「来たぜ!ダイアゴン横丁!」


 オレの声に道を行く人々が振り返る。慌てて声を押さえた。す、すみません。


「・・・漏れ鍋行こうっと」


 ちょっとだけ身を縮めながら、オレは踵を返した。




26.





「よ!」「おう!」「やあ!」「!」


 オレのかけた声に、一斉に返事が返ってくる。たった一週間しか離れてなかったのになんだか懐かしいようなその顔ぶれに、知らず心が躍る。当たり前かもしれないけれど全然変わらない彼らの中に、一人姿がみえないのに気づいてオレは首をかしげた。


「リーマスは?」
「まだみたいだね。僕らもなかなか早く来ちゃったようでさ。とりあえず座りなよ」


 ジェームズに言われて席に着く。ぱくぱくとチョコレートサンデーにかぶりつくピーターに嫌そうな視線を向けるシリウスは甘いものが嫌いだ。・・・今日の夕飯のデザートにミルフィーユでも出そうか。母さんに頼んでみようかな。え、なに?もちろん嫌がらせに決まってるじゃん!


「あ、早いね」
「!」


 久しぶりのその声に、オレは即座に振り向いた。意識しなくても笑顔になる自分の顔が分かる。けれど、彼の顔を見た瞬間、オレは言葉を失った。 


「――――――ッ、」
「やあ、。僕、ここ座るね?」


 普段と全く変わらない口調で、笑顔で、そのままリーマスはオレの隣のイスに手をかける。ジェームズたちも振り向いて声をかけようとして、そのまま一斉に目を見開いた。シリウスの目が険しくなる。


「お、前・・・!そのケガ、」
「わあ、ピーターが食べてるのいいね。僕も食べようかなー」
「・・・リーマス」


 呑気に笑うリーマスの腕をとらえて、ジェームズが視線を合わせた。いつになく真剣な眼差しに、リーマスの笑みが消える。どれくらいの間そのまま立ち尽くしていたのか、オレには分からないけれど、先にその空気を壊したのはやっぱりリーマスだった。


「―――大丈夫だよ?飼ってる犬が暴れてさ。いつものことだから」
「・・・本当かい?」
「もちろん」


 額に巻かれた包帯。左頬に張られた大きい厚手のガーゼ。唇の端に残る傷跡。痛々しいその顔に、さすがのオレも何も言えなかった。にこりと、いつものように笑うリーマスは、本当に、いつもと変わらなくて。


「・・・なら、いいんだ。さあ、シリウス!ピーター!」
「おう」
「うん!」


 笑うリーマスに笑みを返して、ジェームズは立ち上がって2人を振り返った。その2人もごそごそと後片付けをし始める。それから彼はオレに声をかけた。


!君の家に案内してもらってもいいかい?」
「・・・あ、おう!!」


 その言葉に慌てて返事をする。リーマスのケガは、オレが今どう思っても直せるようなものではない。だったら沈んでいたって仕方ないんだから。オレが沈むようなことじゃないし、そんなことをしてこの場を壊したくもない。せっかくみんなが揃ったんだから。それにこれから、楽しい夏休みの本番がやってくるんだ!


「おい!自分の食ったもん片付けろよ」
「えー、ついでにやってくれてもいいじゃん」
「・・・ったく」
「お、えらい」


 やってやんねえぞ!だなんて怒鳴るシリウスに軽口を叩いて、オレも立ち上がる。そして生じた小さな違和感に、ちょっとだけ戸惑った。それに気づいたリーマスが首をかしげる。


「あれ?もしかして、身長伸びた?」
「・・・あ、そうかも」


 ちょっと前にはオレの方が小さかったのに、今ではリーマスよりオレのほうが数センチ高い。気がつかなかったけど、オレも成長してたんだなぁ。悔しそうに彼は笑う。


「女子の方が成長早いって本当だねー」
「へへ、そうだな。でもまだジェームズとシリウスには届かないしな」
「でも、僕だってきっとを抜かすからね?今は負けてるけど」
「オレだって負けねーよ?」


 シリウスはとりあえず長身だし、ジェームズはシリウスとまではいかないけれどそれなりに背はある。オレは女子にしては結構背は高いほうだけど、彼らには敵いそうにもなかった。ジェームズなら抜かせるような気がしなくもないけど、シリウスはなー。オレも成長するけどシリウスも成長するわけで。結局追いつけないのだ。


「でもとりあえず、」
「うん、やっぱり、」




「「ピーターには抜かされたくないなー」」




 揃った声に顔を見合せて噴き出す。出てきた自分の名前に反応して、ピーターがこっちを向いて目を瞬かせる。なんだかその仕草がハムスターみたいで、またなんだかおかしくなった。


「え?なに?」
「なんでもないよー」
「ピーターはそのままでいてほしいなぁと思って」


 頭の上にクエスチョンマークをいくつも浮かべて、ピーターはぽかんと口を開けた。うんうん、ピーターには抜かされたくないな。とりあえず。


「さ、行こうか?」
「あ、ちょっと待ってオレ・・・」
「イタズラ専門店ならさっき行ったじゃないか」
「え、おいなんだそれ!」


 ジェームズとシリウスが交わす言葉に反応して声を上げる。にいっといたずらっ子みたいな笑みを二人して浮かべて、どっさりと買い込んだイタズラ道具の袋を掲げた。ちゃっかりピーターも参加してたらしく、二人と同じような袋を彼まで持っていて。


「えー!!ズルい!」
「聞いてないよ!!」
「待ち合わせに早く来すぎちまってさー、んでヒマつぶしに向かったら2人に会って」
「もちろん買い込んだってわけさ」
「重かったよね」


 得意げな3人に不満を訴える。くっそぉ、絶対今夜3人のベッドに何か仕掛けてやる。そうオレとリーマスは決心した。





















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090412