「ところでは、クリスマス休暇帰らなくてよかったの?」
「んー、だってみんな残るって言うしさ」


 リーマスの問いに答える。アオト兄の送ってきたイカをかじりながら、オレはソファの背にもたれた。ちなみにこのイカは普通のイカだ。ちゃんと呪いのかかってないイカも入ってた。


「それにアオト兄の彼女来るからさ、邪魔するの悪いかと」
「へぇ!?」


 シリウスを相手にチェスに興じるジェームズが驚きの声を上げた。





22.





「ジェームズ、今のは何に対する驚きだ。アオト兄の彼女か、それとも気を使うオレか」
「そりゃあもちろん、遠慮なんて似合わないことをするに対して」
「よしわかった歯ぁ食いしばれ」


 きゃー怖ーい、なんて茶化すジェームズにそばにあった百味ビーンズの箱をちらつかせる。途端に顔を青ざめさせた彼に、オレは満足そうに頷いた。


「彼女なんているんだねー、アオトさん」
「そりゃあね。だってオレと7歳差だろ?18だぞ。加えて我が兄ながらあの容姿」
「そっか」


 ピーターが納得した顔でうなずく。父さん似で男に間違えられるオレとは逆に、母さん似のアオト兄は女の子に間違えられる線の細さだ。15歳ごろを過ぎたくらいでようやく間違えられるようなことはなくなったけれど、綺麗な顔は相変わらずだ。


「彼女ってどんな人なんだ?」


 ナイトの駒を進めながらシリウスはオレに言う。その一手にジェームズが変な声を上げた。それをまるっきり無視して、オレは唸る。


「うーん、なんていうのかな、危なっかしい人というか」
「はぁ?」
「・・・どーせならいっぱい話そうか?ヒマだし。アオト兄の恋愛遍歴ききたい?」
「聞きたーい!!」


 リーマスが思い切り手を上げた。・・・お前酒入ってないか。テンション高いな。


 じゃあ、そうだなぁ、とオレはたった今ジェームズが動かそうとしたチェス盤の上の白のビショップを見つめた。





*




 アオト兄ってさ。オレと全然似てないんだよ。写真見ればわかるだろ?金髪のオレと真逆で、髪も真っ黒だし。実はオレってちょっとクセっ毛なんだけどアオト兄はさらさらのストレート。ちょっと近いところがあるとしたら目の色かなあ。でもよく見ると微妙に色が違ったりしてさ。オレが空色ならアオト兄は海色って感じ?

 でさ、オレは男に間違えられるけど、アオト兄なんか女の子に間違えられるのすごかったんだって!いや、正確にはよく知らないんだけど、今のオレたちと同じくらいの時なんか、男から花束もらってたぜー。なんだっけ、デートも誘われてたな。その度に笑顔でキレてたらしいけど。


 ・・・アオト兄の笑顔?うん、怒ってるときのはマジで怖い。


 そんなんだったけど、なんか女子にもすごい人気だったらしいよ。最初はお姉サマみたいな先輩たちからオモチャにされてたような感じがあったらしいけど、いきなり人気が上がったのが4年生だったらしい。

 よくわかんないけど、女の子っぽさが消えたんだってー。なんつーかなぁ。子供っぽさが消えた?のかな?背もいきなり伸びたし、そのころ。


 最初に付き合ったのはレイブンクローの年下の子らしい。くるくる笑ってよくしゃべるハイテンションな子だったらしいんだけど。なんかねー、短かったって、期間は。2か月とか。なんかウザかったらしい。


 らしいばっか使うのはしょーがねーだろ!オレだって聞いた話なの!


 ええと、アオト兄からフッたらしい。なんか甲高い声がうるさいとか言ってたらしいけど。泣かれたけどほっといたって。・・・アオト兄らしいよね。


 次の子はグリフィンドールだったかなー。今度は先輩。でもその人とも結局1か月ー。二人きりでも先輩ヅラされるのが嫌だったそうです。はい次。

 今度はハッフルパフ?だと思われる。ええと、なんか綺麗な子だったけど、独占欲が強くて嫌になって最短の2週間。うるさいよそこ。どんどんいきまーす。次。

 再びのレイブンクロー。また年下。アオト兄って結構女の子には紳士的な感じなんだけど、そのアオト兄を完全にブチ切れさせたらしいです。何したかは知らん。で1か月で別れたって。

 ハイ、5人目にしてまさかのスリザリン!これで全寮制覇!・・・ってそういう場合じゃなくて。スリザリンの子にしては珍しくすごくいい子だったらしいし、今までで一番長く続いた子だったらしいんだけど、スリザリン寮でその子がイジめられちゃってさ。それにすれ違いとかもあったらしく。で別れた。5か月いったかな。


 ・・・こうやって話すと、アオト兄がなんかすっごいヤな男みたいだけどそんなことないから!いや、ただ、自分から好きになって付き合ったことはこのときまでなかったのかなー。だってオレ、この人たちとは会ったことないもん。


 え、うん。今付き合ってる人とは会ったことあるよ。てか家によく来るし。


 話を戻すけど、今付き合ってる人とは、6年生の後半で付き合ったんだって。ああうん、グリフィンドールで同じ年だよ。でも、実は1年のころからずーっと仲が良かった人で、友達として、だったらすでに何度もうちに来てたんだ。 


 気づくまでが長すぎるんだよ!ってことだな。いや、その人も恐ろしい天然で鈍感だったこともあるんだけど・・・いや可愛い人なんだけど・・・うん、鈍感でさ・・・うん・・・

 結局その人が一番アオト兄の大切な人、だったんだよ。要は。二人とも気づくのがかなり遅かったけど、手遅れにはならなかったから結果オーライってか。


 で、今は付き合って2年目か。友達歴もいれると9年くらいだけどそこは置いといて。結婚とかはさ、よくわかんないけど。え、どんな人か?だから鈍感なんだって・・・


 ・・・よくある親友みたいな位置にいたらしくてさ。アオト兄は自分の彼女について相談してたりもしてたんだって。文句ならアオト兄に言え!!ひょいひょい付き合うアオト兄も悪かったんだけどさ。だから文句はアオト兄に言えよ!!

 容姿?綺麗なセピア色のロングヘアで、オリーブ色の丸くって大きな目で、小柄で色白で、可愛い子。童顔で、しょっちゅう学生に間違えられてる。いつも笑顔なイメージがあるか。鈍感で天然でちょっとズレてて、わかりやすく言えば3段に1回は階段を踏み外す感じ。危なっかしいだろ。





*




「・・・傍にそんなかわいい子がいたのに、アオトさん・・・」
「・・・・・・すげぇな・・・」
「どっちが?」
「2人とも!」


 だろ?大きく頷く4人にオレはそう言ってソファの上で体制を変えた。しかもだ。


「今の話、大半がその人から聞いた話」
「え!?」
「入学する前にホグワーツってどんな感じかって聞いた時に、ついでに話してくれたってワケ。なんも表情変えずに笑って自分の恋人の元カノについて話すんだぜー?すごいだろー」
「・・・」


 思わず呆然とするピーターの口が開いたままだ。うん、気持ちは分かる。


「でもそんなカップルもありだぜ?オレ、わかるもん。あの人がどれだけアオト兄を大切に思ってるか、アオト兄があの人をどれだけ大切に思ってるか」


 二人の場合は、それが「恋愛感情」だと気づくのが遅かったパターンだと思われる。


 ああもしかして、とジェームズが白のルークを頭上に放り投げてにやりと笑った。


「アオトさんが付き合ってほとんどが長続きしなかったのって、その人も関係してるんじゃないかな?例えば彼女よりその子を大事にしすぎちゃったとか」
「・・・そうかもね」


 あの二人ならあり得る。そう思いながらオレはもう一度イカをかじった。
















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090326