「・・・なにかあったらしいが、大丈夫だったのか?」 「へ?」 「・・・・・・・・・・・ブラックだ。土曜日に大騒ぎしたんだろう」 その名を言うのも嫌そうに、それでも言ったセブの言葉に一瞬きょとんとして、それからすぐにオレは口に笑みを浮かべた。 「さっすがセブ!!よく知ってんね!」 「・・・・・・あれだけ大騒ぎしてれば誰の耳にでも入るぞ」 20. 「そんなに大騒ぎだったか?」 「・・・・・・僕の寮の3年とやりあったんだろう」 ああそういえば。納得したような顔を向ければ、セブは心底呆れた、と言う風に溜息をついた。現在は魔法薬の授業中、最近のセブ度の低さにあえてセブの隣に座ったおかげで、久々の会話を楽しんでいる。・・・授業中です。良い子はマネしちゃいけません。 「お前が殴り飛ばしたそうじゃないか・・・って、ちょっとまて角ナメクジはまだ入れるな!!」 「え、マジ?おおお、危ない危ない」 「危ないじゃない!!」 「んー、でもオレ、リーマスよりはマシなんだぞ」 「・・・」 慌ててセブがオレの手を止める。怒るセブにちょっとだけ反論すると、ちょうどその時後方からショッキングピンクの煙がもうもうと上がった。「わー!!」とか言う声ががいつもの馴染みのものばかりで、途端にセブが呆れの表情を作る。 「・・・なんだアレ・・・一体何を入れたんだ」 「甘いほうがおいしいよねーなノリでチョコでも入れたんじゃね?あいついっつも持ってるし」 「・・・・・・・・・・・う」 ドン引きした感じのセブはそれからしばらくショックで固まっていたけど、オレがまた変なことをしようとしたらしく、目が覚めたようにいきなりオレの大なべをオレの手からひったくる。 「トリカブトはまだだ!!」 「はーい」 魔法薬の授業はセブとやるに限る。オレは心底そう思った。 *** 「だからどうして忘れ薬が血のような真っ赤になってショッキングピンクの煙を出すんだね!!」 「ですから僕はちゃんと教えられたようにやりました」 「嘘を言え嘘を!!」 「・・・・・・・・・・ちょっと美味しい方がいいかな〜と思ってチョコを一枚入れましたけど」 「チョコを入れただと――――!!!???」 「僕のハニーデュークスの期間限定特大ホワイトベリーチョコレートをどうしてくれるんですか!!」 「自業自得だろうが!!」 魔法薬の先生とやりあうリーマスを、オレたちは遠巻きで見守る。おお、逆ギレしだした。リーマスさすがだ。 「ホントにチョコ入れたのかよ・・・」 口がひきつる。冗談のつもりだったんだけど・・・?オレの言葉にシリウス、ジェームズ、ピーターが一斉に深く頷いた。更に遠くで先生と話があるらしく待っているセブが、吐きそうな顔をしたのが見えた。聞こえたらしい。 「オレたちが止める間もなかった」 「途中までは珍しく上手くいっててね。油断したんだ」 「・・・・・・すっごくイイ笑顔だったよ・・・・・・」 遠い目をする3人。アレを直で見ていたのかと思うと同情する。 「どこからともなくチョコを取り出したんだ、リーマスは」 「だって・・・だって、特大チョコレートだ・・・教科書3冊くらいの大きさだったぞ・・・?あんなもん、どこに入れといたんだアイツ・・・」 しかも食べる気だったんだろ、持ってたってことは!!甘いものがあまり得意でないシリウスが、真っ青な顔で力説する。それを受けて、今度はピーターが暗い目をした。 「僕が見たのは、封を取って勢いよく大なべにチョコを放り込んだリーマスだったよ。ものすごくイイ笑顔だったよ」 その瞬間、その場が凍りついただろうことが見事に予想できて、オレの額から冷や汗が一筋滑り落ちた。イイ笑顔で特大のチョコレートを大なべにぶち込むリーマス。当たりに漂う異様な甘い匂い。・・・うわぁ。 「そうしたら、途端にリーマスの薬が不気味な真っ赤に染まってショッキングピンクの煙がもうもうと・・・そしてありえない甘さの匂いが・・・」 ジェームズがもはや淡々と話す。シリウスが思い出したらしく勢いよく口を押さえた。顔が蒼い。それも仕方ないような気がするけど。セブがさすがに同情の色を見せた。 「それでも自分たちの分はつくって提出できた僕らはすごいと思わないかい」 「うん誇りに思っていいと思う」 「ありがとう」 はっはっはっはと乾いた笑いが響く。そうしたら、いきなり肩をシリウスに思い切りつかまれた。鬼気迫る形相に一歩引く。 「・・・・・・てめぇよくも裏切りやがったな・・・」 「・・・・・・あの、シリウスさん?」 「よくもスネイプなんかと・・・スネイプなんかと・・・ッ」 「・・・シリウスー?」 ひゅっと息をのんだシリウスに、オレは恐る恐る顔を覗き込む。 「あんな目にあうくらいならスネイプとやったほうがマシだーっ!!!」 ・・・シリウスから、こんな言葉を聞くなんて。スリザリンのセブのほうがマシだとか、少し前にはありえなかった言葉だ。それは彼が変わったということか、それともリーマスの調合がそれほどまでに悪夢だったのか。オレの肩に顔をうずめてわっと泣きふす彼に、沈黙を返す。 要はアレか。4人から離れてセブと調合して、リーマスの悪夢の調合に運よく居合わせなかったオレに恨みを抱いてるとかそういうアレか。セブとやって本当によかった。 「でもホラ、うん、悪いことの後にはいいことがあるって言うじゃねえか、な?」 「・・・悪い事って続くって言わないかい・・・」 「そういうこと言っちゃだめだろジェームズ」 ぼそりと、彼にしては珍しく暗い声でそんな言葉が放たれて、オレはすかさずべしんと彼の頭を叩く。ピーターにいたってはもう顔から血の気がない。大丈夫かお前ら!? 「全くもう、魔法薬だって美味しいほうがいいじゃないか。ねえ、?・・・アレ、どうしたの?」 彼らとは対照的に血色のいい顔で、いつもの笑顔を見せるリーマスは、先生との対決を終えゆっくりとした足取りで戻ってきた。そろりと先生を見れば、負けたらしくぐったりと机に伏している。そこにそろそろと躊躇いがちに近づくセブ。がんばれ。 「次の授業はなんだっけ?あ、そうそう、コレハニーデュークスの期間限定のチョコなんだけど、食べる?」 「遠慮します」 ごそごそとローブを漁りだしたリーマスに、オレはコンマ数秒でそう返した。 ←BACK**NEXT→ 090322 |