「・・・なあ、メイファ?悪いけどそこの本、取って?」 「自分で取って」 「・・・・・・・はい・・・・・」 同室の後輩からの突き刺さるような冷たい視線を浴びて、オレはちょっと泣きたくなりながら結局自分で動いた。 33. 「なぁリリー、やっぱりオレ、嫌われてるのかなあ」 「みたいね・・・。」 廊下で立ち話しながら、困った顔でリリーはオレの言葉に同意した。悲しい。メイファは、初めて同室になった日はそれなりに話してくれたのに、最近じゃロクに目線すら合わせてくれない。 「なんで!?オレ、何かした!?」 「さぁ・・・?確かには寝言が激しいけど、別に慣れたらどうってことないし寝言が始まる前に寝ちゃえば影響ないし」 「え ちょナニソレ!?」 「寝言って言うか、よく寝ながら笑ってるわよ。えへへへー、とか。夢の中でまで騒いでるんでしょどうせ」 「・・・・・・・ごめんなさい・・・・・・」 気にしないで、もう慣れたから、というリリーにオレはさすがに申し訳なくなってしおれた。もしかして本当にそれが原因か?けどリリーは首をかしげる。 「でも、それはないわよ、きっと。あの子寝るの早いもの」 「・・・あ、確かに」 そういえばオレとリリーがまだ喋ってたり談話室にいたり宿題してたりして夜更かしして部屋に戻ると、とっくにベッドに入ってすやすやと寝てるメイファがいたりした。ということは「オレの寝言が迷惑説」も無し、か。 「リリーへの態度は普通だよな」 「そうね。でも私、何回か怒ってるじゃない。メイファのに対しての態度」 「うん。結局オレは謝られてないけど。別にいいんだけどさ、さすがに同室であれだけあからさまだとなんとも居づらいんだよなー」 「そうよね・・・。なんであんなにを嫌ってるのかしら」 「オレ、メイファのこと嫌いじゃないんだけどなあ」 真っ暗でさらさらの黒髪、気の強そうな灰色から黒の瞳。負けん気が強くて凛としてて。年下なのに憧れてしまうほどに綺麗だ。中国出身だそうだけど、さすがあの国の美少女は質が高い。だから、出来れば、仲良くなりたいんだけどなあ。ため息をつく。 「あれ??」 「あ。お前ら何やってんの?」 「ん?シリウス?」 通りがかったピーターとシリウスに声をかけられた。途端にリリーが顔をしかめる。 「あなたたちがいるってことはジェームズも来るわね!?」 「あ、おう」 「それじゃ!あとで部屋でね!!」 「らじゃー」 慌ててローブを翻して走っていくリリーが角を曲がって見えなくなったその瞬間、ジェームズが顔を紅潮させてシリウスの後ろから姿を現した。怖いわ。 「あれ!?リリーの気配がしたから走ってきたのに!?どこにいったんだいリリー!」 「気のせいじゃねえの?」 「そんなことないよ!僕がリリーの気配を間違うわけないじゃないか!!大体ここにリリーの香りが残ってるし!!」 「キモいよジェームズ」 一人でもだえるジェームズを無視して、オレはシリウスとピーターの方を向いた。 「あれ?リーマスは・・・ってそっか、月一回のお見舞いだっけ?」 「ああ。本当かどうか怪しいけどな」 「でもきっと、大事なことなんだよ」 「毎回傷だらけで帰ってくるのにか?」 「うーん・・・」 ピーターの言葉に顔をしかめて言うシリウスは、不満そうに顔を曇らせた。だけどリーマスがオレたちに言ってくれないなら、言えないのなら、無理に明かさせる必要もないと思うんだよなー・・・。心配だし、気にならないといったら嘘になるけど。 と、オレはその瞬間、不意に殺気を感じた。 「先ッ・・・ぱ――――――――――――――――――――いッ!!!」 「ぎゃあああああああああやっぱりお前かああああああ!!!!」 勢いよく突進してきた黒髪の少年を目にして、オレは思わず大絶叫した。避けようとしたそのオレの体を、3人全員が固定する。き、貴様ら! 「わ―――――いっっ!!」 「っぎゃあああああこの馬鹿抱きつくな!うっとおしい!離れろ!!暑い――!!」 見事にオレの腰に抱きついてくる少年。逃れようともがくオレ。それを笑顔で阻む3人。どんな図だよ!数分間そんな感じで攻防が続き、ようやく解放されたその時にはオレたちの息は上がっていた。少年は元気だ。・・・。 「・・・で、今日はなんなんだよ、ケイシュウ?」 「僕の同級生から頼まれたんです!サイン下さい!!」 「・・・・・・・・・・いや、オレ、別に芸能人でも何でもないんですけど」 「有名人じゃないですか、ホグワーツでは!」 「・・・・・・・・」 なんか最初の日もそんなようなことを言われて結局押し切られたんだったか。彼が非常に頑固で言っても聞かないことはこの数日間で思い知った。ので、仕方なくオレは彼の差し出す羊皮紙にさらさらと自分の名前を書いた。・・・なんだかなあ・・・。 僕もー、オレもー、だなんて面白がってオレの後に続いて全員サインし始めた。あのなぁ。けれどケイシュウも「わーい!お願いしますー」だなんていいながらにこにこしてるからたまったもんじゃない。ホントなんなんだコイツは。 そういえば初めて知り合った日もそんなテンションだったなぁ。 * 「あ!っえ!?、危ない!!」 「は?・・・ぎゃあああああ!!??」 「え、おい!?うおおおおお!!?」 ジェームズの声に反応しきれず、腰にとてつもない衝撃を食らって、オレは勢いで目の前を歩いていたシリウスに突っ込んだ。二人してその場に転がる。いろいろなところを強かに打ってかなり痛い。 「だ、大丈夫!?2人とも!!」 「うー・・・リーマス、さんきゅ・・・」 「いってえ・・・なんなんだ、一体・・・。」 リーマスの差し伸べる手に助けてもらって立ち上がる。何が突っ込んできたんだよ!?オレは周囲を見渡す。そして、すぐ近くに、ごく近くに、てかめちゃくちゃ近くに目をキラキラさせながらオレたちを見上げる一人の少年を発見する。・・・ん、この子、入学の時にレイブンクロー席でグリフィンドールの黒髪の、今同室の・・・メイファか、あいつとケンカしてたヤツじゃないっけ。 「・・・えっと。なんの用でしょうか」 「僕、レイブンクローの1年生で、ケイシュウ・チャンといいます!・先輩、ですよね!?」 「はあ・・・」 小柄でさらさらの黒髪、大きな灰色の目。子犬みたいなやつだな。ケイシュウというらしい彼は元気良くそう言って輝く瞳でオレを見る。ちょっと気圧されつつもオレは頷いた。途端に彼はぱあっと嬉しそうに顔を綻ばせる。・・・素直だな。 「あのっっっ!」 「ん?」 だんだん弟と会話してるような気分になってきた。意気込んで一度言葉をのんだケイシュウに、オレは耳を傾ける。 「お友達になって下さい、あとサインください!!」 「・・・・・・・・・・・・はあ――――――――――――!!??」 その瞬間、一斉に噴き出して笑い声の四重奏をスタートさせた四人を睨むことすらできず、オレは少年の純粋な視線に見つめられながら人生最大の困惑を味わっていた。 * 「アレもインパクト強かったねえ」 「そこ問題じゃねえよ!!」 「えへへへありがとうございますー」 「お前も嬉しがるな!照れるな!褒めてない!!」 にへー、と笑うケイシュウにオレは思い切りツッコむ。3人とも楽しそうだけど、あのなあ。当事者は結構大変なんだぞ。確かに第三者から見ると面白い光景なんだろうけど。 「あれ?今日はリーマス先輩いないんですねー」 「ああ、うん。なんか家の事情でね。毎月一回は家に帰ってるんだ」 「そうなんですかー。大変ですね」 うんうんと頷くケイシュウ。いちいち反応が面白いやつだな。そういえば、とふとオレはリリーとのさっきの会話を思い出す。 「お前、メイファ・レイと仲いいんだろ?」 「は!?」 「あれ?違ったっけ。メイファと入学式の日に大ゲンカしてたのってお前じゃないのか、ケイシュウ」 「・・・・・・そうですけどー・・・」 少し気まずそうにケイシュウは頭をかいてオレを見上げる。 「僕、あいつと幼馴染なんです。それだけですよ。・・・メイファが、何かしたんですか?」 「あ、いやそういう訳じゃないんだけどさ。今、人数の関係であの子と同室で、それでどうもオレ、メイファに嫌われてるらしいんだよな」 「おい、それどういうことだ」 「へ?」 そう言った瞬間、シリウスに頭の後ろを叩かれた。聞いてねえぞ、みたいな顔でオレを責める視線が向けられる。え、あの、なんかすみません。 「ご、ごめん」 「だから、どういうことだよ」 「別に大した話じゃないって。ただちょっとオレのこと嫌いなんだろうなあっていうか。平気だってば!リリーもいるんだから」 疑いの表情でオレを見るシリウスにオレは慌てて弁解する。ジェームズまで真剣そうな顔になっちゃうしピーターなんか心配そうな顔になってる。だから大丈夫だってば!そうしていると難しい顔をしていたケイシュウが声を出した。 「・・・すみません。言っときます。頑固だから、あまり効かないかもだけど」 「そっか。でもオレ、嫌いな理由だけとりあえず知りたいんだ。話をしようにも目すら合わせてくれないから」 「・・・・・・すみません。じゃあ僕、そろそろ」 「あ、おう。ごめんな、ありがと」 「いえ、全然!!」 にこっ!と笑って走っていくケイシュウに手を振る。 「いい子じゃないか」 「うん。オレたち、先輩なんだなぁ」 「なんかようやく実感がわいてきたっつーか」 「そうだね。しっかりしなくちゃ」 妙にしんみりとしながらオレたちは各々でほとんど呟くように言った。・・・リーマス、早く帰ってこないかな。 ←BACK**NEXT→ 090709 |