「ちょっと!!まだ列車に乗って10分だよ!!まだ寝るには早いって!」
「リーマス・・・。オレのこと、好き?」
「はぁ!?」
「じゃ寝かせて〜〜〜〜」
「・・・あ、スネイプ」
「セブぁ!?」


 跳ね起きたオレは、リーマスの真っ黒な笑みに本気でビビッた。え?オレ、なんかした?





 29.





って僕よりスネイプが好きなのー?」
「いやそんなわけ!ただほら夏休み中会えなかったからセブ不足と言うかなんというか」
「だって列車に乗ったらすぐ寝ちゃうし」
「列車苦手なんだってば!!」


 なんでオレはこんなに釈明に追われているんだ。必死でリーマスに笑顔を向けると、ようやく彼も笑ってくれた。なんだよ、からかってただけかよ。ホッとしたけど、なんだか悔しかった。くっそ。


「それにしても、そんなに乗り物が駄目なの?」
「あー、うん。昔からそうでさ。車とかも。酔ったりはしないんだけど、そのかわり強烈な眠気が襲うようになってて。なんでだろーな」


 昔からどうも「乗り物」というものが苦手らしくて、マグルとして生活してたときも電車からバスに車はもちろんエレベーターもダメだった。あ、でも箒は平気だ。


、リーマスー?買ってきたぞー」
「げ。シリウスなんでそんなに蛙チョコばっか大量購入してんの」
「ほっとけ。ピーターが大なべケーキ買ってきたぜ・・・アレ?」
「ちょっとシリウス!君、ピーターがコケたことに気付かなかったのかい!!」


 大量の菓子を手に戻ってきたシリウスは、後ろから声をあげるジェームズを振り向く。ピーターは困った顔をしてジェームズの後ろをちょこちょこと歩いていた。なるほど、ひざがちょっとだけ赤い。


「うわ、悪い!」
「大丈夫なの?ピーター」
「う、うん!ごめんね・・・!」


 ピーターはコンパートメントの椅子にお菓子を置いてちょっとだけ笑った。見る限り打っただけみたいだ。よかった。オレはそれを確認してから、ジト目をシリウスに向ける。


「気付かなかった、って・・・お前さあ・・・」
「うるせぇ!悪いっつってんだろ!!」


 本気で反省しているらしくバツの悪い顔をしているので、さすがにそれ以上はイジめないことにした。百味ビーンズも無しにしてあげよう。

 シリウスの買ってきた蛙チョコをひとつもらって、オレは席を立った。


「どうしたんだい?」
「リリーとかセブとかに会ってくる」
「僕も行くよ!」
「「「却下」」」


 勢いよく立ちあがったジェームズの腕をシリウスとリーマスがひっ捕まえて席に戻す。いってらっしゃい、と笑って手を振るリーマスに手を振り返して、オレはドアを開ける。さて、と。探すか!





「セブ!・・・と、リリー!?あれ、なんで二人一緒にいんだよ?」


 いくつかのコンパートメントを歩くこと数分、、久々の黒髪を発見して、オレは声をあげた。けど、その人物の前で立っていたもう一人を見て目が丸くなる。なんだこの意外な組み合わせ。


「きゃあ、じゃない!久しぶりね!!」
「・・・


 嬉しそうにリリーはオレに抱きついてくる。ちょっとだけ低くなったその頭に触れると、緑色の目がオレを見上げた。セブは相変わらずの冷めた反応だけど、声音から分かる。コレはアレだ、喜んでくれてる。ふふふ、1年間あれだけ濃い付き合いをすればわかるようになってくるものだ。


「ねえ、あなた背ぇ伸びた?」
「ああ、そう。なんかちょっと成長したみたい。セブは抜けたかもな」
「な!?」


 引きつった声をあげたセブは、嫌そうにオレを見た。ふふん。


「そうね・・・私も伸びたけど、はかなり伸びたんじゃない?もともとそんなに小さい方じゃないし。セブルス、ちょっと並んでみたら?」
「・・・え」


 「拒絶!」と言わんばかりの顔でオレを睨むセブに笑顔を返す。有無を言わさないオレの表情に諦めたのか、しぶしぶという擬音語が聞こえそうなほどにゆっくりと彼はオレの横に立つ。


「あ。ちくしょ、あと1センチくらいかー」
「夏休み内にそんなに伸びたのか?」
「いや、なんか去年から気づいたら実は伸びてたみたい。気づいたの、夏休みが始まって一週間だったし。リーマスは抜けたんだ」


 僕よりルーピンの方が小さいのか、とつぶやいたセブとオレを見上げて、リリーは少し楽しそうに笑う。


「なんだか凛々しさに磨きがかかったわね、?男子に間違えられる回数、増えたんじゃない?」
「うっ・・・!」


 親友の適格な言葉に、オレは言葉を失う。図星だ。なに?オレが男に間違えられるのはもはやデフォルトなの?どういうこと?そんなに男らしくしてるつもりはないんだが!悪いがこれは素だ!素!!


「なんだ、また間違えられたのか?」
「買い物に行けば男服を進められるし、キレイなお姉ちゃんに『ボク、遊ばない?』とか言われるし、さっきなんかぶつかった女の子に真っ赤な顔されたんだぜ!どういうことだよ!」
「それは仕方ないわよ」
「間違えた方に非はないな」


 すっぱりとそう言われ、ちょっとだけ落ち込む。え、なにオレそんなに男らしいの?女らしくないのは自覚してるけどさ!!


「んだよ、オレだって一応女なんだけっ、ど、!?」


 とんでもない勢いで背中にぶつかってきた何かのおかげで、オレの言葉は思い切り遮られる。そのまま倒れこみそうになって、セブに支えられて礼を言いながら振り向く。


「≪ごめんなさい≫!・・・ご、ごめんなさいっ!」
「い、いや。大丈夫・・・だけど」


 そこにいたのは綺麗な長い黒髪の女の子だった。気が速いというかなんというか、もうすでに制服姿だ。前髪を上にあげてピンで留めておでこ全開でなんか可愛い。ノーネクタイの胸元を見るに、どうやら新入生らしい。


「どうしたの?そんなに慌てて」
「ちょっと、連れを見失って!す、すみませんでした!」


 リリーの言葉にそう返して、慌ただしく隣の列車へ消えていく女の子の背を見送る。オレたちは沈黙した。それから、リリーがはっと気がついたように声を上げる。


「私たちも着替えなきゃ。そろそろじゃない?」
「あ、ほんとだ。それじゃな、セブ」
「・・・ああ。学校でな」


 やっぱり着替えるのはトイレだよなー。さすがに。そんなどうでもいいことを考えてたら、不意にリリーが言った。


「ねぇ、さっきの子。何語だったの?」
「あー、多分中国語だよ。日本語ならオレ、分かるし」


 中国には美人さんが多いって聞くけど、本当にきれいな子だったなぁ。なんて考えながらオレは自分の制服をとりにジェームズたちのいるコンパートメントまで戻った。もちろんリリーはトイレで待っててもらった。なんせジェームズがいますから。


















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090508