試験は無事に終わり、残すはクィディッチ杯。今年こそは絶対に、優勝杯だ!





 135.





 スリザリンは既にレイブンクローに一度負けている。けれど点数差はほとんどなかったため、現在の寮内順位はグリフィンドールとスリザリンが並び、レイブンクローとハッフルパフが3位争奪戦で動いている状態だった。
 近年でも久々に実力が均衡しているとジェームズは話す。


「だからね、ホントに―――10点でもヤツらに与えるわけには行かないんだ。頼むよ
「分かってるよ!」
「頼むから10点でも多く稼いでくれ、アスター、メイファ、ギル」
「は、はい!」
「これで何度目なの!?」
「しつこいぞジェームズ!!」
「チェイサーとキーパーをしっかり護ってくれ、エドガー、ディック」
「言われずとも!」
「もう耳にタコだよ!!」


 うんざりしたような声がチームメイトから次々と上がる。ジェームズは最近ずっとこんな調子で、作戦会議やら練習やらの度に同じ言葉を繰り返す。ディックではないけれどホントに耳にタコが出来る程だ。うるさい。いい加減。
 いつもお調子者のキャプテンも、優勝杯がかかっていると形無しらしい。ていうか勝利に関してはジェームズの働きが一番の鍵なんだけれど?


「ジェームズこそ、頼んだよ」


 オレの言葉に、12対の視線が降り注ぐ。


「――――もちろんだ」


 今年こそ、絶対に優勝杯を。







*





「――――で、ほんとに優勝するとはね」
「ギルとエドガーが男泣きだよ。びっくりしたよオレ」
「あの二人は今年で卒業だからね。よかった、貢献できて」


 ジェームズがスニッチを勝ち取った瞬間だ。競技場が爆発せん勢いで沸いて、箒から降り立った途端に彼はもみくちゃになった。まず我らがグリフィンドール・クィディッチ・チームが次から次へとジェームズに抱きついた。エドガーとギルの最上級生ペアが顔をぐっしゃぐしゃにして、メイファが綺麗な髪を振り乱して、ディックがまだ現実を把握できずにきょろきょろして、アスターはちょっと遠くで遠慮しながら顔を覆っていた。オレもぼろっぼろに泣きながら叫んでいたのでなんともアレなのだけれど。 


「お世話になったクライスとアドルフは優勝させてあげられなかったから、ホッとしたよ」
「ありがと、キャプテン」
に言われると照れるなぁ」
「なにをいまさら」


 それから、泣きわめくオレたちにグリフィンドール生が飛びついてきて。シリウスは放送席で机を踏み台にしてマイクを振り回して延々と絶叫していたしリーマスとピーターもその隣で狂喜乱舞、マクゴナガル先生ですら本気で泣いていたくらいだから、グリフィンドールにとってどれくらいの悲願だったことか。
 何を隠そう、≪救世主≫主要世代の卒業後、グリフィンドールは一度も優勝していなかったのだから。万年2位と言う結果に甘んじていた。最後の世代と言われたクライスがどれだけ悔しかったことか。


「アスターが嬉しそうに報告しに行ってたよ」
「よかった」


 アスターは、クライスの卒業と入れ替わりで入ってきた彼の弟だ。プレッシャーもあっただろうなあ、と考える。オレもアオト兄と入れ替わりで入ってきたから、なんとなく気持ちは分かる。


もありがとう。さすがだね、とうとう無得点」
「うん。ちょっとはアオト兄に追いつけたかな」


 何年も無得点記録を取りつづけたあの人には敵わないけれど、それでも少しはあの背中に追いつけるかな。いつか並ぶことができたら。そうしたら、少しは恩返しになるのかな。オレの成長を、きっと今では、一番楽しみにしてくれている人。


「ねえ。――――来年、僕たちはどうなるんだろうね」
「……うん」


 あと、1年。最後の一年をどう終わらせるか。
 オレは談話室に屍のように転がる大好きなみんなを見た。酔っ払って転がる面々は幸せそうで。――――ああ、やっぱりオレがやりたいことは。


「お疲れ様、ジェームズ」
「こちらこそ、お疲れ様。


 お互いにバタービールの瓶を乾杯して、オレたちは笑った。











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