだ。そんなんじゃタダの間抜けだ。頷くオレに、クライスは不敵に笑った。 『。僕は君が女性だってことや小柄だということ、不利なこと全部を抜きにしてキーパーとしてやっていけると思ってる。―――油断してる奴らを出し抜いてやれ。君自身の力がチームに勝利をもたらすんだ』 そんな言葉に、オレはなんて返したっけ。キーパーだったアオト兄。だからオレもキーパーに選ばれた。そういうわけじゃない。クライスはそんなことで選手を選ぶような人じゃない。だけど。 言われるだろう、囁かれるだろう、「アオトの妹だから」「アオトの妹なのに」「アオトの妹のくせに」「どうせアオトの妹なんだから」―――それは仕方ない。だってそれだけアオト兄はすごかった。頑張ってた。かっこよかった。・・・それなら。 『オレは』 「60対0でグリフィンドールリード!いまだに得点を許さない選手!!このまま守り切るか!!?」 「邪魔だ――――ッッ!!」 怒鳴りながらクアッフルごと突っ込んでくるスリザリンのチェイサーを、オレは渾身の力で蹴り飛ばした。(もちろん狙ったのはクアッフルだ。選手を蹴っ飛ばしたらさすがに反則だろうし)衝撃で吹っ飛んでいく彼はかろうじて箒にしがみつくがクアッフルは取り落として、それをすかさずアドルフが取ってシュートする。 「負けねーよっ!!」 親指を下に向けてオレは笑った。 アオト兄にも。お前らにも。勝手なことを騒ぐみんなにも。 「負けてたまるか!」 * 結果は220対20でグリフィンドールの勝利。結局オレはスリザリンに得点を許してしまったわけだけれど、みんなはオレをものすごく褒めてくれた。正直悔しくてしかたなかったけど。 「よくやった!」 「お疲れ!すごかったね」 「2人ともかっこよかったよ!!」 シリウス、リーマス、ピーターからも熱烈な包容を受けた。どういうわけだかオレの耳には「アオトの妹だからさ」とかそういう言葉が入ってこなかった。せいぜいスリザリンが言うくらいだった。・・・おそらく、まあ、あいつらのせいだとは思うんだけど。 「・・・よけーな御世話だよ、ばーか」 「なんか言ったか?」 「なんでもねーよっ」 その日のグリフィンドールの談話室は、明け方まで電気が付いていた。もちろん、翌日の魔法史の授業では爆睡したけど。これが魔法薬とか変身学とかだったら・・・・・・罰則は免れなかっただろう。うん。 ←BACK**NEXT→ 090719 |