いらいらしているのが傍目からでもすぐに分かる。そんな表情のシリウスをちらりと横目で見て、僕は軽く息をついた。全く、スリザリンと何があったかなんて知らないけれど、もっと楽しめばいいのに。そりゃあ僕だってスリザリンは嫌いだけど、こんな楽しいことに水を差すような真似はしないよ?だって今日はハロウィンじゃないか! 15. リーマスとピーターがシリウスの横にぴったりついて立っている。なんて世話が焼けるんだろうね――そんなことを考えていたら、逃げるを容赦なく突き飛ばすリーマスの姿が目に入る。抗議の叫びをあげて、そのまま緑のスライムに飲み込まれるは、直後ぼん、と煙が上がった中に消える。 「・・・・・・」 「リーマス・・・・・・・お前・・・・・」 「え?なに?もとはといえばシリウスがいけないんだよ?」 「スミマセンデシタ」 ピーターが青ざめた顔でリーマスを見て、さすがのシリウスも呆然とリーマスを見る。当のリーマスはといえば、にっこりと笑みを浮かべてシリウスを睨む。目が笑ってない。 「さて、一体どうなるんだい?」 「黙って見ていろ」 ディサーダに聞けばそっけない返事が返ってくる。ゆっくりと煙が晴れると、そこにはがただぺたりと座り込んでいた。唖然とした空色の瞳が僕らを映す。 「・・・・・・・失敗かい?」 「―――――いや?」 そのとき、空色の瞳が大きく揺れた。 「大成功だ」 悪どい笑みのままの彼はそう言った。その言葉に反応するように、の瞳から、ぼろぼろぼろぼろと大粒の涙が零れていく。 「・・・ッ、ふ、ふえぇぇ・・・・・ッ!リーマス、ひどいよぉ・・・っ!!!」 「えっ!?」 「た、助けてって・・・言ったのに、ぃ・・・っ!ひっ、く!・・・ふ、ぅぇえぇ・・・!」 「え、あの、、あのね?」 泣きだしたに恨みごとを吐かれ、さすがのリーマスも慌てる。ピーターはつられて泣きそうな顔をしているし、シリウスに至っては完全に硬直状態だ。やれやれ。まぁ、僕だってあのの泣き顔をまさか見るハメになるとは思わなかったから、顔が引きつってるんだけど。 「うえぇぇぇん・・・!!!」 「え、えぇ!?ご、ごめん!ごめんね!」 「うわーん!」 「ごめんなさい―――!!!」 本格的に大声で泣き出したに、リーマスも動揺しまくりでうろたえる。気がつけば犯人のディサーダとその愉快な仲間たちはすでに姿を消していた。 「あーあ。ほら、?大丈夫かい?」 「ふえぇぇぇ」 「リーマス・・・自業自得かも知れねぇよコレは」 「え、いやだって、その!」 「、泣きやんでよ〜〜〜・・・ふぇ、」 「ピーターお前まで泣くんじゃねえ!」 目を真っ赤にしてぼろぼろ泣き続ける少女とそのまわりでとりあえずオロオロする僕ら。どう考えても僕らが泣かしているようにしか見えない。その証拠にさっきから、通り過ぎていく先輩たちからの目が痛い。しかも泣いてるのは、アオト・の妹だ。―――アオトさんが知ったら―――、その瞬間、僕はざっと自分の血の気が下がるのが分かった。 「しまった!!!早く泣きやんで!」 「なんだよジェームズ、どーしたんだよ」 「早く泣きやんでほしいのはもちろんだよ!ああもう、ごめんって!!」 「そうじゃないよ!先輩たちにはあのアオトさんと知り合いの人もいるんだ、このどう考えても僕らが泣かしてるみたいな状況がアオトさんに伝わったらどうなるか!」 「――――げ」 3人が見事に固まった。それから弾かれたようにをなだめにかかる。もちろん僕も思いつく限り頑張った。 「!ほらリーマスも謝ってることだしもう泣きやんだらどうだい!?」 「ごめんごめんね、今度ハニーデュークスの最高級チョコレートをごちそうするから!」 「そろそろ泣きやまねえと泣き顔が素顔になっちまうぞ!」 「泣かないでよ〜〜〜〜」 「君が泣きやまないとピーターまで泣き出すから頼むよ!」 「てゆーかそろそろ授業が始まっちまうぞ!」 「もう手遅れだよー、僕ら遅刻〜〜〜!!」 「いっそサボっちまえ!だから泣くんじゃねえピーター!」 「魔法史の授業だっけ、ならいいよねどうせ僕ら寝るだけだもんね!」 「それより僕ら先生に見つからないのかいこんなところにいて!」 「うわああマクゴナガル先生とかにみつかったらまずいよ〜〜〜!」 「フィルチでもまずいだろ!」 「あ――――もうお願いだから泣きやんで!!!」 「僕が悪かったですほんとごめんなさいごめんね」 「どうしたら泣きやんでくれるんだい―――!!!」 思いつく限り頑張った。 僕とシリウスは二人で漫才したり、踊ったり、リーマスはピーターで腹話術をしたり・・・他に何をしただろう・・・とにかくよくわからないけど頑張った。それでもは泣きやまない。彼女はただしゃくりあげるだけだ。あとからあとから雫が頬を伝う。ああもうどうしたらいいんだい! 「・・・!?―――貴様ら!」 「あ・・・セブルス・スネイプ!?」 「ッてめぇなんのようだ!」 「よく来てくれたこの際泣きやむなら君の助けでも借りようじゃないか!!」 シリウスが噛みつくように吠えたけどそれを咄嗟にリーマスがにこやかに押さえつけ、僕は晴れ晴れとした笑顔で手を差し出す。気味悪い、とでもいうように少し身を引いたスネイプだったけれど、泣き続けるの姿に、途端に剣呑な表情をその顔に浮かべる。あああもう面倒くさいことになる! 「貴様ら一体何をしたんだ!」 「いやいや違うって僕らが泣かしたんじゃないんだよそうとしか見えないけど!」 「泣きすぎでの目が真っ赤じゃないか!!」 「え!もしかして授業終わっちゃった・・・ってことは1時間の間泣き続けてたの!?」 「1時間!!??―――返答次第ではただではおかないぞ貴様ら!!」 「話を聞いてくれスネイプ!頼むから!!」 どうにかこうにかほぼ無理やり事の次第を説明すると、信用できない、とばかりにスネイプは鼻を鳴らす。仕方ないかもしれないけど本当なんだよ!!困り果てたその時、が泣きながらスネイプを呼んだ。 「セッ・・・、セブ・・・!ひ、っ、く!」 「!!!」 「ジェ、ジェームズたちが・・・っ、言って、るのは、本当、でっ、」 「なに!?」 「お、オレ、もう全然ッ、怒ってない、し、泣きたくも、なぃ、の、にッ」 「・・・・・・」 「な、なんッ、か、涙が・・・ッ、止まんなくて!―――ッ、た、助け、て!」 「―――わかった」 じっとその訴えを聞いていたスネイプは、静かにうなずくと自分の荷物をまとめてその場を去ろうとする。思わず僕はその腕を捕える。 「―――どうするんだい」 「・・・貴様らの話は本当なんだろう。ならば、ディサーダが使ったのは『泣き薬』だ」 「『泣き薬』・・・?」 「その名の通り飲んだものを泣かせる薬だ。本来なら5分程度の効き目なのだが、摂取量が多かったのだろう。緑色のスライム―――それも大なべ一個分もかぶったらしいからな。気化した成分を思い切り吸い込んだのだろうが。―――離せ。解毒剤を作りに行く」 「・・・何か手伝えることは」 「ない。―――ただし、そろそろここを離れろ。1時間もここにいたのだろう、人目につきすぎだ。寮の談話室にでもいるべきだ」 それだけ言ってスネイプはすたすたと廊下の陰に消えた。そのあと、悪態をつくシリウスをなだめて泣きじゃくるをつれて談話室に戻り、2時間後、ふくろう便で届けられた薄い桃色の薬を飲んで、ようやくは泣きやんだ。そのころには泣きすぎで喉もカラカラ、頬はカピカピ、目は真っ赤でひどいことになっていたけれど、僕らはそれで3時間以上ぶりにようやくの笑顔を見ることができた。―――それにしてもディサーダ。イタズラにしても、少し度が過ぎるんじゃないかい・・・?けれど、は晴れ晴れとした表情でこう言った。 「なんか久々に大泣きしたら疲れたけどスッキリした!ディサーダに感謝だなーっ」 「お前それでいいのかよ!?」 「んー、だってハロウィンだし、怒ったってしょうがないじゃん」 それだけ言って、でもさすがに疲れたらしくて、はそのまま談話室で眠ってしまった。けれど、普段見れない顔を見れたのはラッキーだったのかもしれないね?そう言うと、リーマスは苦々しげに笑った。まぁ、謝り続ける羽目になったリーマスも大変だっただろうけど。―――さて、ハロウィンの御馳走が出る時間になったら、起こしてあげないと。その日僕らは、結局、一日授業を完全にサボってしまったのだった。 ←BACK**NEXT→ 090223 |