!ジェームズ・ポッター!!」
「「はい!?」」


 突如として響いた声に、大広間に向かおうとしていたオレたちは凍りついたように固まった。名を呼ばれたオレとジェームズは反射的に直立して返事を返す。


「今すぐ私についてきなさい」
「「・・・・・・・はい・・・・・・・」」


 マクゴナガル先生の言葉に、オレとジェームズは揃って蒼くなりながら頷いた。




30.




「やばい、アレか?二階の男子トイレに糞爆弾つまらせたやつか?」
「いや、アレにははかかわってないし。廊下のガーゴイルに血糊ぶちまけたヤツじゃないかな」
「でも、アレもソレも僕たちかかわってるよ?」


 無責任にひそひそと話す3人にうらみがましい視線を送りながら、オレたちはマクゴナガル先生の後ろにとぼとぼとついていった。なんでオレとジェームズだけ!?蒼い顔で二人で向き合ってため息をついていると、苦々しげな先生の目がオレらを振り向いた。


「そんなにこの世の終わりのような顔をしなくてよろしい。説教ではありません」
「へ?」
「はい?」

 ぽかんと先生を見上げる。気がついたら、ここはマクゴナガル教授の部屋の前だった。先生がドアを開けると、中で待っていたのは短い茶髪の青年だった。先輩かな。見覚えのあるその姿に、ジェームズが声をあげる。


「グリフィンドール・クィディッチチームのクライス・ターナー先輩!?」
「やあ!待ってたよ!!」


 にこにこと笑うクライスさんは、すたすたとこっちに来てオレとジェームズの手を取った。何が何だか分からないまま、オレはその顔を見上げる。


「突然で悪かったね。だけど、できるだけ早く伝えたかったんだ、先生の許可も一応いるから」
「はぁ・・・」
「それで本題だけど、」


 そこで一度言葉を切ったクライスさんは、オレとジェームズを見てまたにっこりと笑った。


「君たち、クィディッチチームに入ってくれないか?」




*





シリウスリーマスピーターぁああああ!!!!
「ジェ、ジェームズ?」


 どたどたどたと大広間に駆け込んで、騒がしく飛び込んでいくジェームズのあとにオレも続きながら笑った。いきなりのことにぽかんとオレたちを見る彼らを代表して、シリウスが疑問を口にする。


「何?どうしたんだよ?」
「大変だよ!僕と、クィディッチチームに入るんだ!!」
「おぉ―――」
「もっと驚きなよ!!」
「いや、ジェームズが騒ぎすぎて逆に冷めた」


 うんうん、と頷くリーマスとピーターに、がっくりとジェームズは肩を落とした。苦笑しながら、ちょっとだけつめてもらってオレはそこに腰を下ろす。


「じゃあ説教じゃなかったんだ?」
「うん。でもびっくりした。クィディッチだってさ。まだポジションは決定してないんだけど」
「へぇ、頑張ってね」
「おー」
「ところでって運動出来るのか?」


 素朴な疑問!だというようにシリウスがオレを見た。運動、ねえ。そういえばそんなに大したことはやったことないけど。


「箒は速かったけどなー。運動出来ないイメージは別にねえけどさ」
「んー、アオト兄がクィディッチの練習やるのを見てたりはしたよ」
「見てただけなの?」
「だって7歳差なんだってば。アオト兄とオレじゃあ練習にならないんだよ」


 確かに、と頷く彼らをよそに、オレはミートパイをほおばった。お腹減ってたんだよなー。リリーの姿を発見したジェームズがうきうきと突撃をかけるのを鮮やかに無視して、リーマスは首をかしげる。


「アオトさんも選手だったんだよね?」
「ん。キーパーだったって。なんだっけ、無得点の記録持ってんだろ?ジェームズに聞けば・・・ああだめだな、今は」


 離れてちょうだいこの変態ッ!!と怒鳴るリリーの声に、オレはやれやれと腰を上げた。あーもう、ごめんよリリー。と、そのとき。


 どごっ。


「いっ――――てぇ!!?」
「し、シリウス!?」


 どこからか飛んできたコショウビンの直撃を受けたシリウスが悲鳴を上げた。呆然とその方向を見ると、グリフィンドールの席では黒髪の女の子が、隣のレイブンクローの席では黒髪の男の子が、それぞれ立ち上がってものすごい勢いで口論をしていた。


「――――――!!―――!―――!!!――!」
「―――――――――!!!――!――――!!」


 早口な上に、おそらく中国語で何を喋っているのかさっぱりわからない。けどとりあえずケンカしていることだけは分かる。周囲の人間が完全にドン引きしている。・・・そりゃそうだろうなあ。


「なにやってんだお前らあ!」
「「!!」」


 監督生の先輩によって強制的にケンカを終わらせられた彼らは、いまだ不満顔で席に座った。その女の子のほうに見覚えがあって、オレは声を上げる。


「あ、あの子。列車内でぶつかった子だ」
「ぶつかった?」
「うん、そう。セブとリリーのとこにいたときに。なにやってんだろねえ」


 他人事のようにそう言ってオレはジェームズを止めようとリリーの方へ向かった。そしてオレは数時間後、どうでもいい後輩だったはずのその子ととんでもないかかわりを持つことになる。


「人数の関係で今日から同室させて頂きます。メイファ・レイです。よろしくお願いします」
「・・・よ、よろしくー!」


 ・・・なんだか台風を抱え込んだような気分だ。




















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090520