「あのブラック家に生まれたくせに、グリフィンドールなんかに入りやがって!!くずが!恥を知れってんだよ!!」 「ッ・・・てめぇ!もう一回言ってみろ!!」 「シリウス!ちょっと、やめろってば・・・シリウス!?」 今度こそオレの静止の声も、止める手も、届かなかった。 スリザリンの3年生に殴りかかる彼を、オレは・・・止められなかった。 16. オレが泣いて泣いて泣きまくったハロウィン、揃って授業を1日まるまる休んだオレたち5人は、マクゴナガル先生に呼び出されお咎めを受け罰則を受ける・・・・はずだったけれど、見事に真っ赤に腫れあがったオレの目と涙でぐしゃぐしゃの顔を見て先生もぎょっとして、結局少々叱られただけで解放された。・・・何かあったと察してくれたらしい。けど実のところはタダの―――たちの悪いイタズラだったのだけど。 「本当にあいつらのせいじゃないのね?」 「本当本当!大丈夫、あいつらに泣かされるようなオレじゃないよ」 「・・・そうかもしれないけど」 リリーはもちろん真っ先に心配してくれ、オレが説明するより先に血相を変えてジェームズたちに怒鳴りこみに行った。というよりむしろ殴りこみに行った。・・・なんせ、慌ててジェームズたちの部屋に止めに行ったオレが見たのは、杖を構えるどころか素手でイスを振り上げるリリーと真っ青な(でもどこか幸せそうな)顔で両手を上げるジェームズと、それを止めるリーマスとシリウスとピーターの姿だったから。 「でも、腫れが引いて良かったわ。氷を出したかいあったわね」 「うん、助かったよリリー。ありがとう」 「全然構わないわ。まったく・・・綺麗な顔が大変なことになってたのに」 憤慨するリリーに苦笑を返したのは、もう数日前のことだ。 確実に季節は進み、どんどんと冬は色を増していく。ハロウィンは本当についこないだだったのに、着々とクリスマスも近づいていく。 事件が起きたのは、そんなある日だった。 談話室でくつろぐオレに、シリウスがぱぁん!と両手を合わせて頭を下げる。なんだよお前。 「!頼む!!なぁ宿題手伝ってくれ!」 「はぁ―――――?っていうかシリウスが終わってないなんて珍しいじゃん、どしたの?普段はピーターのを手伝うくらいなのに」 「ジェームズのやつがオレの宿題にかぼちゃジュースぶちまけやがったんだよ!で手伝ってくれると思ったらアイツ、こないだの魔法薬の授業でやったイタズラの罰則だとかで先生につかまっちまったんだよ!」 「あー・・・アレね」 イタズラというのは先生が煎じていた魔法薬の中に、禁じられた森の端っこで摘んできた薄赤い植物を入れた、というもの。いやいや、ソレが、こんな大事になるとは思わなかったんだよね。まさか薬が一気に気色悪いオレンジ色に発光して天井近くまで大噴出するなんて。 もちろん隠れる暇も席に戻る暇もなく、公平にジャンケンした結果の特攻役だったジェームズがばっちり先生につかまり、グリフィンドールは30点減点。でもグリフィンドール生はむしろオレたちを褒め称えた。なんせ、あのスリザリンの寮監がぴかぴか光るオレンジ色のアフロヘアーをその頭に乗っけてたんだから。 ちなみにオレたちもしっかり共犯として自己申告したんだけど、あの意地悪い先公は実行犯のジェームズにだけみっちりとした罰則を与えた。オレたちには羊皮紙30枚分のレポート発行だけ。でもそれくらいならすぐに終わるわけで・・・ 「うーわー。さすがに30枚も一晩でやれるわけないじゃんシリウスー・・・お前バカだろー・・・」 「うるせー!!分かってるわ!・・・くっそ、せめて3日あれば・・・」 ぶつぶつと文句を言うシリウスを見て、オレは確信した。 ジェームズ。ワザとだ。シリウスはすぐに終わらせることができるからレポートは彼にとってのなんの罰にもならない。それを分かってて、提出日前日なんてとんでもない日に彼のレポートを台無しにした、ということだろう。 そりゃ自分だけ罰則は嫌だろうけどね。あのいつもの笑いを浮かべて先生のもとに向かうジェームズを思い浮かべる。・・・まぁ、あいつのことだからなにかしでかすぞ。多分。 「リーマスとピーターは?」 「リーマスはあの、月一回の病院通いだ。ピーターは自分ので手一杯。お前は終わってるだろ?」 「終わってるけどさ。あーもう、しょうがないなぁ」 溜息をひとつついて、オレは一度自分の部屋に戻って仕上げたレポートを取る。そして談話室に戻ると、ほっとした顔のシリウスの首根っこを捕まえると、図書室まで連行しようと扉を開けた。 「ところでその『罰則レポートのかぼちゃジュースがけ』は修正不可能なのかよ?」 「その言い方は料理みたいで妙に腹が立つからやめろ。しかもマズそう。・・・ああ。挑戦したんだけどな・・・。ジェームズが」 「自分でやれよ」 「うるせぇ、アイツが『わ!ごめんよ、シリウス!今直すから待っててくれ!』って言うから・・・」 どうやら完全にひどい状態にされてしまったらしい。オレたちはまだあまり魔法を知らないし、大した修復が出来るとは思えないのだけれど。 「あのバカ、ジュースのシミを消し去るどころか文字まで真っ白にしやがった」 「・・・・・・」 あ、もう完全に確信犯ですね、ジェームズさん。 「しかも『あ。ごっめーん☆』とか言いやがって」 ウィンクに舌だしブリッコで。 「その後、弾丸みたいな速さで逃げやがった」 そりゃー、ムカつくわ。 「ご愁傷様」 「ふざけんな」 暗い表情のシリウスだったけど、オレは対照的に思わず横で噴き出した。それにうらみがましい目を向けてくるシリウス。けど悪いけど笑いが止まらない。残念だったね、シリウス。あーやべ面白い。 「・・・っ、ひー・・・。ところでピーターはもう図書室?」 「ああ。多分」 「いひうふえへへへへへ」 「キモい」 「ふはははははははははははは」 「魔王か」 「ははははははははひざまずくがいいこの私に!」 「なんでだよ!」 「全世界は私のもの!!」 「もうお前黙れ!!」 騒がしいな、オレら。自分でやっといて何だが。けど周りもなんか、もう「またやってるよ」みたいな目しか向けてこない。え、なんかすみません。でもやめないから! くっそ、リーマスみたいな止めるヤツがいないと本当にオレらノンストップだ。早く帰ってこい、リーマスー。 「大魔王様第一の家来はシリウスな!光栄に思え!!」 「いやいやいやいや家来とかお前なせめて国務大臣ぐらいにしといてくれ」 「どっちにしろ家来じゃねえかよ」 「じゃあ大魔王国を狙う天魔界最高位の皇子ってどうよ」 「お前が皇子は似合いすぎてシャレにならねえよせいぜい皇子の・・・皇子の・・・、・・・・・・毒見役?―――いや似合わねえな」 「毒見とか死んじまうじゃねえか!!」 悲鳴のような声を上げるシリウス。うん、でも皇子は似合いすぎるが毒見役は似合わねえな・・・確かに。うんうんと頷きながら、オレたちは図書室に向かう。校内はうるさいけどオレたちのうるささは恐らく3本の指に入るくらいのやかましさじゃないだろうか・・・。理性ではそう思うけど、生憎止まらない。 そして3度目の角を右に曲がったとき、あまりに話に熱中しすぎて、目の前の人たちに気づかなかった。とんでもない勢いでぶつかったシリウスと上級生と思われる緑色のネクタイの生徒に、思わずオレの表情がひんまがったと思われる。顔の筋肉が勢いよく引きつった。 「てめェ!気をつけろよ!どこ見やがってんだ!」 「―――あ・・・スミマセン、」 「! おい、コイツブラック家の長男だぞ」 傍らにいた倒れたスリザリン生の友達らしいもう一人――もちろん彼もスリザリン――が言う。反射的に謝ったシリウスの表情が、瞬時に憎悪の色に染まる。殴りかかるんじゃないか、そんな雰囲気にオレはどきっとしたけれど、シリウスは何も言わずに立ち上がって踵を返してオレの方を向く。 「行くぜ」 「・・・あ、うん」 「―――ッてめぇ!!」 怒鳴り声が背中に迫る。ちょっと待ってよ。今ここにはジェームズもリーマスもピーターもいない、オレしかいない。シリウスが爆発したら、オレは。止められる自信なんて、ない。だから、お願いだから。これ以上はもう、シリウスを、刺激しないで。 「無視してんじゃねえよ!そうだろ?シリウスくんよ――――」 オレのそんな思いとは裏腹に、その倒れたスリザリンの上級生は、立ち上がってご苦労なことにわざわざ駆け寄ってシリウスの肩を掴んで自分の方に振り向かせた。その手を思い切り振りきって、シリウスは噛みつかんばかりの表情で牙をむく。 「ブラック家のご子息が何たる様だ!さぞや御母上も悲しまれていることだろうな」 「本当にブラック家のシリウスか!なるほどな、変わりものと聞いてはいたが」 「てめぇらに何が分かる!!」 「シリウスっ!!」 叫ぶシリウス。だめだ。もう、止まらない。 ←BACK**NEXT→ 090315 |