がたたたん、と電車が揺れて、オレはゆっくりと目を開けた。飛んでいく景色にハッとする。 「わー!また寝てたー!!」 「おはよう」 オレはどうやら、汽車の中では起きてるのが苦手らしい。 24. 学年末テストは無事・・・というのかどうかはいまいち疑問だが終えた。不愉快かつ信じられないことに学年一位はジェームズ・ポッター、次席はシリウス・ブラック。しかも点差は2点とか、ほとんど同率一位じゃん!とオレが叫んだのは言うまでもない。リリーとセブルスが例えようもないほど嫌そうな顔をしていたのも。 ちなみにリーマスは二人ほどではないにしろ上位で、思いっきり中の中といういかにも「普通」な点だったオレは思わず落ち込んだ。いや、想像以上によかったのはわかってる!でも!・・・ピーターの手前、あんまり落ち込んでなんかいられなかったけど。 「くっそー、やっぱオレ、薬草学と魔法薬苦手だー」 「スネイプに教わったんじゃなかったのかよ?」 「いやそれはもうもちろん。ものすごいスパルタっぷりでびしびしとしごかれたよリーマスと一緒に。だってオレたち、セブに教えてもらえてなかったらもっと酷かった」 「・・・・・・・・・・お前はともかく、リーマスは・・・・・・そうだな・・・」 シリウスが遠い目をして言う。相変わらずジェームズはうきうきとリリーに声をかけて冷たくあしらわれ、リーマスは笑顔で毒を吐き、ピーターはヘマをするたびに泣きそうになって。セブはそれを遠目から軽蔑のまなざしで見る。うん、いつも通りだ。 「もうすぐ夏休みかー」 「・・・そうだな」 途端に剣呑な顔をしたシリウスに苦笑する。家になんか帰りたくない、それがありありと分かる。オレは不意に立ち上がって3人を呼んだ。リリーは・・・このメンツは嫌がるだろうし、それはセブも一緒だろう。今回はシリウスの救済措置だし、まあ、いっか。 「どうしたんだい、?」 「なにかあったの?」 「え、な、なに?」 「いやそんなに警戒するようなこと起きてねえよ」 シリウスがツッコむ。それを受けて、オレはにやりと笑った。 「お前ら、夏休み中うちに泊まりに来ないか?」 * 「一週間後に漏れ鍋集合だね。楽しみだ!」 楽しそうなジェームズの声に、オレはまだ眠い頭を振って笑った。この提案を出した瞬間、全員諸手をあげて大賛成してくれたけど、一拍置いてリーマスの「・・・でも、女の子だよ?」という声でちょっと議論になった。オレとはいえ、女子の家に泊まるという事実がちょっとアレだったらしい(オレはよくわからん)。けど、オレの 「あ、大丈夫。アオト兄いるから」 の一言で収まった。なんか怪しいことをやったら、そりゃあアオト兄の鉄槌が落ちるだろうし父さんだって家にいるし。母さんもいるし。むしろうちで最強は母さんだからなぁ・・・。 もちろん家にはとっくに許可を貰っておいたし。このことをリリーに話すと「ずるい!」と散々ゴネられたけど、来年はリリーを呼ぶということで決着がついた。もしかしてその次はセブか?うーん・・・。 「そういえば、行きは誰と一緒に座ってたの?」 「行き?セブだよ。そういや、最初の友達ってセブだったんだよなぁ」 「スネイプぅ?」 リーマスの問いにそう答えると、シリウスが途端に嫌そうな顔をした。いつものことなので気にはしない。入学した日がなんだかつい昨日だったような気がして、ちょっとだけ感動した。そっか、あれからもう約1年たつんだ。 「早いねぇー。オレたち、2年生になるんだよなぁ」 「そうだね。覚えてる、シリウス?君、を男子と勘違いしたんだよ?」 「げっ、うわ!それを言うなよ!そしたらジェームズだって一緒じゃねえか!」 「僕は確認しただけじゃないか!」 反論したジェームズに圧されてシリウスもぐっと口ごもる。そういえば。 「オレ、セブにも間違えられたんだよな」 「ほらみろ!」 「でもセブの時はジーパンだったしな。シリウスの時は制服のスカートだったし」 「うっ」 「一応制服のスカート姿だと間違えられたことはないんだけどな」 疑われたことならあるけど。 ジト目がシリウスに突き刺さる。そこでようやくシリウスはオレに対して頭を下げた。分かればよろしい、オレは得意げに鼻を鳴らす。・・・いや、得意になるようなことじゃねえよな。ちょっと待て、オレ。 「一週間かー。くそ、その間あのバカげた家にいなきゃなんねえのかー」 「それくらい辛抱しなよ、一週間になっただけ感謝ものじゃあないか」 「そうだけどよ。あーあ、ホグワーツに残れたらいいのにな」 「それはだめらしいよ、以前もそんな生徒がいたらしいけど」 「どうしてなのかなあ」 不思議そうなピーターの声を遠くに聞きながら、オレはまた意識がどんどん薄れていくのを感じる。あ、だめ。寝そう。 「あれ、、また寝るの?」 「んー・・・」 「本当に汽車苦手だねぇ」 からかい混じりのジェームズの声にすら反応ができなくなっていく。だめだ。寝る。 「も、だめ。オレ寝る。おやすみ」 「はいはい、おやすみ」 リーマスが出してくれたローブをかぶって、オレはそのまま意識を手放した。 数時間後、オレは自分の行動を心の底から後悔する。 ちっくしょー!あいつらはイタズラのエキスパートだったよ油断した!顔の見事なアーティスティックな落書きを目にしてオレは叫んだ。落とすようなヒマもなく汽車は駅に到着する。結局、オレはその見事な顔のまま迎えの家族に向き合うことになり、父さんとアオト兄にこれ以上ないほど大笑いされたのだった。 しかもあいつら一目散に逃げたからな!別れのあいさつとかなかったからな!そりゃ一週間後に会うとはいえどうなんだよソレ!全く! ←BACK**NEXT→ 090328 |