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「久しぶり、アオト」
「・・・クライス?」


 暖炉の中に浮かぶ懐かしい顔に、オレは一瞬呆然としてから、すぐに笑みを浮かべた。―――こいつが、あのチームのキャプテンだなんて。成長したな、などと勝手に思う。


「どうしたんだ?」


 言いながら、オレは暖炉の近くに椅子を持ってきて腰かけた。




 32.




「やっぱりアオトが抜けた穴は大きいよ。去年勝ててたら4連勝を記録したのに」
「なに言ってる、頑張れよ。オレだけのプレイで勝ってたわけじゃねえだろ」
「謙遜しなくていいよ、≪グリフィンドールの救世主(メシア)≫」
「・・・その名前も懐かしいな」


 勝つたびにそう言われ、記録を出すたびにそう呼ばれ、照れくさかったけれど誇らしかったその呼び名。だけど本当は、この名が意味するのはオレだけではなかった。オレがクィディッチチームにいた時代は「グリフィンドールの黄金期」とも呼ばれ、同期のチームメイトたちも同じように呼ばれていたはずだ。もちろん今話しているクライスも、3歳年下とはいえその一人だ。


「で、どうしたんだ?」
「ああ、そうそう。ええとね、アオトの妹のシェスア。チームに誘ったよ」
「えっ・・・?なに?」


 信じられないような言葉に、思わずオレは聞き返す。


「だから、シェスアをチームに誘ったんだって」
「お前・・・よくもまあ、」


 そうか、飛んでるアイツしか知らないわけか。その事実に気づいてオレは軽く嘆息する。本人が気づいているかどうかは別として、妹は・・・その。


「うん。相当な方向音痴だね」
「・・・・・・・・・・・・・・悪い」


 飛ぶのも、走るのも、別に道を間違えたりするわけではないから方向感覚くらいはあるのだろうけれど、なぜか、物を投げるとなると話は別で。何故か明らかにおかしい方向に吹っ飛ばす(しかも恐ろしいスピードで)ので、シェスアは完全に球技には向かないのだ。


「それで?さすがに役にはたたねえだろ、そんなんじゃ」
「ううん。もう一人、ジェームズ・ポッターも誘ったんだけどね、」


 ああ、あの。とんでもない液体をつくってた、シェスアの同級生。


「それで、そのジェームズにはシーカーを、シェスアにはキーパーをやってもらうことになったよ」
「・・・おお、なるほどな」


 シーカーもキーパーもコントロール力は必要ない。シェスアの速さと力を生かしたいならそのポジションしかなかったわけか。納得しながらオレはふと疑問を口にする。


「ジェームズがシーカー?ジェームズもコントロール力皆無なのか?」
「そんなことはないよ。むしろ抜群のコントロール力だと思う。だけどここで注目したのが、そのシェスアの投げるトンデモないクアッフルを全部見事にキャッチしたんだ。一つも漏らさずね」
「やるじゃねえか」


 あのシェスアの豪速球を、しかもどこに飛んでくか分からないギャンブルなヤツを、全部受け止めた?かなりすごいことだろう、これは。妹のとんでもなさを知っているオレは本気でジェームズに感心した。確かに、それだけの瞬発力と洞察力があればシーカーでもやっていけるだろう。


シェスアは力があって、瞬発力もある。だからキーパーをやってもらおうと思って。防げばいいわけだから、防いだクアッフルはメンバーが取りに行けばいいわけだし、投げる必要はない。蹴飛ばして防ぐのもありだしね」
「なるほどな」
「たださ・・・ちょっと僕は抵抗あったんだ」


 苦笑を浮かべる暖炉の中の後輩の顔を見る。オレをちらりと見て、それからクライスは続けた。


シェスアなんだけど、兄に両親が有名すぎて、いつも騒がれててさ。これで兄がややってたポジションと同じところについて、しかも兄はとんでもない記録を打ち立ててたりとかしてて。プレッシャーとか・・・感じない、かなと思っててさ」


 そう言うクライスを見つめる。昔から優しかったよな、こいつは。入学して、その飛行能力を買ってスカウトして、それからずっと一緒にやってきた、不可解そうな視線をオレに向ける後輩の頭を無造作にかき回してからオレは笑った。


「平気だよ、アイツはそんなもの逆にバネにするやつだ。どうせオレに対抗心でも燃やしてるだろうし。『オレはオレ!アオト兄はアオト兄!!』とか言いそうだしな。どっちにしろ、シェスアにはそんなもの障害でも何でもないさ」
「・・・」
「むしろ、そんなものでチームに入れなくなったとかになったほうがよっぽどこたえるだろ。ほら、去年だってケロっとしながら過ごしてただろ、どうせ」


 ならいいんだけどさ、とクライスは言う。それでもどこか不満そうなその顔に苦笑する。けれどそのとき、暖炉の向こう側で誰かがクライスを呼んだようで。彼は最後にオレにひとこと挨拶して、「アリア先輩にもよろしく」それから姿を消した。


「あれ?誰か来てたの?アオト」
「アリア。クライスだよ、覚えてるだろ」
「うん。え?クライスが来てたの?珍しいね」
「そうだな。ああ、よろしく言っといてくれだって」
「そうなの?」


 いまいち状況を把握していないアリアを引き寄せて、オレはこれから苦労するだろう妹を思った。「アオト兄なんかに負けてたまるか!」なんて叫ぶ妹を想像して―――、


 その想像はあながち間違ってもいなかったりした。















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090603