勝負開始から、1時間が経過した。


「・・・」
「・・・」


 ジェームズの顔がひきつっている。こいつがこんな顔をするようなこと、今まであったか?一方アオトさんはといえばケロリとした顔で、楽しそうにチェス盤を眺めている。こりゃあだめだな。





 28.





「―――――――うッ」
さあ。飲め☆


 見事完敗を喫したジェームズは、アオトさんの輝く笑顔が差し出す底なし沼のような色をした液体の入ったグラスを見て蒼くなった。このやろう、さっきオレに飲ませたことを覚えてないのか。


「いやー、楽しかったぜ久々に。このオレ相手によくやったな」
「じゃあコレは見逃していただくっていうのは」
ソレはソレ、コレはコレ☆


 きらめく笑顔でそう言ってアオトさんは、ぐりぐりとジェームズにグラスを押し付ける。


「諦めろジェームズ。飲めよ」
何を言うんだいシリウス!こんなもの人間が飲んでいいものじゃないよ!!
テメェふざけんなオレは飲んだんだぞ!!
「僕を君と一緒にしないでくれるかい!」
「おいコラ!!」


 オレのせっかくの助言を、ジェームズは悲鳴に近い声で思いっきり無駄にした。からからと笑うアオトさんは、そしてまたグラスをジェームズに押し付ける。ちらりと助けを求めるような視線がリーマスに向けられる。そしてそれを鮮やかな笑顔でスルーするリーマス。・・・。


飲・め☆
「・・・・・・・・・・・・・・はい」


 最後にピーターの顔が困ったように笑うのを見て、助けの手がやってこないことにようやく降参したらしいジェームズは、ひきつった顔でグラスを受け取る。そしてオレはさっきの味を思い出して血の気が引くのを感じた。4人が見守る中、ジェームズはグラスを口に近付ける。


「ジェームズ・ポッター、行きます!!」
「さっさと行けよ」


 思わずオレはさらりとツッコむ。そのままジェームズは一気にグラスに口をつけてその液体(オレはこれを飲み物とは認めない)を飲み干した。


・・・・・・・・・・・・おうぇっ


 一気に青ざめて口元を押さえるジェームズをアオトさんは楽しそうに眺める。なんて人だよ。


「ちなみにどんな味なんだ?」
「・・・この世の終わりを垣間見るような味です」


 返答不可能なジェームズに代わってオレは答える。くつくつと喉を鳴らすアオトさんに、リーマスがまるで授業のように手をあげた。ノリがいいのかアオトさんはびしっとそれを指さす。


「はいそこ」
「質問ってやっぱりしちゃだめなんですか?」
「あー」


 そういやそれが賭けの内容だったっけな。ジェームズが「アレ」を飲むことがすでにメインになっていて、そんなことなんてすっかり忘れていた。アオトさんは困ったように頭をかいて笑う。


「なんだ、そんなに聞きたいことがあるのか?」
「・・・はい、まあ・・・」
「そうだな、内容によっちゃ答えてやらなくもないが。なんだ?」


 ちょっと考えて、リーマスは口を開く。


って、小さい頃どんな子だったんですか?」
「は?」
「あ、オレも聞きたい」
「僕も!!」


 目を点にするアオトさんをよそに、オレたちはリーマスの疑問に同意する。昔からあんなハチャメチャ娘だったのだろうか。気になる。ただし、ジェームズだけはひとり静かに胃からせりあがってくるモノと格闘しているらしく会話に参加してこない。・・・自分の作ったものの殺傷力がわかったかこのヤロウ。


「そんなにアイツの昔が気になるか?んー・・・そうだな、昔はオレのことも『お兄ちゃん』って呼んでたぞ。けどそうだな・・・あいつな、」


 そこで一度言葉を切ったアオトさんは、一瞬遠くを見るような眼をする。それから足を組みなおしてオレたちを見た。


「オレが11歳から14歳まで、だからが4歳から7歳だな。日本で暮らしてたんだよ」
「日本!?」
「ああ。だからなにかと変な知識あるだろ?スルメイカ好きだったり」
「・・・・・・・」


 嫌な記憶がよみがえってきて、オレは眉をひそめた。去年のクリスマスだ。ジェームズのプレゼント選びに付き合って疲れてたのに、そこに追い打ちだ。ひどい目にあった。


「日本語も話せるぞ。オレは日本で暮らしたことはないけど、一応な。母親が日本人だし、たまに日本語で会話するし」
「へー・・・」


 そうか、容姿からは全く想像できないけどアイツ、そういえばハーフなんだっけな。金髪に青い目、日本じゃ苦労したんだろうなあ。なんて呑気に考える。


「で、オレはそのころホグワーツにいたし、休みも会えなかったんだよな、その間は。で、3年間の空白ののちに再会して、そのころにはもうあんな感じの性格だったぞ」
「え・・・」
「3歳から7歳だからなー・・・兄貴のオレのことなんか忘れてんじゃねえかと思ったけど、覚えててくれたのは感動したな」


 そう言って笑うアオトさんだったが、オレたちは少しだけ沈黙した。3年間の空白?普通の兄妹がそんな目にあうものなのか?だってホグワーツは夏休みには実家に帰る決まりになっている。そのときも会えなかったって、どういうことだ?


「・・・は、なんで日本に・・・」
おいコラぁ馬鹿兄――――――――――――――――――――――!!!


 けたたましい足音とともに怒鳴り声、そして勢いよくすっぱーん!とふすまは開いて、透き通る金髪を振り乱し顔を真っ赤にして息を切らす、話題の中心人物、がそこにいた。


「4人になんか変なこと言ってねぇだろうなおいコラぁ!!」
「そうだなは風呂がキライでよく裸で逃げ回ってたとかな」
あああああああ!!!


 爽やかな笑顔でそう言った兄に真っ赤な顔で突撃して、は殺気のこもった視線をオレらに向けた。・・・いや、そんな今にもぶち殺しそうな目をされても・・・。


「は・・・裸で・・・?」
「2歳だ2歳!!に・さ・い!!!昔々の話だオレは覚えてない!リーマス引くな!お願いだから!!」
「まだまだあるぞ、ピンクのフリフリのワンピース着てたのに『元気な男の子ねぇ』と言われたこととか」
「うるせぇそのころから男顔だったんだよ!!」


 思わず噴き出したオレは、の見事な裏拳を食らうことになった。



















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090505