帰ってきて一番に、顔を出したのは父さんと母さんだった。


「おう、おかえり。後ろのが友達か?」
「ただいま。うん、右端から」
「ジェームズ・ポッターです」
「シリウス・ブラックです」
「リーマス・ルーピンです」
「ピーター・ペディグリューです」


 矢継ぎ早に次々と答えた4人に、父さんも母さんも口元に笑みを浮かべる。


の父と母です。よろしくね」




 27.




「さすが伝説一家・・・家まで予想外」
「はぁ?」


 ジェームズが楽しそうに言う。思わず訝しげな視線を向けると、シリウスが大きく頷きながら続けた。


って一応旧家じゃねえか。城とか予想してたのによ、こんなごっちゃごちゃしてる家だとは思わなかったぜ。なんていうの、ガラクタを積み上げた感じがあるな」
「テメェ失礼だな」


 ポケットに入ってた百味ビーンズを一つ放り投げる。油断もあって見事にそれを口に入れたシリウスは瞬時に顔を青くした。「最悪だ・・・硫黄の味がする」それを完全に無視して、リーマスが嬉しそうに笑う。


「すっごく面白いよ、この家!僕、の家に来るの、本当に楽しみにしてたんだよね」
「そっか?ならよかった」


 本当に嬉しそうなリーマスの笑顔に、どこかホッとしながらオレも笑う。傷だらけのリーマスの顔については、母さんが薬を用意してくれるとか言ってたから心配はないだろう。魔法薬に強い母さんは、うちにある薬をほとんど手作りしている。・・・なんでオレ、魔法薬苦手なんだろう・・・。


「この部屋、僕たちが借りていいの?」
「ん。一応4人がいっぺんに寝れた方が気が楽かと思ってさ。ここ普段は空き部屋なんだけどね。畳は慣れない?ピーター」
「うん・・・ちょっとだけ。でも楽しいから、大丈夫だよ」
「おう」


 オレが4人にあてがったのはおよそ10畳くらい(よくわかんないけど)の和室だ。空き部屋なんざ探せばいくらでもあるけど、そのなかでも大きくてかつ道を迷わない部屋といったらここがベストなのだ。

 なんせオレの家はかの有名な小説、ハ○ルの動く城、そのまんまみたいな構造、見た目だったりする。ドアが異世界につながってたりは流石にしないけど。


「何はともあれ、残りの夏休み。よろしく頼むよ、我が友
「―――――ああ。歓迎するよ、我が友人たちよ」





**





「あ―――――ッ!!?またジェームズの勝ちかよっ!」
「ふっふっふ。知は使ってこそのものなのだよワトソン君」
「じゃシリウス。罰ゲームだね」
「はい。コレ。頑張れー!」


 渋々腰をあげて、罰ゲームの「牛乳と卵黄・コーラとアールグレイティー、カルピスとラー油と醤油とマヨネーズ、仕上げはイチゴジャム!の奇跡のコラボレーション☆これを飲めば君も一晩でモテモテの最強男子に変身可能!返品は認めません MADE BY ジェームズ・ポッター」を飲み干すシリウス。途中で吐きそうな顔をしながらも彼は見事にそれを飲み干した。いくら罰ゲームだって僕なら絶対に飲みたくない。 


・・・・・・・・・・・ッ、おえ・・・ッ
「コレで君も今日からモテモテ男子に変身ダヨ!良かったじゃないか☆僕に感謝するべきだね!」
「でもシリウスはもともと人気あるけどね」
「そうだよね、僕、修了式の日にシリウスが告白されてるの見ちゃったもん」
「なぁ!?」


 僕の言葉に同意するように言ったピーターの問題発言に、シリウスは目をひんむいた。


「なななななな、お前!どこに、」
「き、聞くつもりはなかったんだよ!たまたま通りがかったら・・・それで柱の陰に隠れたら・・・出るに出れなく、なっちゃって・・・」
「―――――うわぁ」


 本気で嫌そうな顔をするシリウスは、放っとくとそのままピーターをシメかねない顔をしていたので僕とジェームズは二人で彼からピーターを引き離す。ジェームズが楽しげな顔でここぞとピーターに聞いた。


「どんな子だったんだい?」
「え・・・えと、可愛かったよ。多分レイブンクローの子で、さらさらの長い黒髪で、おとなしそうな子」
「断ったよ!うるせえな!!」
「ふーん・・・」


 と正反対、ね。


 ・・・アレ?
 唐突にそんなことを考えた自分に呆気にとられる。確かに聞いている範囲ではとは正反対な子だけど、そんなことを考える理由はない。どうしたんだろう、僕・・・。


「―――お?なんだ、チェスやってんのか」
「あ、アオトさん」


 唐突にドア・・・じゃない、ふすまが開いて、の面影を持つ黒髪の人が顔を出した。途端にジェームズが顔を輝かせる。


「はいッ!一緒にやりませんか!?」
「いいな。じゃ相手してくれよ。・・・で、コイツはどうしたんだ?」
「ああ・・・」


 淀んだ目であらぬ方を向いているシリウスを指さしてアオトさんは首をかしげる。・・・大丈夫かな。死んだ魚の目になってる。


「気にしないでください。多分、罰ゲームのジュースがキちゃったんだと思います」
「罰ゲームのジュース?なんだそりゃ」
「僕!僕が作ったんですよ!特製の牛乳と卵黄とコーラと――――」
聞き流してくださいスミマセン


 がばっと手を挙げて語りだすジェームズを遮って、僕はアオトさんに笑顔を向ける。軽く笑って、彼はさっきまでシリウスが座っていたジェームズと向き合う席にすとん、と腰をおろした。


「罰ゲームか。じゃあオレもなにか賭けようか?」
「ええ!?いいんですか!」
「ああ。じゃあ、・・・そうだな。お前が勝ったら、なんでも三つ質問に答えてやるよ。そのかわり、」
「―――僕が負けたら?」
「ここを出てくか?」


 ジェームズの顔から笑みが消える。静まり返った部屋、アオトさんの鋭い目。ピーターがおびえたように竦む。けれど次の瞬間、アオトさんは弾けるように笑いだした。


「っはは!嘘だ、嘘!んなことしたらにぶん殴られるだろうしな。それに、オレもお前らを気に入ってんだ。大丈夫だ、追い出したりはしねぇよ」


 ホッと僕たちから思わず息がもれた。まだまだ帰りたくなんか無かったし、正直この人ならやりかねない、なんて思ってたからちょっと本気かと思った。


「んー。じゃあそうだな。そいつが死んでる原因となったものを飲むってんでどうだ?」
「・・・・・・・・・・。わかりました」


 自分で作っておきながら、ジェームズは絶対自分で飲むつもりはなかっただろう。その証拠にアオトさんの言葉をのんだその顔に、うっすらと冷や汗が浮いてる。顔も心なしか青い。シリウスに勝つ自信はあってもアオトさんに勝つ自信はさすがにないんだろうなぁ。そう思ったらなんだか面白かった。


「リーマス!笑ってないで応援してくれよ!ピーターも!!」
「はいはい。分かってるよ」
「頑張れ、ジェームズ!」


 ふー、と一回深呼吸をして、ジェームズはチェス板を見つめた。その姿をアオトさんが面白そうに見つめる。ふと思って、僕はアオトさんの碧い眼を見上げた。


はまだ買い物から帰ってこないんですか?」
「ああ。母さんに付き合わされてんだろ。―――そうだな。が帰ってくるまでにオレを負かせてみろよ。そうしたら、アイツの昔話でもしてやるよ」


 無謀なジェームズの挑戦が始まった。


 ・・・ごめん、ジェームズ。勝って欲しいけど、正直無理だと思う。


















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090424