クリスマス休暇が終わって、イースター休暇までは本当に月日が速かった。 日本じゃ確か、この時期を「1月はいぬる、2月は逃げる、3月は去る」って言うんじゃなかったっけ―――。うん、その通りだ。実際、3月どころか4月も速かったけど。 そしていま、オレたちは必死で試験勉強中です。 23. 「のああああああわかんねええええええ!!!!」 「ヒステリックな声を上げるのはうるさいよ!」 ジェームズに怒られながらオレは目の前の教科書を放り出した。あーあーあーあーくっそー。勉強なんか嫌いだー。 「ほら見せてみろ。どこがわかんねーんだよ」 「シリウスが優しいー珍しいー明日は雪が降るよみんなー」 「うるせえよ!!お前がうだうだうるさくて集中できねえんだよ!!」 拳が飛んだ。痛い。オレは仕方なく起き上がると薬草学のページを開いた。部屋の端っこではピーターとリーマスが実技の練習をしている。ここは空き教室。オレたちが発見した便利な部屋だ。 「うぃんがー、でぃあむ、れびおーさ!」 「そこで切っちゃだめなんだよピーター!」 「うぃんがーであむれびおーさ!」 「一息だからって良いわけじゃないんだよー」 真っ赤な顔で必死に練習するピーターを指導しながら、リーマスはちゃっかり自分もいくつかの魔法を練習していた。多分ピーターがひとつ完璧になる間にリーマスは3つ習得してるだろう。 「うーん・・・オレ植物興味ないからなー」 「お前は防衛術と変身術が得意だよな」 「うん。なんだかよくわかんねーけど」 オレはなぜか変身術はものすごく得意で、マクゴナガル先生からの評価もかなり高い。結構一発でできちゃったりするし。かなり難易度が高い教科らしいけど。防衛術は、・・・よくわからん。 「問題は魔法薬でさー。でもセブにみっちり教えてもらう約束してるから、頑張んないと」 「・・・・・・魔法薬が問題なのはリーマスだろ、どう考えても」 「同感だね。、親愛なるセブルス・スネイプくんのところに一緒に連れてってあげなよ」 ジェームズの一声にオレは唸る。そうしたいのは山々なんだけど、セブ、お前らのこと嫌いだからなあ。でもリーマスならいいかな。とりあえずセブが嫌いなのはジェームズとシリウスだし。 考え込むオレは、飛んでくるピーターの杖に気づかなかった。 「危ない、!!」 「へ?―――ぎゃあああ!!??」 垂直に落下してきた杖は、慌てて避けたオレがいた場所に深々と突き刺さった。どすっと音がする。そして沈黙が漂う。 「・・・ご、ごめん!大丈夫、!?」 一番に沈黙を破ったのは当事者のピーターだった。ようやくオレも我に返る。突然だったから勢いを止められずに思い切りどいたおかげで、オレは床に尻もちをついていた。差し出されたリーマスの手に立ちあがらせて貰う。 「大丈夫?」 「ん、ヘーキ。・・・ていうか、何事?」 「それが・・・」 困ったように首をかしげて、謝るピーターをおいてリーマスは口を開く。 「浮遊呪文の練習してたんだけど、勢いあまってピーターの手から杖がスポーンと」 見事に吹っ飛んで。 「それがちょうど綺麗に弧を描いて」 の座ってる席へと。 「突き刺さっちゃったってわけだよ」 「ピータァー!!!!」 「ごめんなさーい!!」 「だったからよかったものの!!」 「おいこらちょっと待て」 オレはなんだ。超人か。 「別にいいよ、もう気にすんな、ピーター」 「うん・・・ありがと、」 「うん。頑張れ、あともうちょいで出来るだろ?」 「・・・うん・・・でも、僕、全然できなくて・・・」 肩を落とすピーターに、オレはちょっとだけ屈んで視線を合わせた。普段からそんなに魔法が得意じゃなくて、失敗が多いピーターはすぐに落ち込む悪いクセがある。比較対象がこのメンバーじゃ仕方ないかもしれないけど。オレが嫉妬するくらい、ジェームズもシリウスもリーマスも出来はいい。 「オレも練習しよっかなー」 「え、?だって、はもう・・・」 できるのに、というピーターの言葉に笑う。 「いいだろ、オレだって別に軽々使えるわけじゃないし。やるぞ?」 「えっ、う、うん・・・!」 慌てて杖を手にして構えるピーターと一緒に、呪文を唱えた。 「「Wingerdium Leviosa!!」」 * 「わぁっ、出来た・・・!」 見事にの教科書を浮かせたピーターは、嬉しそうにはしゃいだ声を出した。横でも笑う。僕が教えてもほとんど上達しなかったのにね。苦笑を浮かべると、肩をシリウスに小突かれる。 「お前の手柄でもあるんだからな?わかってるだろ?」 「わかってるよ。でも、やっぱりはすごいね」 「全てを自分のペースに巻き込む子だからねぇ」 笑いを含んだ声で言うジェームズは、愉快そうに二人の光景を見ている。ちょうどが自分の羽ペンを綺麗に飛ばして杖の持ってない方の腕でキャッチした。ピーターは今のうちに完璧にしてしまえ、と今度はイスを真剣に見つめている。 「なあ、リーマス」 「なに?」 「こないだから思ってたんだが、そのキズ。大丈夫なのか?」 頬についた深い傷跡と、手首の切り傷にシリウスの視線が行く。さりげなくその箇所に触れて、僕は自然な顔で笑ってみせた。 「大丈夫だよ。言ってるじゃないか、毎月通院のために家に帰るけど、家で飼ってる犬がとんでもない問題犬なんだって」 「それにしても毎月傷を作って帰ってくるじゃないか。そんなに暴れる犬なのかい?躾けたほうがいいんじゃないか?」 「うん、そうだね」 心配そうなジェームズに笑顔で返す。―――本当のことなんて、言えない。君らを信じていないわけじゃない。信じてる。でも、だからこそ、怖いんだ。君らのことが大好きだから、余計に。 君たちの目が恐怖に見開かれるのなんて、見たくないんだ。 大丈夫。 笑顔を作るのも嘘を言うのも、もう慣れてる。 「―――あっ!?・・・!?」 「げ!やべ!どけっ、リーマス――――――!!!」 「え?」 ふと上を見上げると、不安定にふらふらと揺れながら浮く机。ピーターが青ざめた顔で一歩引き、魔法を使ってる張本人であるは冷や汗を浮かべた表情でつき上げた杖腕を震わせて。途端に顔色を変えたジェームズとシリウスががばっと立ち上がって僕の腕を引っ張った。その時。 「もう無理――――――!!!!」 どごーん、と盛大な音が響いて、机は見事に落下した。間一髪で避けた僕らは肩で大きく息をつく。そしてシリウスが怒鳴った。 「っこの、馬鹿――――――――――――!!!」 「ごめん――――!!」 ピーターよりはるかにタチが悪すぎるわ!!と彼は両手を合わせるに怒鳴りつけた。僕はジェームズの差し出した手に右手を重ね、引っ張り上げてもらう。 「リーマスも、ぼーっとしてないで避けなよ?危なかったじゃないか」 「びっくりしちゃって。ありがとう、ジェームズ」 どういたしまして、と得意そうに笑ったジェームズに僕も笑顔を返した。 ←BACK**NEXT→ 090327 |